俺は100歳まで生きると決めた
836円(税込)
発売日:2024/04/11
- 新書
- 電子書籍あり
まだやりたいことがある。だから若大将は生きる。年齢を重ねて再びチャンスを掴み、命の危機も乗り越えた、最高の幸福論。
2022年末のNHK紅白歌合戦出演を最後にコンサート活動から引退した加山雄三は、ある決意をする。「俺は100歳まで生きる」と。新たな音楽活動に挑戦して本人が「攻めに転じた」という70代から愛船の火災と病に見舞われた80代、そして未来を見据えた余生まで。自身を育んだ茅ヶ崎の海や強い絆で結ばれた友たちに思いを馳せながら、永遠の若大将が語る幸福論!
書誌情報
読み仮名 | オレハヒャクサイマデイキルトキメタ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 192ページ |
ISBN | 978-4-10-611038-2 |
C-CODE | 0273 |
整理番号 | 1038 |
ジャンル | 音楽 |
価格 | 836円 |
電子書籍 価格 | 836円 |
電子書籍 配信開始日 | 2024/04/11 |
書評
マイクの前の若大将
私がパーソナリティを務めている文化放送「くにまる食堂」のコーナー番組に、昨年の7月から今年の5月まで、ほぼ月1回のペースで加山雄三さんにご出演いただきました。番組名は、若大将が自身を鼓舞するためにつけた、「俺は100歳まで生きると決めた」。そこで加山さんが話されたエピソードを元に、ご本人へのロングインタビューを加えて編集したのが、この同名の書籍なのです。
ちょうど私が小学生の頃に若大将ブームが起きて、ちょっと年上のお姉さんたちは加山さんの歌に夢中でした。自分自身も、映画館で「大学の若大将」や「エレキの若大将」を観た記憶があります。
その加山さんと初めて仕事でご一緒したのは、かれこれ20年近く前になりますか、かつて西伊豆の堂ヶ島にあった加山雄三ミュージアムからの生放送。その現地レポートを担当したのが私だったのですが、4時間にわたる番組の中で、強く印象に残った出来事がありました。
ミュージアムには鉄道模型の大きなジオラマが展示されていて、CMの間に私がそれを覗き込んでいたところ、加山さんが実際に模型を走らせて下さったんです。面白がった私が、思わず「ただ走っているだけじゃないですよね」なんて煽ったからか、加山さんは本気になってしまった。「この列車とあの列車を交差させよう」とか、「このタイミングでここから見る景色がいいんだ」とか、こだわりの操縦が始まったんです。いつの間にかCMが終わっていて、「加山さん、本番が始まってます!」と声をかけても、もう止まりません。スタッフは大慌てでしたが、私は大スターの意外な素顔、ただの少年のような一面を垣間見ることができて、とても嬉しかったのです。
それから私の番組のゲストとして、何度か加山さんとお会いする機会はあったのですが、その人生について詳しくお話をうかがったのは、今回の月1の収録が初めてでした。
マイクを前に加山さんと収録を始めると、どうしても子どもの頃、本名の池端少年の話になってしまうのです。この書籍でも詳しく書かれているのですが、池端少年を育んだ茅ヶ崎の海のエピソードをいきいきと、本当に楽しそうに話される。
お父様が昭和の映画界を代表する名優でしたから、さぞかし食卓には豪華で美味しいものが並んでいたんでしょう、と話を振ると、「そんなことない。自分で獲って食べてたんだよ」と返された。海に行けば貝やら海藻やら何でもあり、それを家に持って帰っていたそうで、お母様に「こんなに獲ってきて、どうするの?」と言われても、自分で佃煮にして、家族に振舞っていたというのです。中学生になると、あの烏帽子岩まで泳いで渡り、アワビやサザエも獲っていたとか。今なら大問題でしょうが、70年以上も前のこと、当時は大目に見てもらっていたのでしょう。ある回で「もし芸能界に進んでいなかったら、どんな大人になっていたんでしょうね」と尋ねた時には、「決まってんだろう、俺は漁船の船長になってたよ」と即答されました。
特別番組の収録で、今年の4月まで期間限定でオープンしていた加山雄三ギャラリーにお邪魔した時、私は一枚の油絵に吸い寄せられました。もちろん作者は加山画伯で、夏の海を背景に一軒の家が描かれている。私には絵心なんてまったくないのですが、空と海の青色が、どうすればこんな色になるんだろうと不思議に思って、その絵から目が離せなくなった。すると、すぐ隣に加山さんが来られたので、思い切ってその疑問をぶつけてみたんです。加山さんは笑みを浮かべて、こう口にされました。「よく気づいたな。あれを出すのに苦労したんだ。あの青は、俺も好きなんだよ」。そして「青を出そうとして、そのまま青を出しちゃダメなんだ。いろんな別の色を混ぜたり、塗り重ねたりして、空の青、海の青を作り上げるんだ」と。
若大将といえば、頭脳明晰でスポーツ万能、とにかく明るくてかっこいい、そんなイメージを抱くでしょう。でも、ラジオと本書でご本人が包み隠さず語った人物像は、そんなシンプルでわかりやすいものではありませんでした。泥臭い少年時代から、金持ちのボンボンと思われることへの反発、望みを叶えるためのあくなき努力、多額の借金や突然襲われた病魔まで、まさに画伯が作り出した青のように、いろんな色が重なった若大将が描かれています。
タイトルの「100歳まで」と言わず、加山さんにはもっともっとお元気でいていただきたい。そしてまた、マイクの前でお会いしましょう。
(のむら・くにまる フリーアナウンサー)
ヒーローは終わらない
なんて大胆なタイトルなんだろうと読み始めたら、自分の知らない凄い加山さんに出会ってしまった。何が凄いのか? 平成19年70歳を迎えた時、加山さんは攻めに出ると宣言した。若いうちは活力というエネルギーに溢れているので無理が利いて自然と前に進めるが、歳を取ると攻めるという意識を強く持たないと前に進めなくなる。そこで、あえて自らを鼓舞し、70代を攻めの姿勢で生きると宣言したというのだ。そして有言実行をスローガンにした結果、なんと70代が一番多忙になったというから凄い。それは高齢者として社会における能動的な生き方や、積極的な在り方を示したことになる。もちろん誰しもが出来ることではないが、すべての事柄を年齢のせいにしてはいけないという教訓にはなり得たと思う。
その背中を見ていつも感じていたのは、音楽は年齢でやるものではないということだ。コンサートのリハーサルでは本気で2時間余りも唄い、唄えば唄うほど声が出てくるから凄い。まさに年齢を超越した感があるが、リハであっても手を抜かず、全力で音楽に向き合う姿勢は尊敬に値する。
さらに音楽だけではなく、絵画、船の建造から、物理学など技術と知識の範囲が半端ない。その幅広い好奇心は生い立ちも含め、育った環境によるものだと本書を読んで合点がいった。
パブリックイメージの加山さんは湘南ボーイというスマートな印象だが、それに反して慶應高校時代は3年間五分刈りで通すほどの硬派だったとか。加えて、幼い頃は体が弱かったというのも驚きだ。健康イコール加山雄三という方程式は幼少期にはまだ成立していなかったのだ。そのため家族共々茅ヶ崎に引っ越し、湘南の海との出会いにより後の若大将を形作る環境が整う。もし幼い頃、加山さんが健康で、頑強な体の持ち主だったら……湘南の海に出会っていなかったら……映画「海の若大将」や、名曲「海 その愛」は世に出なかったかもしれない。物事の偶然と必然を加山さんの半生で感じることが出来たのはひじょうに興味深かった。
反面、山あり谷ありの人生の落差も凄まじい。ホテルの倒産、莫大な負債、スキー場では圧雪車に轢かれ命の危険にさらされたこともあった。もっともそれは大事故にもかかわらず、自前の治癒力で手術もせず治してしまったというから、まさに超人ヒーロー級の肉体だ。ヒーローと言えば小五の時、映画「怪獣大戦争」と併映の「エレキの若大将」を観てエレキギターに目覚めた瞬間から、自分の中で加山さんはずっとゴジラと並ぶヒーローだったことをフト思い出した。
そんな加山さんと、ヤンチャーズにロックチッパーズなど、あらゆる場面で共演させて頂いた経験はミュージシャンとして大きな財産になった。その半生を辿るだけでも、ちょうど今年古希を迎えた自分にとって、新たな70代を自分なりに生き抜くための指針となる一冊になった。もちろん加山さんと同じようには生きることは出来ないが、その生き方を感じて自分なりに頑張ることは出来るはずだ。
そう言えば以前、加山さんのトリビュートアルバムで「夜空の星」をALFEE風にアレンジしたことがあった。張り切り過ぎたのか、爽やかな湘南サウンドを大仰なハードロックに変貌させてしまったのだ。冷静になって聴くと、元のイメージとあまりにもかけ離れていることに若干焦った。そこで恐る恐る御本人にお聴かせしたところ、瞬時に最高だと笑顔で受け入れてくれたのだ。それこそ、音楽への愛情と柔軟な理解力が醸し出す包容力のなせる業だろう。そういった人間力の源が本書にはちりばめられている。
100歳まで生きると宣言した加山さん、あるとき「なんでこんなに長生きしてるんだろう?」とつぶやくと奥様は「反省するためでしょ」と即座に切り返してきたという。加山さんは思わず噴き出したというが、このやりとりだけで、僭越ながら素敵な夫婦関係が見える気がした。御本人もカミさんは神様だとおっしゃっているぐらい絆は強固であり、数々の困難をお二人で乗り越えてきたからこその今なのだと思う。夫婦円満の秘訣は朝ご飯というのも加山さんらしい。一日の最初の食事を一緒にとることで思いやれるようになり、夫婦仲はより円満になるというのだ。何か夫婦の問題で思い当たる方は、実践してみるのもよろしいかと……。
ステージ歌手というキャリアを終えた加山さんだが、これですべてが終わったわけではない。音楽で言えば、まだ新曲が16曲もあるというのだ。さらに先日、加山さんのマネージャー氏から、1960年代のオープンリールが大量に出てきたので、それをデータ化しているという情報も得た。そう考えると、加山さんのミュージックライフは、まだまだ終わっていないのだ。100歳という年齢が現実味を帯びてきた。ステージで歌声を聴けないのは淋しい限りだが、未来の加山雄三像に思いを馳せると、思わずつぶやいてしまった……幸せだなぁ……。
(たかみざわ・としひこ ミュージシャン/小説家)
著者プロフィール
加山雄三
カヤマ・ユウゾウ
1937(昭和12)年神奈川県横浜市生まれ。俳優、歌手。慶應義塾大学法学部政治学科卒。1960年にデビュー。「君といつまでも」「海 その愛」などヒット曲多数。主演映画に「若大将」シリーズなど。2021年度の文化功労者に選出された。