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ルポ 海外「臓器売買」の闇

読売新聞社会部取材班/著

902円(税込)

発売日:2024/04/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

杜撰な移植手術。偽造パスポート。ドナーへのカネと臓器ブローカー。動き出した捜査機関。2023年度「新聞協会賞」を受賞した調査報道の全貌!

「絶対に許せない。どんな団体なのか調べてほしい」。二千万円以上を支払った被害者の一人は、憤りをあらわにした。キルギスやベラルーシなど海外を舞台にした「臓器売買」疑惑。約十人の記者たちは地を這うような取材を重ね、事件の構図をあぶりだし、ついに疑惑のカギを握る人物を直撃――一面を飾ったスクープは、社会に大きな衝撃をもたらした。優れた報道に与えられる「新聞協会賞」を受賞した調査報道の全貌。

目次
はじめに
第一章 キルギスへ渡った五〇代女性
「心配なんだけど……」/検索したNPOに依頼/「親族間の生体移植」を装う/目が覚めたらホテルに/「あと一時間遅れていたら、死んでいたかも」
第二章 取材着手
警視庁クラブの朝/「徹底的に調べてほしい」/なぜ内容証明郵便が?/「どこの国に行こうが、袖の下なんですよ」/NPOスタッフの証言/一万五〇〇〇ドルが「ドナー費用」?/「法に抵触の可能性」/二〇〇八年のイスタンブール宣言
第三章 疑惑のNPO法人と録音データ
ホームページに「私たちの活動」/実質の代表者/中国での移植と「コロナの壁」/打ち合わせの音声データ/ドナーに渡るお金/謎のトルコ人「コーディネーター」
第四章 ウズベキスタン、キルギス、トルコへ
タシケント国際空港/病院の医師が証言/顔立ちが日本人と似たキルギス系住民/ウクライナ人ドナー、エレナ/イスタンブールへ転戦/現地メディア記者に接触/イスタンブール警察の元幹部に問う
第五章 社内審査、そしてスクープ
適正報道委員会/NPO理事長を直撃/「臓器売買に関与していないですか?」/質問状への返信/神奈川新聞の動き/ひそかに動き出した機関
第六章 「口が裂けても言ってほしくない」実態
続報、続々/偽の脳死証明書/スリランカに「一〇人送る」/帰国後に通院、入院ができない/関係医師の釈明/臓器の「品質」をアピール/再びNPOを直撃/「今まで一〇億円以上をカバンに入れて中国へ……」
第七章 法の不備とドナー不足
一九九七年の臓器移植法制定/二つの問題/東京都によるNPO認証/条件が「世界一厳しい」/「国内で手術を受けられるなら」/学会が動く/異例の共同声明
第八章 NPO理事長の逮捕
突然の一報/ベラルーシルートの三三〇〇万円/警視庁が記者会見/立件の三ポイント/再逮捕と起訴/患者名簿に約一五〇人
第九章 国会も動き出した
首相答弁/厚生労働省調査で分かった「五四三人」/仲介団体は複数存在/自民議連の提言/早期共有を二〇二四年度に/維新の法改正案
第一〇章 口を開いた男
まだ接触できていない人物/釈放されたのか?/罪状はやはり臓器売買/現れた、恰幅の良い男/「非合法でも、書類で合法になる」/何人の日本人に関与したか/さらに追及/苛立つハッサン/開始から五時間五六分/警察・検察当局への取材
第一一章 刑事裁判
初公判で無罪を主張/新たな事実も/「僕は大勢の人の命を助けてきた」/論告求刑/実刑判決と控訴/記者が握りしめていた拳
終章 救えぬ命
ドナーが見つからなかった二歳児/子どものための支援団体/億単位になる費用負担/心臓と左右の肺、腎臓が患者五人へ/アメリカ、韓国の「命のリレー」/患者たちはいま
おわりに

書誌情報

読み仮名 ルポカイガイゾウキバイバイノヤミ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 240ページ
ISBN 978-4-10-611039-9
C-CODE 0236
整理番号 1039
ジャンル 社会学、思想・社会
定価 902円
電子書籍 価格 902円
電子書籍 配信開始日 2024/04/17

インタビュー/対談/エッセイ

「新聞協会賞」を受賞した調査報道の内幕

佐藤直信

「果報は寝て待て」という。
 職場のデスクを離れ、会社内の休憩スペースで居眠りをしていたとき、ポケットの中でスマホがぶるぶる震えた。上司の社会部長からだ。
「どこにいるんだ? 協会賞、決まったよ。おめでとう」
 10人を超える記者たちと取り組んできた海外での「臓器売買」をめぐる調査報道で、新聞協会賞の受賞が内定したとの一報だった。この日に審査があることはわかっており、落ち着かないので、ことわざに倣って寝て待っていたのだ。
 決して賞のためにペンを握っているわけではないが、新聞協会賞をひとつの目標とする記者は少なくない。数多ある記事の中から年に一度、優れた報道に贈られる。栄誉なことである。
 本書は、そのような新聞協会賞を2023年度に受賞した報道の内幕を描いたものだ。
 途上国などの海外で、貧しい人が二つある腎臓のうち片方を売り、お金を持った日本人の患者が生体腎移植手術を受ける。そうしたケースが存在することは以前から知られており、テーマ自体にそれほどの目新しさはないかもしれない。
 しかし、取材班は腎臓ひとつ1万5000ドル(約170万円=当時)だったことや、ドナーのウクライナ人女性が自らの腎臓と引き換えに受け取った金を娘の学費に充てたこと、この女性を日本人患者の親族と装うために偽造パスポートが用意されたことなど、重要な事実を次々と突き止めた。海外での臓器売買の実態を、ここまで詳細に明らかにした報道はなかったと評価された。
 足かけ2年以上にわたる取材を担当したのは、30歳代を中心とする事件記者たちだ。
 ある記者は住宅街の路上で自動販売機の陰に潜み、犬の散歩から帰ってきた関係者に声を掛ける。別の記者は海を渡り、国際的な臓器ブローカーの男を直撃した。「恐れることなく記事を書けるのか?」と記者を挑発してくる男との対決は、読み応えのある内容になっている。
 警察や行政など当局の情報に拠らず、埋もれた事実を取材で掘り起こし、記事を通じて社会を動かしていく。時間のかかる作業だが、記者たちはペンの力で世の中がより良くなると信じている。
 現場で何を考え、どう行動したか、記者たちの息づかいを感じてもらえると思う。昭和の人気ドラマ「事件記者」に胸を躍らせた世代から、これから報道の世界を目指す若者まで、ぜひ本書を手に取ってほしい。
 本稿の筆者もかつては一線で事件を追いかけていたが、正直に言えば大した記者ではなかった。比べものにならないほど優秀な後輩たちのおかげで、価値のある調査報道に携わることができた。まさに果報者である。

(さとう・なおのぶ 読売新聞東京本社社会部次長)

波 2024年5月号より

著者プロフィール

読売新聞社会部取材班

ヨミウリシンブンシャカイブシュザイハン

読売新聞社会部の警視庁クラブ、遊軍記者らで編成された調査報道チーム。海外で行われた「臓器売買」疑惑について一年半以上かけて取材し、2022年8月7日付朝刊で記事化。臓器移植をめぐる問題点など、事件の背景を含めた一連の報道で2023年度新聞協会賞を受賞した。

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