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国家の総力

兼原信克/編 、高見澤將林/編

1,012円(税込)

発売日:2024/06/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

負けない体制を構築せよ! 霞が関の最高幹部たちが考える有事の国家運営。

国家の総力をあげて、中国を食い止めよ! 台湾有事が現実的な懸念となった近年、軍事面での議論はなされるようになってきた。しかし、国家間の戦いがグレーゾーンから始まる現在、総合的に有事を想定しておかなければ実際の戦闘には対応出来ない。エネルギーと食料安保、シーレーン防衛、特定公共施設と通信、そして経済・金融への影響などの観点から、有事における日本の問題を考える。

目次
はじめに
第1章 エネルギー安保と食料安保(豊田正和、末松広行)
エネルギー安保に必要な「バランス」/ますます難しくなる中東外交/有事に油価は必ず上がる/韓国は軍需産業と原子力を売り込めるが……/エネルギー自給率を上げるなら原子力を/魔の川、死の谷、ダーウィンの海/学術界、研究現場の協力が得られない/宇宙政策は安保政策とうまく連動/戦後農政の出発点は、「国民を腹一杯にする」こと/宮澤賢治の4分の1しか米を食べない現代日本人/食料は、武器にした側が負ける/やる気のある農家が全体を引っ張る/再エネの新しい発想法/中国をどれくらい困らせられるか/食料は対中国の武器にはならない
第2章 シーレーン防衛(村川豊、岩並秀一)
民間船会社に残る軍への根強い不信感/海上保安庁と海上自衛隊の関係/有事にはタンカーが足りなくなる/NATOでは民間船に軍人が乗りこむ/海保と海自の連携はもっと深めるべき/民間人による自衛隊への協力/イラン、ハマス、フーシ派/海洋に関する国際的な情報共有/海底ケーブルを安全保障の観点から見直す/南シナ海沿岸国の支援を/台湾とは「何もできない」/国内法の理屈は通用しない/「宣伝戦」に勝てるか/沖ノ鳥島に飛行場を作れるか
第3章 特定公共施設と通信(武藤浩、谷脇康彦)
空港で考えておくべきは航空管制/地方の首長たちを説得できるか/最前線の空港は沖縄県知事の管理下にあるが……/自衛隊関連の物資輸送は船がメイン/南西諸島に物資を事前に運び込め/東京の管制の問題/造船は蘇るか/「むきだし」の海底ケーブル/衛星コンステレーションと量子通信/やっぱりGAFAMに頼った方がいい?/防衛・インテリジェンス系とデジタル庁の相互不信/日本語の得意なAI開発を/サイバー人材の育成は「Jリーグ方式」で/通信の秘密と安全保障のせめぎ合い/二つに分かれるインターネットの世界
第4章 貿易と金融(高田修三、門間大吉)
寸断されるサプライチェーン/対中依存度が圧倒的に高いレアアース/「中国にとっての日本」と「日本にとっての中国」の差/経済的にも反撃の方法を考えよ/変わってきている独禁法の運用/外為法のチマチマ運用で間に合うのか/経済安保にもエスカレーション・ラダーを/アメリカのイラン制裁への付き合い方/ドル不足への対応/強い円がエネルギーセキュリティになる/人民元決済が広まらない理由/メガバンクの過剰なリスク回避行動/独裁者の意思は経済では止められない/内閣官房に各省のリエゾンを/経済官庁も自衛隊と交流を

書誌情報

読み仮名 コッカノソウリョク
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 320ページ
ISBN 978-4-10-611047-4
C-CODE 0231
整理番号 1047
ジャンル 政治、思想・社会
定価 1,012円
電子書籍 価格 1,012円
電子書籍 配信開始日 2024/06/17

蘊蓄倉庫

大食い番組を禁止している中国

 中国では現在、大食い番組を禁止しているそうです。「共同富裕」を掲げる習近平政権らしい施策とも言えますが、一方で「これは台湾有事への備えの一つではないか」との見方もあるようです。アメリカと戦争することになったら、現在、大量に輸入している油を取るための大豆や、家畜のエサになるトウモロコシが入ってこなくなって、困窮する事態も考えられるからです。中国が主食である米や小麦については95%以上を自給するという方針をとっていることも、こうした見方に説得力を持たせる根拠と言えます。

掲載:2024年6月25日

担当編集者のひとこと

「負けない体制」をどうやって作るか

 台湾有事の現実性が高まり続けている近年、有事に際しての軍事的な課題に対する意識はだいぶ高まってきた印象があります。私自身、今回の本の編著者である兼原信克さんの発案で、『自衛隊最高幹部が語る令和の国防』『自衛隊最高幹部が語る台湾有事』『核兵器について、本音で話そう』といった、純軍事的な側面にフォーカスした本を作りましたが、いずれもよく売れています。

 ただし、有事の課題は軍事面に留まらないことはもちろんです。日本は貿易で成り立っている国であり、食料もエネルギーも輸入に頼っている。日本経済を回していくには、毎日20万トンタンカー2、3隻分のエネルギーが必要です。しかし、南シナ海が戦場になれば日本はシーレーンを断たれ、物流は大幅な迂回を余儀なくされる。ですから、そもそも戦闘を「起こさせない」ためにも、シーレーン防衛に手抜かりがあってはなりません。

 また、有事となれば、米軍が拠点として使用するのは前線となる日本の米軍基地になりますが、ミサイル攻撃によって米軍基地が機能不全になれば、自衛隊の基地は言うに及ばず、日本の港湾や空港に米軍の飛行機や艦船が入ってくる事態も考えられます。そうした際の法的整備、事前準備も必要です。日本の通信を保障する海底ケーブルの保全や、サイバーセキュリティ対策は言うまでもありません。

 加えて言えば、有事になったとしても、経済活動は続きます。世界第二位の経済大国が「戦争」を仕掛けてきた時、果たしてどのような影響があるのか。日本の対中依存度は、レアアースで68%、携帯電話で83%(iPhoneは中国で組み立てている)、パソコンでは99%にもなります。中国との間で複雑に組み上げられたサプライチェーンが止まってしまったら、果たして日本経済が持つのか。

 上記は問題の一部に過ぎませんが、「有事の国家運営」という課題が公の場(例えば国会)で論じられるようなことは、日本では皆無です。本書では、近年まで日本政府に奉職していた霞が関の最高幹部クラスの方々(各省の次官、審議官、局長、海上幕僚長、海保長官など)にお集まり頂き、現役の際には語れなかった本音ベースの議論を展開して頂いています。

 私自身、この本の編集をしたことで、いろいろな問題の「相場観」のようなものが分かった気がしています。例えば、エネルギー安保には大きな不安を残す一方で、食料安保は大丈夫そう(小麦、大豆、トウモロコシなどの輸入先はほとんど同志国)だな、とか、南シナ海のシーレーン防衛は沿岸国の防衛協力まで踏み込まないと日米同盟だけでは手が足りないな、とか、日本の空港や港湾を米軍や自衛隊が使用するとなったらオペレーションよりも施設の管理権限を持っている自治体首長の説得の方が大変そうだな、とか、相手がやりたい放題やっている時にはこちらも経済的な反撃の方法を考えないと相手になめられっぱなしになるよな、とか……。

 本書は、何らかの「正解」を提示するというより、「こういう方向で考えて準備しておかないとヤバいことになるよ」と警告する頭の体操みたいな本です。読めば必ず、思考を促されるはずです。多くの方に読んで頂き、ご自身でお考え頂ければと思います。

2024/06/25

著者プロフィール

兼原信克

カネハラ・ノブカツ

1959年山口県生まれ。同志社大学特別客員教授、笹川平和財団常務理事。東京大学法学部卒業後、1981年に外務省入省。フランス国立行政学院(ENA)で研修の後、ブリュッセル、ニューヨーク、ワシントン、ソウルなどで在外勤務。2012年、外務省国際法局長から内閣官房副長官補(外政担当)に転じる。2014年から新設の国家安全保障局次長も兼務。2019年に退官。著書に『歴史の教訓』『日本人のための安全保障入門』など。

高見澤將林

タカミザワ・ノブシゲ

1955年生まれ。長野県出身。東京大学公共政策大学院客員教授。1978年に東京大学法学部を卒業後、防衛庁(現・防衛省)に入庁。防衛局防衛政策課長、運用企画局長、防衛政策局長、防衛研究所長などを歴任。2013年に内閣官房副長官補。2014年から新設の国家安全保障局次長、2015年から内閣サイバーセキュリティセンター長を兼務。2016年に退官後、ジュネーブ軍縮会議日本政府代表部大使に就任。

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