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脱炭素化は地球を救うか

池田信夫/著

924円(税込)

発売日:2024/08/19

  • 新書
  • 電子書籍あり

温暖化はメリットが大きい。政治的に正しい言説の不都合な真実。

地球が温暖化しているのは事実だが、果たしてそれは「人間の活動」が原因なのか。そもそも温暖化は「悪いこと」なのか。悪いことだとして、それを止めるための手段は本当に脱炭素化が最適解なのか。科学的データは、そうした問いにいずれも「イエス」の答えを返さない。いま必要なのは、温暖化問題をイデオロギーから解放し、「適応策」を積み重ねていくことである。硬直的な脱炭素化推進に一石を投じる論争の書。

目次
はじめに
序章 地球は「気候危機」なのか
人類は大量絶滅の始まりにいるのか/都市の暑さの原因は気候変動ではない/気候研究者の確証バイアス
第1章 人間は地球に住めなくなるのか
人間の出す温室効果ガスの影響は1%程度/長期的原因は太陽活動と地球の公転/メインシナリオでは2100年までに3℃上昇/異常気象の被害は劇的に減った/温暖化で農業生産は増える/地球温暖化は命を救う
第2章 「グリーン成長」は幻想である
「カーボンゼロ」でもうかるという錯覚/ESG投資というモラルハザード/脱炭素化と経済成長はトレードオフ/水素の「炭素粉飾決算」
第3章 環境社会主義の脅威
「脱成長」では何も解決しない/地球環境を改善するのは豊かさである/緑の党はソ連の「トロイの木馬」/京都議定書はEUの罠だった/パリ協定と1・5℃目標/温暖化は熱帯の防災問題
第4章 電気自動車は「革命」か
電気自動車で脱炭素化できるのか/EUは電気自動車を政治利用する/インターネット革命の教訓/解決策はライドシェア
第5章 再生可能エネルギーは主役になれない
再エネ賦課金は40兆円/巨大な危険物メガソーラー/贈収賄事件に発展した洋上風力/再エネタスクフォースの暴走と消滅/もう再エネを敷設する場所がない/「カーボンフリー」の莫大なコスト
第6章 電力自由化の失敗
民主党政権の呪い/再エネ優遇が生んだ電力の不安定/ブラックアウト寸前の事態/ウクライナ戦争で脱炭素化は挫折した/電力自由化で電気代が上がった/電力自由化を巻き戻すとき
第7章 原子力は最強の脱炭素エネルギー
原子力はもっとも安全なエネルギー/原子力のポテンシャルは100万倍/次世代革新炉には審査の革新が必要/中国が世界最大の「原発大国」になる/原発は「トイレなきマンション」ではない/原子力政策の大転換が必要だ
第8章 脱炭素化の費用対効果
「ネットゼロ」のコストは毎年4・5兆ドル/脱炭素化の費用はその便益よりはるかに大きい/合理的な解決策は炭素税/化石燃料を減らすと地球温暖化が加速する/緊急対策は「気候工学」/最適な気温上昇は2・6℃
終章 環境社会主義の終わり
1・5℃目標は死んだ/化石燃料は命を救う/「緩和」から「適応」へ
典拠一覧

書誌情報

読み仮名 ダツタンソカハチキュウヲスクウカ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 176ページ
ISBN 978-4-10-611054-2
C-CODE 0231
整理番号 1054
ジャンル 地球科学・エコロジー
定価 924円
電子書籍 価格 924円
電子書籍 配信開始日 2024/08/19

蘊蓄倉庫

化石燃料を減らすと地球温暖化が加速する

 化石燃料が温暖化に与える影響には、温室効果ガスと大気汚染の2つがありますが、この2つは相反する効果をもたらします。CO2は温室効果で気温を上げますが、エアロゾル(窒素酸化物、SOX)は太陽を遮って気温を下げるからです。
 2010年代以降、中国が石炭の消費を減らして大気汚染を改善したことが地球温暖化に大きな影響を与えています。国連が推奨するように、このままCO2排出量を2050年までにゼロにすると、温室効果ガスによる世界の気温上昇は0.1℃未満に収まりますが、エアロゾル減少による「透過効果」によって、気温が1℃上昇するという予想も出ています。つまり、「化石燃料を減らすと地球温暖化は加速する」というわけです。

掲載:2024年8月23日

担当編集者のひとこと

脱炭素イデオロギーは現代の共産主義である

「気候正義」なる言葉まで生まれ、「脱炭素化」は今や疑いのない正義のイデオロギーと化していますが、果たしてそれは妥当なことなのでしょうか。本書は、温暖化や脱炭素化を巡る事実関係や言説を、極力客観的に問い直す内容となっています。

 とはいえ、スタンスはトランプのような「温暖化否定論」ではないです。温暖化が起こっていることは認めた上で、その原因を考え、対策の費用対効果を考える「温暖化対策懐疑論」です。温暖化じたいは認めた上で、それが「人類の破滅をもたらす」といった類の悲観論を疑うとともに、「人間が気候を変えられるし、変えるべきである」という楽観論・人間中心主義を疑います。

 本書の問題設定をざっと振り返ると、こんな感じです。

(1)そもそも、地球は温暖化しているのか?
(2)温暖化しているとして、それは「悪いこと」なのか?
(3)仮に悪いことだとして、それは「人間の活動」が理由なのか?
(4)人間の活動が理由だとして、それは本当に「人間の意思で止められるもの」なのか?

 それぞれの答えを大雑把に言うと、

(1)温暖化はしている。ただし、近年の温暖化は、ヒートアイランド現象によると見られる部分が大きく、観測データは誇張されている可能性がある。
(2)「悪いこと」とは言えない。少なくとも、温暖化によって死亡率は下がり、寒冷地の農業生産は上がり、快適な気温の土地の総量は増える。そのメリットと、温暖化による水位の上昇、異常気象の増加などのデメリットを天秤にかけたら、「デメリット」に問答無用で傾く、とは言えない。
(3)人間の活動が影響している可能性はあるが、それは「僅かなもの」である。地球はこれまでも、温暖期と寒冷期を繰り返してきた。北極圏にあるグリーンランドは、中世の温暖化期には文字通り「グリーン」だった。地球の気温への影響は、人間の活動よりも天体の活動によるものの方が圧倒的に大きい。
(4)本気になれば人間の活動で多少は気温の上昇をユルくすることはできるかも知れないが、「気温を下げる」ことは不可能である。そもそも現状取られている温暖化対策は「コスパ」が悪すぎる。

「温暖化は人類存亡の危機なのでコスパなんか考えるべきではない」という人もいるでしょうが、国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が予想している3℃前後の温暖化で、「人類の生存が脅かされる」ことはありえません。憂慮すべきはむしろ、政策資源が温暖化対策に片寄ることで、感染症や食糧危機などの生命にかかわる問題への開発援助が減っていることです。

 また、先進国の教条的な「脱炭素イデオロギー」によって、人々の生活を確実に向上させることになる途上国での火力発電計画に横やりが入るなどの事例が出ていますが(有名なのは、住友商事が参画していたバングラデシュの火力発電への日本政府支援の打ち切り。これを決めたのは小泉進次郎環境大臣)、これは「快適な環境を守る」「人々の環境を改善する」ことが本来の目的のはずの環境保護の理念にも反しているので、本末転倒でしょう。温暖化の事実を受け入れ、「適応策」を積み上げていくことの方が、先進国のみならず途上国も含めた人間環境の改善に資するはずなのです。

 もう少し実務的なレベルでも、脱炭素化論議には「無理筋」の話が少なくありません。
 例えば、日本はエネルギー基本計画で2030年に再生可能エネルギーを36~38%にする目標を掲げていますが(現状は20%強)、恐らく政府で政策を作っている当事者やエネルギー業界の当事者を含めて、それが本当に可能であると考えている人はほとんどいないのではないでしょうか? 
 これまで太陽光をすすめ、太陽光発電の場所がなくなってきたので今度は洋上風力で再エネを増やすぞ、なんてことになっていますが、安定的でない電源をいくら増やしたところでそれをベース電力にするのは所詮、無理なのです。

 そもそも、再エネを推進するために日本国中の山林を切りまくり、太陽光パネルを敷き詰めて、土壌汚染と土壌崩壊のリスクを高めまくることが「環境にやさしい」とはとても言えないでしょう。
 しかも、これから太陽光パネルの「大量廃棄時代」がやってきます。太陽光パネルは製造プロセスだけでなく、廃棄プロセスでも大量のCO2が発生します。加えて再エネの電力は高い固定価格(FIT)で買い取られるため、その上乗せ分は日本の電力消費者が再エネ賦課金を支払って負担しています。
 ついでに言えば、太陽光パネルはほとんどが中国産。つまり、「日本の消費者の金で」「基本的人権の保障されていない中国をわざわざもうけさせ」「日本の山野を太陽光パネルで埋め尽くして景観を損ね」「土壌崩壊の危機を高めている」のが、再エネの実態なのです。はっきり言って、無茶苦茶不条理です。

 以下、多少余談めきますが、今回、この本の編集をしたことで、「脱炭素化イデオロギーは現代の共産主義である」という、かねて抱いていた疑念が「確信」に変わりました。

 冷戦時代には、西側先進国の反体制勢力も含めて、地球上の半分くらいの人たちが、共産主義というイカれた思想にかぶれました。共産主義という理想が死んだことで、「地球上の人間の半分を狂わせる、壮大にズレた理想」というマーケットがぽっかり空いて、そこに「脱炭素化イデオロギー」がスルッと入り込んだ、ということなのかも知れません。インテリや意識高い系など「支持層」も被っていますし、冷戦崩壊後の1992年にリオで地球サミット(国連環境開発会議)が開かれて以降、地球環境の問題が前景化してきたという事実も、この「すり替わり」説を裏付けていると言えます。

 共産主義と脱炭素化イデオロギーには、どちらも「人間中心主義の傲慢さ」が共通しています。「人間の鉄の意志をもってすれば、人間の行動を、社会を、自然すらも変えられるのだ!」というスタンスです。保守主義的なスタンスなら「人間の本質なんてそう変わらないし、社会だって簡単には変わらないし、ましてや地球の自然をまるごと変えるなんて絶対無理」となるでしょうが、そうした「謙虚さ」が脱炭素化の論議にはまったくない。疑念を呈する奴は断罪したがるところも共産主義とそっくりです。環境正義と共産主義を悪魔合体させた斎藤幸平氏が大人気になるのもよく分かります(笑)。

 もちろん、モノを無駄にしないこと、環境に負荷をかけないようにすること、エネルギーの過剰消費を控えることなどは良いことでしょう。私自身、ふだんの生活では、そうしたことを気にかけて行動しています。お風呂の残り湯で鉢植えに水をやり、都内の移動はほとんど自転車、子どもの残した食事はすべて食い尽くす人間バキュームカーの役割も担っています。
 でも、環境によい振る舞いを「イデオロギー」に昇華させる必要はないんじゃないでしょうか?

 ということで、脱温暖化・脱炭素化を巡っては、かくもおかしな事態があちこちで発生しています。
 とはいえ、国連事務総長が「地球は沸騰している」と言い、カーボンニュートラルやSDGsやらが政治的に正しい振る舞いとして日々報じられ、ビジネスマンがみんな読んでる日経新聞も脱炭素化を激押ししている状態ですから、私のこのポストを見ても「この編集者、アタマおかしいんじゃないか?」と思われる方もけっこういるんじゃないかと想像します。
 でも、少し冷静になって、脱炭素化にちょっとでも疑問を感じられているなら、本書を手にとってみる価値はあると思います。少しは考え方が変わるかも知れません。

 本文は176頁とコンパクト。図表もたくさん盛り込んでおり、内容は濃いですが、手軽に読めます。

2024/08/23

著者プロフィール

池田信夫

イケダ・ノブオ

株式会社アゴラ研究所代表取締役所長、経済学者。1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHKに勤務。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て現職。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『電波利権』など。

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