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母を葬る

秋吉久美子/著 、下重暁子/著

968円(税込)

発売日:2024/11/18

  • 新書
  • 電子書籍あり

「理想の娘」にはなれなかった。70歳と88歳が語る、苦しくも愛しい“家族という呪縛”。

「母の母性が私を平凡から遠ざけ、母の信条を大胆に裏切る土台が出来上がってしまった」(秋吉)。「30年以上、一度も母の夢を見たことがない」(下重)。過剰とも思える愛情を注がれて育ったものの、理想の娘にはなれなかった……看取ってから年月が過ぎても未だ「母を葬(おく)る」ことができないのはなぜなのか。“家族という名の呪縛”に囚われたすべての人に贈る、女優・秋吉久美子と作家・下重暁子による特別対談。

目次

まえがきにかえて 秋吉久美子

序章 母を葬る
黄昏時に旅立ちたい/娘二人じゃだめなの?

第一章 青春って見当違い
アナウンサーなんて大嫌い/ジャンケンで負けてNHKへ/癖のない文章/大島渚監督のリアル/ピタリのあだ名/バランスが悪くて上等/『赤ちょうちん』の敗北感/女優は公共サービス/「卵で産みたい」発言の理由/撮影現場の問題児?/「寅さん」マドンナの胸の内/達観なんて100年早い/ねえや/チッキの泣き声/いつまでも転校生/ノーブラは自由の象徴か/夢を守る責任/東北未来がんばっぺ大使/ガールズケイリン復活に奔走/お決まりのヒロイン

第二章 家庭内キャリアウーマン
二人のマサコさん/娘に託した夢/学生集会の“プレイガール”/自己欺瞞と罪の意識/母から受け継いだもの/金髪のクラスメイト/過干渉/セーラー服の独立宣言/“まとも”な人は面白くない

第三章 落魄の人
たった一人の反乱/三度目の迎合/期待をかけるのは自分だけ/ねじれ現象/父が残した春画/100通のラブレター/結核病棟の恋/軍歌は「青春」だった/大きな駄々っ子/塩にまみれたホッケの尻尾/「おまえが看取れ」/最大のプレゼント/初恋の人

第四章 人生はひらり、ひらりと
受け容れる力/欠かさなかった電話/「子ども」相手には反抗できない/カルカッタの「アンチー」/苦情係のパンダ/上機嫌な旅立ち/枕元の短剣/円熟を追い求めて/長く生きてよかった

あとがきにかえて 下重暁子

書誌情報

読み仮名 ハハヲオクル
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 208ページ
ISBN 978-4-10-611064-1
C-CODE 0230
整理番号 1064
ジャンル ノンフィクション、暮らし・健康・料理
定価 968円
電子書籍 価格 968円
電子書籍 配信開始日 2024/11/18

蘊蓄倉庫

「母の壁」

 母との関係性に葛藤を抱える女性は少なくない。 同時に、多くの「母娘」が複雑怪奇な形でかたく結びついている。

 女優・秋吉久美子さんはお母さんと「ずっと親友同士のような関係」だった。ところが末期がんにおかされた彼女を看取ろうというとき、大きな重荷を背負うことになる。当時を振り返る秋吉さんの表情は深く沈んでいた。

 作家・下重暁子さんは、家族に尽くし続けるお母さんの姿に歯がゆさを感じ、中学校のセーラー服姿で「どうしてあなた自身の人生を歩まないのか」と詰め寄る。その後、何十年も経って母を亡くしたときに初めて、彼女の真意に触れた気がしたそうだ。

 娘にとって、「母を知る」とは「自分を知る」ことでもある。ただし、そう簡単にはいかない。母はいつだって一枚も二枚も上手で、娘はその掌の上にあるから、看取った後でさえ「母の壁」はいつまでもそびえ立っているのだ。

掲載:2024年11月25日

担当編集者のひとこと2

 生とは、死とは何だろう? それを教えてくれるのは、一番身近な「母」という存在なのかもしれない。
 元NHKアナウンサーで作家の下重暁子さんは、“暁子命”でいつも家族を第一優先にする母の姿に歯がゆさを感じ、中学生のとき「どうしてあなた自身の人生を歩まないのか」と詰め寄る。その後も努めてドライな関係を保ったが、母を亡くしたときには「目の前で自分を守ってくれていた屛風のようなものがなくなった」と、身震いするような感覚をおぼえたという。
 俳優の秋吉久美子さんにとって、母は一番の理解者で、親友のような存在だった。それなのに、末期がんにおかされた彼女を看取ろうというときに「期待に応えられなかった自分」をいまだに責め続けている。
 母との関係性に葛藤を抱える女性は少なくない。と同時に、多くの母娘が複雑怪奇な形でかたく結びついている。それはなぜなのか――。「理想の娘にはなれなかった」と語る二人が、時効とばかりに胸の内を明かす異色対談だ。(出版企画部・MM)

2025/02/27

担当編集者のひとこと

私も救いを求めていた

 生まれてから数カ月のあいだ、私の息子は体重がなかなか増えず、いつも不機嫌だった。あまり眠らなかった。おそらく母乳が足りていなかったのだろうと思う。

 母乳が出るとか出ないとかいうのは「身体」に関連することなのだから、気に病んでも仕方がない。別の言い方をすれば「どんなに頑張っても出ないものは出ない」。それなのに、当時の私は悩み苦しみ、自分を責めた。理由は明確で、いわゆる“母乳信者”だった母が「粉ミルクは望ましくない」と主張し続けたのだ。

 あのとき、どうして母に反抗できなかったのか。反抗しなくてもいい。子どもがお腹を空かせていたなら素直に粉ミルクを与えればよかったのに、それをしなかったのはなぜか……。私はいまだに答えを出せずにいる。

「母と娘」という繋がりは、娘をとらえて永遠に逃さない呪縛でもあると思う。母のことを憎んでいるわけじゃない。でも、どうしてこんなにも重たいのか。

 看取ってもなお、「母と訣別(けつべつ)できていない」という秋吉久美子さん、下重暁子さんに何らかの答えを出してほしくて対談を依頼し、忖度(そんたく)なしに語り合ってもらった。忖度どころか、ウソをつくことも苦手な二人だ。こうして完成したのが本書である。私もまた、救いを求めていたのだ。

2024/11/25

著者プロフィール

秋吉久美子

アキヨシ・クミコ

1954年生まれ。1972年、映画『旅の重さ』でデビュー後、『赤ちょうちん』『異人たちとの夏』『深い河』など出演作多数。早稲田大学政治経済学術院公共経営研究科修了。

下重暁子

シモジュウ・アキコ

1936年生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、NHKにアナウンサーとして入局。民放キャスターを経て文筆業に。著書に『家族という病』『極上の孤独』など多数。

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