
後ろの国のサル/隣人たち
1,540円(税込)
発売日:2021/10/29
- 新潮社図書編集室
第27回太宰治賞受賞作家、待望の第2作。
サルが広場の一角で、黒服の男に竿を振るわれている。そんなあからさまな光景を見つめている三人の男女――(『後ろの国のサル』)。噴水のある公園。次々に訪れた男女らが託し、訴え、欲しがり、打ち砕き、さらには笑う、そのものとは――(『隣人たち』)。――サルはどこから来たのか、誰かが騙している。不安を贈れ、不安を奪われるな、不安の前で踊れ――。
書誌情報
読み仮名 | ウシロノクニノサルリンジンタチ |
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装幀 | 新潮社装幀室/装幀、平野甲賀/タイトル文字、iStock.com/装幀、Fiden/装幀 |
発行形態 | 新潮社図書編集室 |
判型 | 四六判 |
頁数 | 166ページ |
ISBN | 978-4-10-910204-9 |
C-CODE | 0093 |
ジャンル | 文芸作品 |
定価 | 1,540円 |
論評
唯一無二の文学的達成がここにある。
安藤礼二
由井鮎彦は、ただひたすら一つの場所を見つめ、一つの場所を作ろうとしている。文学という言語表現が生起してくる究極にして極限の場所である。
そこでは、見られるものが見るものとなり、語られるものが語るものとなる。差異をもっていることと同一であること、笑劇と悲劇、破壊と創造の区別がつけられなくなる。
広場の杭につながれたサルはグラスファイバーの竿で打ち続けられ、公園の噴水は水を噴き上げ続けている。空虚にして充実した場所、そこでそれぞれ三人の登場人物たちは互いを模倣し合い、互いを反復し合うことで未知なるものへと変貌を遂げてゆく。
滑稽にして残酷、不毛にして豊穣な文学空間、具体と抽象、野生と人為が入り混じるどこにもない場所が、明晰にして透明なフィクションの言葉のみで紡ぎあげられていく。
(あんどう・れいじ 文芸評論家)
著者プロフィール
由井鮎彦
ユイ・アユヒコ
東京都生まれ。『会えなかった人』で第27回太宰治賞、第9回絲山賞を受賞。著書に『後ろの国のサル/隣人たち』(新潮社図書編集室)がある。
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