FOCUS 大災害緊急復刊 週刊新潮別冊4月20日号/定価450円(税込)
2011年4月13日発売
FOCUS 大災害緊急復刊
週刊新潮2011年4月20日号別冊
(2011/04/13発売)
定価450円(税込)
JANコード:4910203160417
瓦礫と残骸の街に産声が響いた――忘れられない春に咲いた「すみれ」
 言葉は時として残酷の牙を剥く。
「頑張れ」「応援しています」
 被災者に送られる声援。だが、既に充分頑張っている、これ以上どうしろというのか――。空虚な言葉ではなく、形ある「温もり」に勝る希望はない。
「忘れられない春に生まれたこと、そして皆さんに良くしていただき、お礼をしていかなくてはならないこと。この思いを娘にも伝えていきたいと夫婦で話し合い、『寿美礼(すみれ)』と名付けました」
 生後1カ月に満たない長女を両手で優しく包み込んだ佐々木千春さん(31)は微笑む。未だ瓦礫に埋もれた岩手県大槌町。町長を含む550人以上の死者と1000人の行方不明者が出た。
「3月10日に陣痛が始まって、近くの釜石病院に入院していたんですが、翌日の午後には陣痛が治まっていました。一旦、帰宅しようと考えていたところで、震災が襲ってきたんです」(千春さん)
 一晩、病院で明かしたものの、次々と搬送される重篤な被災患者が廊下にまで溢れ、身重の彼女は避難所となっていた高校への移動を余儀なくされた。
「避難所では、本当にご厚意に恵まれました。ホッカイロを持ってきていただいたり、灯油不足のため使用時間が制限されていたストーブを、私たちのためだけに点けてくださったり。揺りかごまで頂いてしまって。その時の揺りかごを、今、使わせてもらっています」(同)
 再び陣痛に見舞われた18日午前2時、千春さんは病院に戻り、4時間半後に2966グラムの寿美礼ちゃんを出産した。
「仕事が続いていれば妻と一緒にいられなかった。震災という偶然の悲劇が、私を出産に立ち会わせることになった」
 と、長男の響平くん(2)を抱える夫の平さん(36)も、また笑みを浮かべる。
 両親の笑顔と寿美礼ちゃんの寝顔こそ復興の灯火。無力な言葉を超越した実存――。小さな命が大きな希望を被災地にもたらしている。
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