お知らせ
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今期の芥川賞・直木賞は、新型コロナウイルスの感染拡大防止をふまえた異例の開催となりました。記者会見もソーシャルディスタンスを配慮した会場で、受賞の知らせをうけた高山羽根子さんは、こうした状況下での受賞になにか特別な思いがあるかという記者の質問に「だいぶ想像つかないようなシンクロの仕方をしてしまったかと思うんですけど」と答えています。
受賞作『首里の馬』は、沖縄の古びた郷土資料館に通い、資料の整理を手伝う主人公が一風かわった仕事をしています。それというのも、世界の僻地の孤独な環境下にいる人たちに、オンライン通話でクイズを出題するオペレーター。本作が発表されたのは今年二月初旬。執筆時には、テレワークやオンライン通話がこれほど普及するとはまったく予想していなかったといいます。ときに、著者の想像を超えたことが現実に起こるものの、まさに時代とシンクロした芥川賞受賞作といえるのかもしれません。
ある晩、幻の宮古馬が主人公の家の庭に迷いこんでくることで小説は一気に加速するのですが、それは実際に読んでいただくことにして。この世界のありようをすべてそのままに記すこと、その記録を残すこと。この小説がしずかに問うていることは、いま私たちが生きる世界に切実に響いてくるように感じます。
著者紹介
高山羽根子タカヤマ・ハネコ
1975(昭和50)年、富山県生れ。2010(平成22)年、「うどん キツネつきの」で創元SF短編賞佳作、2016年「太陽の側の島」で林芙美子文学賞を受賞。2020(令和2)年、「首里の馬」で芥川龍之介賞を受賞。著書に『オブジェクタム』『居た場所』『カム・ギャザー・ラウンド・ピープル』『如何様』『暗闇にレンズ』などがある。