お知らせ
いま注目の1冊! 津村記久子『この世にたやすい仕事はない』
新潮社入社2年目のKです。学生時代に読んだ本作を再び手に取ったのは、入社から1年が経ち、疲労感と不安で調子を崩していた頃のことでした。実際に働いている身として読んでみるとまた違う印象があり、深く励まされました。そんな思いを込めて手書きの帯を作ってみたところ多くの方々が共感してくださったようで、本作は2023年啓文堂書店文庫大賞を受賞しました。
主人公には職安で「コラーゲンの抽出を見守るような仕事はありますかね」と質問するような力の抜けたところがあって、くすくす笑いながら読み進めることができます。しかし「信じた仕事から逃げ出したくなって」しまった切実さは、小説が好きで出版社に入った自分にとって他人事ではありませんでした。
会議で一度も発言できなかったことや、書店できつく叱られたことを思い出すと、自分がうまくやっていけるのか不安になりますが、本作のラストにある通り「だいたい何をしていたって、何が起こるかなんてわからない」のです。4月から社会人になる皆様、無理せず元気に働いてください。そして入社前に(入社後でも)ぜひご一読を!!
著者紹介
津村記久子ツムラ・キクコ
1978(昭和53)年大阪市生まれ。2005(平成17)年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で太宰治賞を受賞してデビュー。2008年『ミュージック・ブレス・ユー!!』で野間文芸新人賞、2009年「ポトスライムの舟」で芥川賞、2011年『ワーカーズ・ダイジェスト』で織田作之助賞、2013年「給水塔と亀」で川端康成文学賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2017年『浮遊霊ブラジル』で紫式部文学賞受賞。2023年『水車小屋のネネ』で谷崎潤一郎賞受賞、同作は2024年本屋大賞2位に。他の作品に『アレグリアとは仕事はできない』『カソウスキの行方』『サキの忘れ物』『やりなおし世界文学』などがある。