女による女のためのR-18文学賞

新潮社

第20回 受賞作品

王冠ロゴ 大賞・読者賞・友近賞受賞

宮島未奈

「ありがとう西武大津店」

宮島未奈

――ご受賞、おめでとうございます。受賞の瞬間はどう過ごされていましたか?

 選考会の日はとにかく落ち着かなくて、「桃鉄」をしながら連絡を待っていました。割と早い時間にお電話があったんですけど、担当の編集者の声があまり明るくなかったから、「また落ちたかな」と思って……。そうしたら、「受賞しました!」と言われて、思わず「やっと来た!」と(笑)。どの賞か尋ねたら「三冠です」と言われて、もう立っていられなくなりました。腰が抜けるって本当にあるんですね。

――宮島さんは2017年から4年連続で本賞に応募されています。しかもここ3年は毎回応募上限の3作を送ってくださっていました。受賞作はその中でも自信作でしたか?

 自信作という風にはあんまり……。むしろ、3作応募するから1作くらいはチャレンジ枠でもいいかなと思い、とにかく自由に書いたのが「ありがとう西武大津店」です。
 これまでの選評などで、特に意図していなかったのに「ユーモアがある」と言っていただくことが多かった。なので、今回は笑わせようと思って書きました。特に大津の人が喜んでくれたらいいな、と。そうした具体的な読者の存在を意識して書いたのは初めてのことで、それがよかったのかもしれません。

――いつ頃から小説を書かれるようになったのでしょうか。

 小学生の頃に読書感想文を褒められたのがきっかけで、小説を書きはじめました。最初は手書きで、高校生の頃にはパソコンで書くようになりました。2018年にコバルト(集英社ウェブマガジン)の短編小説新人賞を受賞した「二位の君」は、実は大学生の頃に書いた作品なんです。応募時には手直しをしましたが、例えば学生同士がノートをうつしあう描写は学生時代の記憶のまま。若い人が読んだら少し古く見えるかもしれません。
 なぜか当時の私には賞に応募するという発想はありませんでした。「公募ガイド」を読むのが好きでよく目を通していましたが、応募できそうな賞が見つからなかった。長いのを書く自信はなかったですし……。
 大学を卒業した後は、一旦地元の静岡県に戻って就職しました。就職してからもぽつぽつ小説を書いていたのですが、25歳のときに三浦しをんさんの『風が強く吹いている』を読んで衝撃を受け、書くのをやめてしまいます。長くても全く飽きさせないストーリーに感服し、「私にはこんなの一生書けない」とめげてしまいました。
 結婚してからは大津に引っ越しました。在宅でライターの仕事をしていたころに、大学の先輩でもある森見登美彦さんの『夜行』を読んだんです。裏と表の世界が見事に描かれていて、小説を書くことで自分も裏の世界に行けるんじゃないか、と思った。それが小説家の夢にもう一度挑戦する大きなきっかけになりました。森見さんは私が在学していたころに『太陽の塔』でデビューされて、学内でも話題になっていたから、憧れも強かったんです。いつか、お会いしてみたいです。

――様々な新人賞がある中で、本賞に応募されたのはなぜでしょう?

 R-18文学賞の第1回受賞者である豊島ミホさんを好きだったのが、一番の理由です。『檸檬のころ』や『エバーグリーン』が特に好きですね。
 それにいざ小説を書いてみようと思っても、長編を書く自信がなくて……。短編の賞といえばR-18文学賞が思い浮かんで調べてみたら、「官能」をテーマに据えるという規定がなくなっていて、締切もちょうどよかったので出してみたんです。
 そうしたら初めての応募(第17回)で最終候補にまで残った。うれしかった反面、「最終に残ったのなら、もしかして賞もいけるんじゃ?」なんて思ってしまって……。受賞しなかったと聞いたときは、正直すごく残念でした。今振り返っても、このときの落選が一番悔しかったです。
 そこからは、過去の受賞作を読み込んで研究の日々。図書館で「小説新潮」や「yom yom」を取り寄せて、第7回以降の受賞作は全部読みました。そのうち「R-18文学賞にはカテゴリーエラーなんてない」ということに気づいたんです。どの作品にもそれぞれの良さがあって、選考委員の皆さんがそれらを吟味して読んでくださる。R-18文学賞らしさというものを追い求める必要はないのだなと思いました。R-18文学賞はなんでも受け入れてくれる賞だし、応募する者としては「一番面白い小説」を目指して書けばいいんだな、と。

――ただ、3回目の応募だけは最終候補に残りませんでした。その時のお気持ちはどのようなものだったのでしょうか。

 もちろん残念でしたけど、そこまで落ち込まなかったです。その少し前に、別名義で応募した新人賞でいいところまでいけたので、自信を失わなかったのだと思います。前年(2018年)にはコバルトの短編新人賞を受賞していて、それもまた自信になりました。初挑戦のR-18文学賞で最終候補に残ったのはまぐれかもしれない、という気持ちがあったので、そうやってちょこちょこ自信をつけていくことができたのは自分にとって大事なことだったように思います。

――受賞後の周囲の方の反響はいかがでしたか。また、それを受けて今後の抱負をお聞かせください。

 家族はもちろん喜んでくれましたし、長く付き合いのある友達からは「いつかやると思っていた」とも言われました。母にはなんとなく言えずにいたんですが、「小説新潮」の発売日に「買ったよ!」と連絡があって「知ってたのか!」と驚きました。スーパーで知らない方に「宮島さんですよね! 京都新聞見ました!」と声をかけられることなんかもあって……。たくさんの方に親しみをもって読んでもらえていることを実感しています。
 書いてみたいお話はたくさんあります。もともと恋愛小説が好きなので、渡辺淳一さんの『失楽園』みたいな濃厚な男女の話にも挑戦してみたい。でも今はコロナでいろいろなことを我慢する世の中なので、明るいお話を書きたいなと思っています。