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筒井康隆氏の「飛翔」
「演技することはおれのアイデンティティのひとつだ。小説家である時すら、ちょっとやくざなところのある、薄いサングラスをかけた人気作家の役を楽しみ、演じてきたような気がしている。」
近著「文学外への飛翔―俳優としての日日」で、筒井氏は、「俳優・筒井康隆」として、チェーホフ「かもめ」(蜷川幸雄演出)のトリゴーリン役や、三島由紀夫「近代能楽集」の「弱法師」出演など、舞台、映画、テレビでの活動の日々を報告している。
最近の活躍もめざましいものがある。
テレビでは、NHK大河ドラマ「北条時宗」で、時宗に「莫煩悩」を説く禅の高僧、無学祖元を重厚に演じているし、舞台では、先頃、新橋演舞場で上演された、向田邦子名作劇場「冬の運動会」にも、重要な役で出演している。
久世光彦氏の演出によるこの芝居、オリンピックを間近に控えた昭和39年のあるブルジョワ家庭が舞台。3代にわたる男たちの居場所のない日常と人間模様を、時に深刻に、時にユーモラスに描く向田邦子のテレビドラマになった名作である。
上演は、2回の休憩をはさみ、4時間にもわたる長丁場で、肉体的にも重労働である。
それでも、筒井氏は楽屋に原稿用紙を持ち込み、自ら編集を担当した「21世紀文学の創造」シリーズ(岩波書店刊)の原稿もこなした。作家・筒井康隆も精力的である。
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