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Actor ―― 筒井康隆氏の「飛翔」

「演技することはおれのアイデンティティのひとつだ。小説家である時すら、ちょっとやくざなところのある、薄いサングラスをかけた人気作家の役を楽しみ、演じてきたような気がしている。」
 近著「文学外への飛翔―俳優としての日日」で、筒井氏は、「俳優・筒井康隆」として、チェーホフ「かもめ」(蜷川幸雄演出)のトリゴーリン役や、三島由紀夫「近代能楽集」の「弱法師」出演など、舞台、映画、テレビでの活動の日々を報告している。
 最近の活躍もめざましいものがある。
 テレビでは、NHK大河ドラマ「北条時宗」で、時宗に「莫煩悩」を説く禅の高僧、無学祖元を重厚に演じているし、舞台では、先頃、新橋演舞場で上演された、向田邦子名作劇場「冬の運動会」にも、重要な役で出演している。
 久世光彦氏の演出によるこの芝居、オリンピックを間近に控えた昭和39年のあるブルジョワ家庭が舞台。3代にわたる男たちの居場所のない日常と人間模様を、時に深刻に、時にユーモラスに描く向田邦子のテレビドラマになった名作である。
 上演は、2回の休憩をはさみ、4時間にもわたる長丁場で、肉体的にも重労働である。
 それでも、筒井氏は楽屋に原稿用紙を持ち込み、自ら編集を担当した「21世紀文学の創造」シリーズ(岩波書店刊)の原稿もこなした。作家・筒井康隆も精力的である。

Welcome ―― レベッカ・ブラウン来社

 柴田元幸訳『体の贈り物』で日本でもお馴染みのレベッカ・ブラウンが、この11月来日。彼女の作品『お馬鹿さんなふたり』というユニークな短篇を翻訳した野中柊さんとの対談のため、小社を訪れた。
 初対面だった二人はすぐに打ち解け、新潮文庫のマスコットYondaくんと一緒に写真を撮ったり、“Writer’s prison”という噂のある缶詰部屋で2時間も話し込んだりで、我々のオフィスでの短い滞在を大いに楽しんでくれたようだ。
 しかし、作家同士の話はやはり格別だ。とりわけ、9月11日のテロがアメリカ人に及ぼした影響を仔細に聞いた時、我々にも生々しく厳粛な痛みが確かに伝わった。死に瀕したエイズ患者を「手垢のついた『物語』とはまったく別なもの」として書いたレベッカ氏は、今回の事件で生じた“お別れの儀式を持つことができない死がいかに悲惨か”を強調する。作家精神の健在を感じた一瞬だった。
 野中さんとの対談は、柴田氏翻訳の新作短篇と併せて3月号に掲載する。どうかお楽しみに。

Poet ―― DJスタイルの講演会

 小誌11月号で詳しく発表したが、第9回萩原朔太郎賞に町田康氏が選ばれた。芥川賞受賞に続く快挙で、10月28日、「水と緑と詩のまち前橋文学館」でおこなわれた贈呈式には、多くのファン、記者、担当編集者などが駆けつけた。
 なんともユニークだったのが、「詞と詩の距離(DJスタイル)」と銘打たれた受賞者記念講演。会場の照明を落とし、テーブルに座った町田氏が、マイクに向かって語りかける。指示に従って、CDから選ばれた町田氏の歌うパンクロックが、会場に流れる―というスタイルで講演が進められた。
 ロックで歌われる歌詞と、同じタイトルの詩を、具体的に比較しながら、歌詞が常に現在に拘束されるのに比し、詩がもつ時間的自由といった、両者の質の差が論理的に明快に説かれていった。
 奔放に書かれたように思える詩に、緻密な計算がなされていることを知らされた講演であった。今月号に、町田氏の新作を寄せて頂いた。御一読を。

New Book ―― オースター、「書き手」を語る

 米作家ポール・オースターの最新作が、11月15日に刊行された。題して、「The Story of My Typewriter」。カバーイラストを描いている現代画家のサム・メッサーとの共著で、内容はタイトル通り、多岐にわたる作家活動を支えてきた愛用のタイプライターにまつわる話である。大学中退後の放浪生活を経てフランスから帰国したのが’70年代半ば。その当時から、ずっと連れ添ってきたオリンピア社製の古ぼけたマニュアルタイプライターが、オースターの筆致、メッサーの力強いタッチに彩られ、無機質な機器は、あたかもひとつの人格として浮かび上がる。
 もっとも、著者によれば、「自分のタイプライターをヒロイックなものにしようとしたつもりは全くない」とのこと。このところラジオ番組の企画から始まった「True Tales」の編集でも多忙のようで、新作は72ページという小品だが、オースター独特の文体に魅せられるファンにとっては、その創作現場を垣間見るまたとない機会になりそうだ。
(Distributed Art Publishers $20)

Challenge ―― 3年目の藤原新也氏表紙

 2年間本紙の表紙を飾って下さった藤原新也氏。3年目に入り、「少女」「花」に続くテーマを相談したところ、「絵を描きます」という答えが返ってきた。もともと東京芸大出身で、絵画から写真に転じた人とはいえ、少しびっくり。しかし、出来上がった表紙は、息を呑む素晴らしさだった。
 題して「ミッドナイト・モンキー」。パソコン上で何層にも色を重ねて描いたもので、特に猿が立っている樹の虹色は、機械(ソフト)を用いないと出ないという。デジタルとアナログの両極端の合致を追求する氏らしい手法だ。紙やデザインも徹底的に吟味し直し、充実した新コンセプトを提示できたはずだ。
 肋骨を数本折るという大怪我をし、アフガニスタン行きを断念した藤原氏。しかし、医者が驚くほど回復が早く、今はもう元通りに見える。「ジャングルで描いて、インターネットで絵を送ろうかな」と囁くなど、静かな過激さも健在だった。しかし、いつもしっかり見ている色校正は、密林では無理ですね……。

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