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境界線を越えて
「新潮」6月号
定価900円
5月7日発売


 黒川創氏が「もどろき」後一年半、「イカロスの森」二三五枚を発表します。主な舞台は北サハリン。鳥たちが真っ黒な水面にとらえられれて死んでいくという伝説の湖を一目見たいと旅だった日本人青年が出会ったのは、革命、戦争、捕虜と、二十世紀の錯雑した過去を背負った人々。世界とは、国とは何だったのか。人が生きていくとはどういうことなのか。真摯な問いかけが胸を打つ清新な作です。一方、川村湊氏「補陀落」は、観音浄土を目指してあの世へ船出した僧侶たちの信仰心をアジア各地に探った長編評論。
 今期川端康成文学賞は河野多恵子氏「半所有者」と、町田康氏「権現の踊り子」が受賞しました。大家、気鋭それぞれが遺憾なく力量を示した短編二作を熟読玩味願います。痛恨の極みなのは、ライフワークの「南蛮仏」最終章の完成を目前に逝った中薗英助氏。闘病の床で遺した創作メモを録音テープから起こし、追悼としました。
(編集長・前田速夫)
■年間講読料一〇八〇〇円(12冊 税・発送費込)