尋常ではない
「新潮」7月号 定価900円 6月7日発売

車谷長吉氏は自作を「生前の遺書」と呼びます。現代では稀な私小説作家の覚悟を示して、胸を突かれますが、それが言葉だけでないのは、「赤目四十八滝心中未遂」ほかが証明しています。巻頭に一挙掲載した「贋世捨人」四二○枚は、前作と対をなす、小説家として誕生する以前の己の拙さを、完膚無きまでに描いた問題作。何故、これほどムゴク書かねばならないのか? 尋常ではないとしか申せません。平出隆氏「月光抄――小説・伊良子清白」は、とみに再評価の声が高い詩人の姿を鮮やかに映しだしてくれました。
評論・エッセイは野口武彦、桶谷秀昭、奥本大三郎氏。アメリカからは新元良一氏によるリチャード・パワーズ会見記が届きます。
今期三島由紀夫賞の決定発表――受賞作は、小野正嗣氏「にぎやかな湾に背負われた船」。小誌学生小説コンクールでデビューし、現在はパリ第八大学でクレオール文学を研究中の大型新鋭です。
(編集長・前田速夫)
■年間講読料一〇八〇〇円(12冊 税・発送費込)
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