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【冒頭部分掲載】

─対談─「南部(サウス)の自由時間」

山田詠美×青山 南


青山 山田さんの最新作『PAY DAY!!!』は、ハーモニーという男の子とロビンという女の子の双子の兄妹がいて、父親は黒人で母親はイタリア系です。両親の離婚で、ハーモニーと父親は南部のサウス・キャロライナ、ロビンと母親はニューヨークに分かれていたのが、母親が9・11事件にまきこまれてしまい、ロビンも南部で父や兄と一緒に暮らすようになるところから物語が展開していきます。このタイトルをはじめて見たときは、びっくりマークが三つもついていてそれこそびっくりしました。でも読み進めていくうちに、この言葉が効果的に配置されていて感心しました。うまいなあと思いました。とてもリズミカルで音楽的な雰囲気さえ漂っています。
山田 アメリカでは、PAY DAY、つまり給料日はたいてい金曜日なんです。アメリカに行くとTGIF(サンクス・ゴッド・イッツ・フライデー)というファミリーレストランバーのチェーン店があります。「神様金曜日ありがとう」というわけ。TGIFに乾杯といっている元ヤッピーをよくみかけましたよ。ニューヨークには「PAY DAY!!!」という名前のクラブもあったんですよ。いつか絶対小説のタイトルに使おうと思っていました。
青山 昨年の「文學界」で河野多惠子さんとなさった対談には、当初書いていた小説は湾岸戦争に焦点を絞るつもりだったけど、9・11の事件が起きて、バカバカしくなって、もう一度構築しなおすとありますけど、それがこの小説ですね。
山田 そうです。でも、最初に書いてみようと思ったのは、もう何年も前になります。
青山 どのようなことを書こうと思われたのですか。作者に聞くのも何ですけど。
山田 大切な人を亡くしたときにどうやって対処し再生していくかというようなことを描きたいと思っていました。それに湾岸戦争のことをからめていくつもりでした。でも、物理的にすべてが破壊されるような、ああいうテロ事件がまさか起きるとは。あのテロのすぐあとに、ある種の作家や知識人たちは便乗するような感じで、コメントを出したり作品を書いたりしたのですが、私はそれがすごく嫌で、そういうふうには絶対したくありませんでした。それで、しばらく時間をおくことにしたのです。

続きは本誌にてお楽しみ下さい。