「兄おとうと」 井上ひさし
とき 明治四十二年(一九○九)の降誕祭前夜(クリスマス・イヴ)から、昭和七年(一九三二)の十二月のある夜までの二十三年間。 ところ 東京本郷の吉野作造の借家、江戸川べりの料理旅館、東京帝国大学吉野研究室、箱根湯本温泉の小川屋旅館。 ひと 吉野 作造(さくぞう) (31) 玉乃(たまの) (29) 吉野 信次(しんじ) (21) 君代(きみよ) (20) 青木 存義(なかよし) (31) 大川 勝江 (18) ピアニスト 年齢は、いずれも、劇が始まったときのものである。また、俳優は自分の扮する人物の年齢に忠実である必要は、ほとんどない。 さらに、青木存義と大川勝江に扮する俳優は数役を兼ねる。 ピアニストの静かに弾く序曲に誘われて場内に深い闇が訪れる。と、曲調が変わって、 プロローグ ふしぎな兄弟 「ふしぎな兄弟」の前奏。 すばやく明るくなり、六人の俳優が登場、そして歌う。 (青木) ときは明治と大正、昭和 三つの御代の長いおはなし (勝江) 寒さきびしい小さな町に 生まれ合わせた兄とおとうと (六人) 兄とおとうと どちらも秀才 兄とおとうと どちらも秀才 (作造) 兄作造は東大教授 デモクラシーを唱えた学者 (信次) おとうと信次 えらい役人 二度も大臣を つとめあげた (六人) デモクラシー えらい役人 デモクラシー えらい役人 (君代) ふしぎなことに この兄弟は 枕ならべて寝たことがない (玉乃) おとなになって おんなじ部屋で 寝たのはわずか一二三四五回 (六人) 一二三四五回 一二三四五回 一二三四五回 一二三四五回 これから始まるのは いっしょに寝た日のはなし お見せするのは なかよく寝た日のはなし 続きは本誌にてお楽しみ下さい。
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