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妄想の産物
「新潮」3月号
定価900円
2月7日発売


「瘋癲老人日記」からの一節を題に冠する渡部直己氏の谷崎潤一郎論「死ンデモ予ハ感ジテ見セル」(百枚、本号掲載)を読み、〈何にもまして生き生きとした妄想の産物とその力を改めて擁護したい〉という筆者の声に深く共感しました◎小説という名の〈妄想〉が私たちの心を震わせる時、その生々しさにおいて、小説はリアル=現実的です。田中和生氏「『キョロちゃん』のリアリズム」が、谷川俊太郎氏の詩と舞城王太郎氏の小説を介して問いかけるのは、現実と仮想現実の境界が揺らぐ今日に〈わたしたちにとっていま現実的(リアル)な言葉とはなにか〉です◎本誌初登場の鹿島田真希氏の長篇小説『白バラ四姉妹殺人事件』は、〈家庭〉という否定しがたい現実から芽生えた母、娘、息子それぞれの妄想が、あらゆる組み合わせで絡み合い複合する、いわば妄想の織物です。むろん大谷崎と比するわけではありませんが、この若き作家の果敢な挑戦に御注目ください。
(編集長・矢野優)
■年間講読料一〇八〇〇円(12冊 税・発送費込)