![]() 石丸元章
クエスタ・サンタ・ベルデの感化院で「青少年更生文学プログラム」ってヤツを考えた人間に、いまオレは心からの感謝を捧げたい。 1 ニスを塗ったようなアスファルト、反射しているネオンの光、車のテールランプ、女どもが身を飾る装飾品や客引き連中のニヤけ笑い、そして徐々に視線を動かしていくと……クタバリかけのヘタリ牛のように酔っぱらい歩く救い難いマヌケ面や、ポーカーで配られたジョーカーのようなクレジットカードを無駄に何枚も財布にコレクションしているアホ面の白人ども……。いつも、ああ、そうさ、そう、いまのこの瞬間もそうであるように、オレはいつも時間が許す限り、片方のレンズにヒビが入ったこのオペラグラスを両目に押しあてて、この場所から街を見下ろしているんだ。酔っぱらい連中があげる歓声が夜に飛ぶ蝶の鱗粉みたいに空気に舞っているぜ。ああ、知ってたかい? 音ってのは瞳孔に映るんだ。レンズをそのまま移動させる。この街を初めて訪れる観光客達が毎夜くり返しているお笑い寸劇。新しくできた店の前には豪華な偽善でコーティングされた巨大な飾り花束。オレと歳の変わらない日本人の連中はお気楽なこった! TATTOOを入れた腕を自慢げに剥き出しにして世間知らずにのし歩く。 ぐるりと方角を変えると、おっ、黒いスーツをビシっとキメたガーナ人のトニが、日本人のカモ3羽をとっ捕まえて、ははは! 白い歯剥き出しの必死の愛想笑いで、契約しているボッタクリのセックスクラブに連れて行く途中じゃないか。3000円で飲み放題と誘われて店に足を踏み入れれば、そこにはホテル代別40000円でセックスの押し売りをする韓国人のババアが待っている。ははははは! ダマされる方がバカなんだよ。1人につき2000円のマージンがトニに入るんだ。ヤツはそれで暮らしている。さらにオペラグラスを移動させていく……、お決まりの路地には中国人やロシア人やルーマニア人の売春婦が立ち並び、……そして、なんと言ってもだ! どの角度にレンズを向けても目に入ってくるのは、ここがバカバカしい世界のバカバカしいひとつの縮図として成立しているバカバカしい街であることを明け透けに主張している、選び抜かれたバカっ面オリンピックの予選通過者としか言いようがない通行人の皆様方!! つまりオマエらの面だよ。 バカ野郎! 読むんじゃない、見るんだよ、オペラグラスを両目に押しあてたオレと同じ恰好で、地面に落ちる寸前までこの非常階段からうんと身を乗り出し、この街の夜を本当にオレと一緒に眺めてみるんだ。 オレがいまいるのは、道に面した表部分だけに年増のベリーダンサーみたいなケバいタイル化粧を施した、古い雑居ビルの薄暗い非常階段。階段のある裏壁はもちろん剥き晒しのコンクリートで、それはもう、発見されないまま崩れ果てていく古代遺跡のように風化しているのだが、ははは、各階ごとについていた電球はオレが全部割っちまったから、その酷い有様はそっちからはわからないだろうな。鋼鉄製の階段のあちこちは酷く錆びついて、というか、湿気たクッキーみたいにボロボロで、こんなもんいつ壊れちまってもおかしくはない。けど、そんなことはさ、うん、いつもこの場所でこうして過ごしているオレにとっちゃ、まあ、そう大した問題じゃない。 続きは本誌にてお楽しみ下さい。
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