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血の神話、性の寓話

編集長・矢野優
「新潮」9月号
特別定価1000円
8月6日発売



◎映画作家でもある青山真治氏の「サッド・ヴァケイション」(400枚)は、「Helpless」「ユリイカ」に続く、〈北九州サーガ〉第三部だ。氏において小説と映画の関係はそれ自体が創造的だ。映画において徹底的になされた思考が小説に反映され、またそれが映画に送り返される。「ユリイカ」がカンヌ映画祭で二部門受賞に輝き、小説版が三島由紀夫賞を受賞した後で、青山氏の得た作家的成長のすべてが「サッド~」に直結し、血縁の呪縛とそれへの抵抗が織り成すサーガ世界は、深さを飛躍的に増した。北九州を神話的空間に変容させようとする欲望と、その欲望への批評的な意識が火花を散らす◎嶽本野ばら氏「シシリエンヌ」(前篇260枚)の登場人物を呪縛するのは性の愉楽だ。もしバタイユが現代日本に蘇ったら? 驚くほどストレートに描かれた性的世界が頁を追うごとに奇妙な世界に変容していく本作を読みながら、そんなことを想像した。