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ブルジョワという蛮族がいる

編集長・矢野優
「新潮」10月号
特別定価1000円
9月7日発売



◎東京の外資系企業に勤める画子(32歳)は、ひょんなことから恋人の実家で期間限定の「行儀みならい」をすることになる。六甲山の豪邸に独居する恋人の母親にとって、屯田兵の子孫であり団地育ちの画子はいわば蛮族だ。だが実は画子にとっても、ハイヤーを足代わりに贅沢で退屈な消費と社交に明け暮れる神戸の老マダムは、調査に値する独自の風習と行動様式を備えた蛮族なのだ。谷崎を意識しつつ、「陰翳礼讃」の王国で「東京をおもう」画子の日々を描く清水博子氏「vanity」(170枚)は蛮族対蛮族の、階級対階級の、西対東の、優雅でおかしな闘争と和平の物語だ◎前号に続く嶽本野ばら氏「シシリエンヌ」(後篇260枚)はより強烈でよりビザールな官能純愛譚に展開。中沢新一氏と島田雅彦氏は日本人の起源から未来の皇室像までを語り合い、金原ひとみ氏と斎藤環氏の対話=診察は新たな女性的想像力の可能性を見出す。昭和天皇を主人公にした、A・ソクーロフ監督の問題作『太陽』はいまだ日本公開の目処が立っていないようだ。ソクーロフ監督がヒトラー、レーニンに続き、昭和天皇を主題とした意味などをめぐり、サンクト・ペデルブルクにて監督と沼野充義氏に語り合っていただいた。