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世界の残酷な感触

編集長・矢野優
「新潮」12月号
特別定価950円
11月7日発売



◎過去に小誌で活躍した先輩編集者に話を伺うと、「組置ゲラ」と呼ばれる、掲載号未定のまま活字に組まれた校正刷りがあり、時には日に褪せて黄ばんでいたという。そんな話を思い出し、現編集長は嘆息する。この小稿は「新潮」校了の約二週間前が締切。時には柱となる原稿が一枚も届いていない。そんな時、大切な作家に風邪などひいて欲しくないと思う。人生の諸問題に苦悩し過ぎて欲しくないと願う。だが、締切間際の一本の電話・メール・FAXが誌面を劇的に活性化させることもあるのだ。編集者はいつしか「祈る」ことを切実に学習する◎岡田利規の第一小説「三月の5日間」(100枚)は、今年度岸田國士賞を受賞した戯曲を、リメイクの域を大胆に越えて小説化したもの。2003年3月、米英軍のバグダッド空爆開始の直前に渋谷のラブホテルに入り、5日間を過ごした若い日本人男女は、この世界の残酷でざらついた感触を確かに感じ取った。