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その街の今は
「新潮」7月号
特別定価950円
6月7日発売



◎宮本輝氏の小誌連載「花の回廊」を読むと、昭和30年代の大阪がとても近く親しいものに感じられる。宗右衛門町、道頓堀川……区域や通りや建物は人と同じく名前を持ち、人とかかわり、ダイナミックに変化し、時に消滅する。都市の生命そのものを作品世界に内包したものを〈都市小説〉と呼ぶのであれば、「花の回廊」と同じく、柴崎友香氏「その街の今は」(190枚)は魅力的な都市小説だ。現代の大阪に生きる28歳の主人公は古い絵葉書や年配者の回想を見聞きすることで、昭和初期の、終戦直後の、高度経済成長期の大阪へ、想像力による時間旅行を体験する。都市の固有性と歴史性を繊細に感じながら、「その街の今」を懸命に生きる主人公の生は輝いている◎中沢新一氏「芸術人類学研究所を開く」は今萌芽しつつある新たな科学のマニフェスト◎第19回三島由紀夫賞が古川日出男氏「LOVE」に決定。桐野夏生氏との記念対談をお届けする。
(編集長・矢野 優)