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日本文化は絶滅するのか

大嶋仁/著

990円(税込)

発売日:2025/05/19

  • 新書
  • 電子書籍あり

政治でも、経済でもない、「日本人の精神」が危ない。

歴史より神話、自然に親しむ汎神論的な世界観、土着と外来のハイブリッド、「中空」と「ゆらぎ」の構造……この国の始まりから続く、日本人特有のものの考え方や振る舞いなど「目に見えない精神」が、グローバリズムという現代世界の潮流に呑み込まれようとしている。和辻哲郎、西田幾多郎、レヴィ=ストロース、鈴木大拙など先人の思想をひもとき、日本文化の起源と構造、変容と危地を浮き彫りにする。

目次

はじめに

序章 「日本文化」はいつ生まれたか
目に見えない精神/時間の蓄積の上に/「歴史」よりも「神話」を優先

第一章 日本文化の原点とは何か……生命主義的な世界観
『古事記』と「三柱の神」/創造的生命とベルクソン/汎神論/神話的思考の民族/和辻哲郎のいう「風土」/抒情が叙事に優先/「歌は生命の発露」という発想/生理的・感覚的・具象的認識/文明への憧れと忌避/「象は鼻が長い」の構造解析/不定型を尊ぶ美学傾向/丸山眞男が指摘した「なりゆき」/「漢風」と「ヤマト風」の二重性/「中空構造」から「無の場所」へ

第二章 日本文化の基本構造とは何か……並立と共存のバランス志向
西暦と元号、漢字とかな/土着と外来の共存/記号論的アプローチ/記号としての「天皇」/レヴィ=ストロースの「トーテム型社会」/倫理的観点から見ての欠落/縦の権力より横並び/「タコツボ型社会」の限界/二極のあいだの「ゆらぎ」/柔構造で生じる「ずれ」/山本七平が憂慮した「空体語」

第三章 日本文化はどのように歩んできたか……土着と外来が並立する国
最初からハイブリッド/仏教精神を基盤とする国/仏教の自己脱構築システム/聖徳太子「世間虚仮」の意味/『平家物語』から『梁塵秘抄』へ/和魂漢才のバランス感覚/広く世界に開かれた「個」/親鸞と道元の共通点/神仏並立と蒙古ショック/宗教とイデオロギーの混淆/カトリック教の非寛容/鎖国と日本文化の完成

第四章 近代は日本文化に何をもたらしたか……「聖なるもの」の破壊
ペリー来航と植民地主義/破壊されたアイヌ文化/蒸気革命と産業革命/機械化による労働者の疎外/神話と宗教から近代科学へ/機械論的自然観と倫理観の欠如/法の世界と生活感覚の乖離/心の空洞化

第五章 現代世界は日本文化を絶滅させるか……普遍主義と「無人時代」の到来
普遍主義の国アメリカ/グローバル化と文化の崩壊/ヘーゲル的な絶対主義の世界観/内的な矛盾と精神の疲弊/西田幾多郎の「絶対矛盾的自己同一」/生命哲学としての西田哲学/「無人時代」の到来/国語教育と文化再生/日本人ひとりひとりの情操

あとがき

参考文献一覧

書誌情報

読み仮名 ニホンブンカハゼツメツスルノカ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-611087-0
C-CODE 0212
整理番号 1087
ジャンル 人文・思想・宗教、社会学、思想・社会
定価 990円
電子書籍 価格 990円
電子書籍 配信開始日 2025/05/19

蘊蓄倉庫

明治以降続くテーマ

 学生の頃に買った古い本ですが、『外国人による日本論の名著』(佐伯彰一・芳賀徹編)という新書が今も書棚にあります。1987年に中公新書で刊行され、副題は「ゴンチャロフからパンゲまで」、明治の手前から昭和期までの、43人の著名な外国人による日本論の要点がコンパクトにまとめてあります。
 それらの着眼と特徴は様々ですが、今眺めても、どれもなるほどその通りだと思わせるものがあり、日本人のある種の特殊性を言い当ててもいます。と同時に、鎖国を解いた明治期以降から今にいたるも、外国人から見れば不思議な私たちの精神文化、外国の評価を常に気にする国民性もあるのかもしれません。

掲載:2025年5月23日

担当編集者のひとこと

目に見えない危機

 各種の芸能や技能など、これまで綿々と受け継がれてきた日本の伝統文化が存続の危機に立たされているという話は、テレビや新聞でしばしば耳にします。
 人口減少と地域社会の弱体化が進むなか、やむを得ないことかと思いながらも、芸事にせよ祭事にせよ、何がしか「目に見えるもの」ばかりか、私たち日本人の「目に見えない」精神文化それ自体が崩壊しつつあると言われると、いささか背筋が寒くなる思いです。
 本書では、自然への親しみ、汎神論的な世界観、土着と外来の共存志向、滅びと無常への感性など、この国の始まりから続く日本人特有のものの考え方や振る舞いをひもときます。その上で、他者への批判や否定、常勝の思考、グローバリズム志向など、日本人の精神文化の危機を明らかにします。
 長年、海外で日本の思想史や文学史を教えてきた著者ならではの、切実な日本論です。

2025/05/23

著者プロフィール

大嶋仁

オオシマ・ヒトシ

1948(昭和23)年神奈川県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。パリ国立東洋言語文化学院で日本思想史・日本文学史を教えた後、福岡大学教授。2025年5月現在は名誉教授。「からつ塾」運営委員。著書に『科学と詩の架橋』『生きた言語とは何か』『1日10分の哲学』など。

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