お知らせ
いま注目の本! 窪美澄『夏日狂想』

「中原と会って間もなく、私は彼の情人に惚れ、三人の協力の下に(中略)、奇怪な三角関係が出来上り、やがて彼女と私は同棲した。この忌わしい出来事が、私と中原との間を目茶々々にした」(小林秀雄「中原中也の思い出」)
女優の長谷川泰子が、恋人の中原を捨て小林の元に走る――日本文学史に残る恋愛スキャンダルは、いまからちょうど百年前、大正十四年の出来事でした。
窪美澄さんの直木賞受賞第一作『夏日狂想』の主人公礼子は、泰子がモデル。中原と小林を翻弄した悪女、というイメージが強い泰子ですが、窪さんは「ミューズ」でも「毒婦」でもない女性像を礼子に託しました。
三角関係が破綻した後、礼子がどんな道を歩むのか。『夏日狂想』は、泰子の人生をただなぞるのではなく、波乱のなかで「書くこと」という自らの使命を見つける礼子という女を、慈しむような筆致で新たに創り上げたのです。長谷川泰子に本書を読んでもらえたなら――そう願わずにはいられません。
著者紹介
窪美澄クボ・ミスミ
1965(昭和40)年、東京生まれ。2009(平成21)年「ミクマリ」で女による女のためのR-18文学賞大賞を受賞。受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』が、本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10第1位、2011年本屋大賞第2位に選ばれる。また同年、同書で山本周五郎賞を受賞。2012年、第二作『晴天の迷いクジラ』で山田風太郎賞を、2019(令和元)年、『トリニティ」で織田作之助賞を、2022年『夜に星を放つ』で直木賞を受賞。その他の著作に『アニバーサリー』『よるのふくらみ』『水やりはいつも深夜だけど』『やめるときも、すこやかなるときも』『じっと手を見る』『私は女になりたい』『朔が満ちる』『夏日狂想』『ぼくは青くて透明で』などがある。