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大江戸春画ウォーズ UTAMARO伝

山本暎一/著

935円(税込)

発売日:2025/05/28

  • 文庫
  • 電子書籍あり

『鉄腕アトム』『宇宙戦艦ヤマト』の天才アニメーション作家が、歌麿と蔦重を描く!

新潮社旧倉庫で、27年ぶりに“発見”された原稿。それはTV『鉄腕アトム』『ジャングル大帝』『宇宙戦艦ヤマト』を生んだベテラン・アニメーション作家による、幻の小説だった! 若き天才絵師・歌麿と、彼を育てた蔦屋重三郎、そして仲間たち。さらに彼にまつわる闇の魔物と謎の女うずみ……。妖艶怪奇、奇想天外、時代小説の枠を超えて爆走する前代未聞のエンタテインメント、感動の開幕!

目次

はじめに

第一章 カピタンの道
第二章 音無川
第三章 けころ
第四章 夜行
第五章 大通
第六章 つくもウォーズ
第七章 エレキテル
第八章 なかつ世
第九章 金猫銀猫
第十章 闇の歌麿
第十一章 うずみ
第十二章 代役
第十三章 風斗出者
第十四章 吉原
第十五章 仁和賀
第十六章 はずし合戦
第十七章 大爆発
第十八章 藩
第十九章 ひめごと
第二十章 泣き女
第二十一章 ラビリンス
第二十二章 歌満くら
第二十三章 越中様
第二十四章 暗黒
第二十五章 サバイバル

解説 森重良太

書誌情報

読み仮名 オオエドシュンガウォーズウタマロデン
シリーズ名 新潮文庫
装幀 稲葉朋子/カバー装画、新潮社装幀室/デザイン
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 496ページ
ISBN 978-4-10-106061-3
C-CODE 0193
整理番号 や-90-1
ジャンル 文学・評論
定価 935円
電子書籍 価格 935円
電子書籍 配信開始日 2025/05/28

インタビュー/対談/エッセイ

「アニメーション作家」だからこそ書けた小説

森重良太

 新潮社本館の横に建つ倉庫は、1959(昭和34)年に竣工しました。いまでも健在の、しっかりした建築物です。ただ、茨城・五霞に大きな倉庫ができてからは、本来の商品倉庫の役割は終え、社員の資料などの“保管倉庫”と化しておりました。
 昨年春、その倉庫の一部が、ギャラリーとして改装されることになり、“中身”を整理処分せよとの連絡がきました。新潮社で四二年間、編集者をつとめてきたわたしは、すでに定年退職してフリーランスでしたが、そういえば、大量の資料を残したままでした。
 さっそく倉庫にこもって整理をはじめると……あるダンボール函の底に、分厚い大きな封筒がありました。A4判で一八九枚、ワープロ出力の原稿でした。四〇〇字詰めに換算すると七五六枚の大作です。色褪せてパリパリに乾燥しており、インクジェットの印刷面も、一部消えかかっていました。
 アニメーション作家、山本暎一さん(1932~2021年)の原稿です。虫プロ創設メンバーで、日本初の連続TVアニメーション「鉄腕アトム」や「宇宙戦艦ヤマト」シリーズの、演出や脚本などを手がけた方です。いわば、日本のTVアニメーションを開拓してきた大功労者です。わたしが若いころに担当した、『虫プロ興亡記 安仁明太の青春』(1989年、新潮社刊)の著者でもあります。
 その色褪せた原稿は、1997年に書かれたものです。二七年ぶりの“再会”でした。しかし、諸般の事情で、当時は本にすることができませんでした。それが、こんな雑然としたなかに埋もれていたのかと、懐かしくて、倉庫のなかで、立ったまま読み始めました。お昼前だったと思います。
 五分後、わたしは、原稿を抱えて外へ飛び出し、あるところにこもって、あらためて精読しはじめました。読み終えたのは夜の九時すぎでした。そのころには、乾燥していた原稿も、湿気を吸って、すっかり柔らかくなっていました(それほど密閉度が高く、湿気を遮断する倉庫で眠っていたのです)。
 内容は、稀代の絵師・喜多川歌麿とその仲間たちを描く時代小説、青春群像劇です。しかし、尋常な小説ではありません。闇の魔物や、つくも神が登場する、奇想天外なエンタテインメントで、アニメーションをそのまま文字にしたような面白さです。
 山本さんの声が聞こえてくるようでした――「来年の大河ドラマは、蔦屋重三郎だそうじゃないですか。来年こそ、刊行のチャンスですよ」。
 たしかに、作中に、蔦重も重要キャラとして登場するのです。彼は「この世で最低のもの」を堂々と描ける絵師を探しており、若き日の歌麿に出会います。この二人が生み出すのが、『歌満くら』『画本虫撰』などの名作です。これらのどこがすごいのか、また、なぜ、歌麿だけに、あれほど天才的な画力が宿ったのか――ユニークな解釈が続出します。いかにも山本さんらしい、“体制批判”も盛り込まれています。おそらく山本さんは、ご自分や、現代のアニメーターの姿を、歌麿たち江戸時代のクリエイターに仮託したのだと思います。
 そのほか、「江戸シティ」「ラビリンス」「サバイバル」など、現代カタカナことばが当たり前のように登場し、「屋敷の前は今の清洲橋通り」「万年橋は、今、首都高速道路の上にかかっているが」など、時代小説に不慣れな読者にもわかりやすく書いてくれています。従来の常識から思いきってはみだし、とにかく読者を愉しませようとする、「アニメーション作家」山本暎一さんの姿が目に浮かびます。
 この原稿は、幸い、新潮文庫で刊行できることになり、それからは“疾風怒濤”でした。連絡先不明だったご遺族を探し出してお会いし、事情を説明して、刊行の許諾をいただきました。ご遺族も、山本さんがこれほどの分量の小説を書いていたことを初めて知り、驚いておられました(そこに至る経緯は、文庫巻末に寄稿した解説で、詳述しました)。
 この3月、新潮社本館と倉庫が、「登録有形文化財」に登録されることが“内定”しました。いまは、ギャラリー《倉庫 SOKO》ですが、そのなかで、二七年間、湿気から守られながら眠っていた原稿が、この『大江戸春画ウォーズ UTAMARO伝』なのです。

(もりしげ・りょうた 編集者/ライター)

波 2025年6月号より

著者プロフィール

山本暎一

ヤマモト・エイイチ

(1932-2021)京都生れ。アニメーション作家。手塚治虫が主宰する虫プロダクションの創設メンバー。『ある街角の物語』(演出ほか)で、芸術祭奨励賞、毎日映画コンクール大藤信郎賞を受賞。日本初の連続TVアニメーション『鉄腕アトム』や『ジャングル大帝』などを演出した。劇場用作品『千夜一夜物語』『クレオパトラ』『哀しみのベラドンナ』『おしん』などの監督も担当。虫プロ倒産後は、『宇宙戦艦ヤマト』シリーズの監修・構成・脚本を手がけた。著書に『虫プロ興亡記 安仁明太の青春』(1989年、新潮社刊)がある。

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