
砂の女
693円(税込)
発売日:1981/02/27
来る日も来る日も砂・砂・砂……。
砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める村の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のうちに、人間存在の極限の姿を追求した長編。20数ヶ国語に翻訳されている。読売文学賞受賞作。
書誌情報
読み仮名 | スナノオンナ |
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シリーズ名 | 新潮文庫 |
発行形態 | 文庫 |
判型 | 新潮文庫 |
ISBN | 978-4-10-112115-4 |
C-CODE | 0193 |
整理番号 | あ-4-15 |
ジャンル | 文芸作品、文学賞受賞作家 |
定価 | 693円 |
まとめテーマでくくる 本選びのヒント
どういう本?
タイトロジー(タイトルを読む)
女は、素裸だったのだ。
涙でにごった視界のなかに、女は影のように浮んで見えた。畳の上に、じかに仰向けになり、顔以外の全身をむきだしにして、くびれた張りのある下腹のあたりに、軽く左手をのせている。ふだん人が隠している部分は、そんなふうにむきだしにしているのに、逆に、誰もが露出をはばからない、顔の部分だけを、手拭で隠しているのだ。むろん、眼と呼吸器を砂から守るためだろうが、そのコントラストが、裸体の意味を、いっそうきわ立たせているようだった。
しかも、その表面が、きめの細かい砂の被膜で、一面におおわれているのだ。砂は細部をかくし、女らしい曲線を誇張して、まるで砂で鍍金(めっき)された、彫像のように見えた。ふいに、舌の裏側から、ねばりけのある唾液が、ふきだしてくる。(本書51〜52ぺージ)
著者プロフィール
安部公房
アベ・コウボウ
(1924-1993)東京生れ。東京大学医学部卒。1951(昭和26)年「壁」で芥川賞を受賞。1962年に発表した『砂の女』は読売文学賞を受賞したほか、フランスでは最優秀外国文学賞を受賞。その他、戯曲「友達」で谷崎潤一郎賞、『緑色のストッキング』で読売文学賞を受賞するなど、受賞多数。1973年より演劇集団「安部公房スタジオ」を結成、独自の演劇活動でも知られる。海外での評価も極めて高く、1992(平成4)年にはアメリカ芸術科学アカデミー名誉会員に。1993年急性心不全で急逝。