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日日平安

山本周五郎/著

781円(税込)

発売日:1965/06/17

  • 文庫
  • 電子書籍あり

切腹のマネをして一飯を乞うほどに落ちぶれた浪人が、藩の騒動にまきこまれ、それを手際よく片づけるまでをユーモラスに描いた『日日平安』。安政大獄によって死罪を命じられた橋本左内が死に直面して号泣するという“意外な”態度のなかに、武士道をこえた真実の人間像をさぐった『城中の霜』。ほかに『水戸梅譜』『しじみ河岸』『ほたる放生』など、ヒューマニズムあふれる名作全11編。

  • テレビ化
    火曜ドラマ 山本周五郎時代劇 武士の魂(2017年4月放映)
  • テレビ化
    火曜スペシャルBSジャパン開局15周年特別企画 山本周五郎人情時代劇(2016年2月放映)
  • 映画化
    椿三十郎(2007年12月公開)

書誌情報

読み仮名 ニチニチヘイアン
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 480ページ
ISBN 978-4-10-113409-3
C-CODE 0193
整理番号 や-2-9
ジャンル 文学賞受賞作家
定価 781円
電子書籍 価格 693円
電子書籍 配信開始日 2008/02/08

コラム 映画になった新潮文庫

原幹恵

 木曜ドラマ「エイジハラスメント」が終わり、一息ついたので、ふと初めて時代小説を読んでみようかな……と思い立ったのですが、うまく世界へ入りこむことができませんでした。山本周五郎さんの短篇小説『日日にちにち平安』を読んだら、見知らぬ言葉が多くて(ごく最初の方に出てくるだけでも〈ひすばった〉〈抜身の七三〉〈紊っている〉〈五風十雨〉とか)、「ふーむ」という感じになってしまいました。筋は頭へ入っても、あまり面白く思えなかったのです。
 それが、これを映画化した黒澤明監督の「椿三十郎」を観ると、殺陣はかっこいいし(三船敏郎さんの動きに圧倒される)、登場人物も性格がくっきり立っているし(若い仲代達矢さんや加山雄三さんや田中邦衛さんが新鮮)、たった96分の上映時間にみっしり物語が詰まっていて、断然面白い! 観終ってからもう一度、原作に戻ると理解しやすく、脚本へ移した時の換骨奪胎の巧さにびっくりもします。
 藩政の不正に怒る若侍たちに素浪人が加わって、敵側(不正をしている側)に監禁された城代家老の身をいかに奪い返すか、というのがメイン・プロット。そこは原作と同じだけど、主人公のキャラクターがまるで異なっています。剣の腕も違えば、若侍たちに味方する動機も違う。かと思ったら、城代家老の奥方(入江たか子さん)とお嬢さま(団令子さん)の描き方は、原作通りだったり。この二人が出てくるとほっこりした雰囲気が画面に漂って、映画のアクセントになっています。入江さんも団さんも、着物を着て演技する、その所作がいちいち美しく素敵。
 原作ではなくて、映画の方ですが、私の胸に残ったのは、奥方が初対面の三十郎を諭す、「あなたは何だかギラギラし過ぎてますね。……あなたは鞘のない刀みたいな人。よく斬れます。でも本当にいい刀は鞘に入っているものですよ」というセリフです。
 その後、あれやこれやがあって、観たことのないような壮絶な決闘場面の末、ラストシーンで三十郎は若侍たちにこのセリフを言い聞かせます。「あの奥方の言う通り、本当にいい刀は鞘に入ってるんだ!」。
 この後で三十郎がどうするかは伏せておきますが(原作と違う選択をします)、私は〈鞘〉について考え込みました。
 私の周りにも、才能はあるのに、鞘のない刀のような人、ギラギラし過ぎている人が確かにいます。そして本当に凄い人は、決してギラギラし過ぎていないなとも思い当ります。だから奥方の言うことは正しいのだけれど、私自身は鞘に入り過ぎているんじゃないかなあと悩んだのです。
 嫌われたくないなとか、人に合わせなくちゃとか、怒られないようにとか思って、ずっと無難ないい子・・・でいて、別にそれは無理にいい子でいたわけではないし、自分の性格通りでもあっただろうけれど、このままでいるのも詰まらないな、例えば演技の幅だって今以上に広げられないんじゃないか……そんなふうに思え始めて――。私はむしろ鞘から出て、少しギラギラした方がいいのかもしれない。
 とはいえ無理をしても仕方ないから、まずは日本舞踊と英会話を習い始めるつもり――というあたりが今の私の限界みたいですが。

 

(はら・みきえ 女優)
波 2015年10月号より

著者プロフィール

山本周五郎

ヤマモト・シュウゴロウ

(1903-1967)山梨県生れ。横浜市の西前小学校卒業後、東京木挽町の山本周五郎商店に徒弟として住み込む。1926年「須磨寺附近」が「文藝春秋」に掲載され、文壇出世作となった。『日本婦道記』が1943年上期の直木賞に推されたが、受賞を固辞。以後、「柳橋物語」「寝ぼけ署長」「栄花物語」「樅ノ木は残った」「赤ひげ診療譚」「五瓣の椿」「青べか物語」「虚空遍歴」「季節のない街」「さぶ」「ながい坂」と死の直前まで途切れなく傑作を発表し続けた。

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