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面白南極料理人 名人誕生

西村淳/著

440円(税込)

発売日:2009/06/29

  • 文庫
  • 電子書籍あり

寒くて、おいしくて、楽しい南極。爆笑シリーズ最新刊!

巡視船で航海中突然呼び出された著者は、南極観測隊員に選ばれたことを知る。そうだ、ずいぶん前に応募してたんだっけ! 過酷な訓練や悲劇に終った身体検査の間に、次々現れる濃~いキャラの隊員たち。超お喋りな相方の料理人、どう見ても猪八戒のパイロット、ウヒャヒャ笑い続ける隊長──夢と不安に包まれて到着した白い大陸で、外は寒いが仲間同士は温かい生活が始まる。南極料理人誕生爆笑秘話。

目次
序章としての再会
観測隊員になった……
出頭命令
むかついた
夏訓練
相方スー坊登場
夏訓練が始まった
身体検査の悲劇
帰郷
ムラカミーノ登場
なんだか変な通信隊員
藤沢氏の味噌汁
イエス・キリスト、ドラ八出現
出航した……
東大が現れた
南極に挑め
到着した……
そして到着
L30オペレーション
奇妙な同居
越冬が始まった……
『ANTARCTICA30』
光の中で生まれたら
あとがき
解説 沖田修一

書誌情報

読み仮名 オモシロナンキョクリョウリニンメイジンタンジョウ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-115355-1
C-CODE 0126
整理番号 に-17-5
ジャンル エッセー・随筆
定価 440円
電子書籍 価格 440円
電子書籍 配信開始日 2010/02/05

書評

極寒地でのハイテンションな日々

北村浩子

 その日、私はずり落ちたメガネを直す気力もありませんでした。ゾンビのような形相になっているであろうことは、鏡を見なくても分かる。旅でも出張でもなく普通の仕事の帰り道なのに、新宿駅でグリーン車の列に並んでしまい、窓に映るアラフォー女の疲れた顔に我ながらゾッとしつつ、シートの背に頭をもたせかけました。
 そのまましばしまどろみの時間……の前に、手が鞄の中から本を取り出しました(座れると半自動的にそうしてしまうのです)。ちょっと活字を見てから寝るか。そう思って表紙をめくってから電車が横浜に着くまでの約30分間、なんと私はその本を一度も閉じることができませんでした。しかも、ゾンビ顔のままガッガッと腹筋を使って笑っていたのです。ビールを飲み、メロンパンを食べていた隣のビジネスマンがぎょっとした表情でこっちを見ている。その視線を感じながら、ビールにメロンパンって南極じゃなかなかできない組み合わせだよなぁ、と思う余裕すらあった。そう、そのとき読んでいたのが西村さんのデビューエッセイ『面白南極料理人』でした。
 長年ラジオでニュースを読んでいるのにもかかわらず、南極には昭和基地しかないと思っていた私は「ドームふじ基地」で越冬したという記述に「え、そんなのあったの?」と思い、ドームという言葉から東京ドームのような半球形の建物を思い浮かべ、南極と言っても人がいるんだから設備だって完備されてるんだろうと勝手に想像し、それらの予想がページをめくる度に崩されていくことに快感を感じていました。1996年、第38次観測隊に、海上保安庁から料理人として参加した西村さんのこの南極日記は、一言でいえば「世界で最も過酷な場所で過ごしたオッサンたちのハイテンションな日々」の記録。平均気温マイナス57度、富士山よりも高い場所で、様々な分野の専門家たちがそれぞれのミッションを遂行しつつ、誕生会をしたりマイナス40度の暖かい日(!)にジンギスカンパーティやソフトボール大会をしたりお尻丸出しで露天風呂に入ってみたり……といった、およそナチュラルハイな状態でなければしない(できない)であろうイベントに興じる姿が、それはそれは楽しそうに描かれているのです。
 と言っても、楽しそう! と思えるのは書き手が西村さんだからにほかなりません。陽気な筆致で、ときにイキのいい悪態をつきながら、1年間の滞在中、オッサンたちの胃袋に何を届けたかを教えてくれるわけですが、特にスペシャルな日の料理の豪華さといったらもう……蟹尽くしだったり松阪牛ステーキだったり、ドラマ「王様のレストラン」のメニューを再現してみたり(パイだって生地から作っちゃう♪)と悶絶必至。もちろん、普段の食事だって心がこもっています。「写真はちょっと樹木希林似だけど、西村さんって正直でユーモアのあるステキなオジサンよね~」と、見る目のある女子は必ずや思うに違いないのです。
 で、ファンになる→他のも読みたくなる→『面白南極料理人 笑う食卓』と『お料理なんでも相談室』を読む→またもやお腹から笑う→あ、そーいえば西村さんって昭和基地にも滞在したことあったよね? それは本になってないの? と思う……という流れになるわけですが、第4弾のこの『面白南極料理人 名人誕生』はその通り、西村さんが初めて南極に足を踏み入れた1988年、第30次隊に参加したときのことが満を持して書かれています。てか順序逆じゃね? というギャルのつぶやきは放っておいて、どうしてこんなにユニークな人たちばかり観測隊に選ばれるのよ? と思わずにはいられない、またしてもとでも言いたいエピソードばかり。しかもこの『名人誕生』には、レシピに加え、30次隊が発行していた貴重な基地限定新聞が載っていて、これを読むと、とにかくなんでも楽しまなきゃねというメンバーのポジティブな姿勢が伝染するという特典もあります。
『面白南極料理人』のまえがきには〈映画になるような、命がけの冒険も起きないが(略)笑いをたやさず越冬生活を送ってきた〉とあります。がなんと! 映画になった! しかも主演はあの堺雅人さん! 映画館ではぜひシリーズ4冊を即売して欲しいものです。堺さんファンを抱き込んでこっちのものに……できるはず。この面白さなら、間違いありません。

(きたむら・ひろこ フリーアナウンサー)
波 2009年7月号より

著者プロフィール

西村淳

ニシムラ・ジュン

1952(昭和27)年、北海道・留萌生れ。網走南ヶ丘高校卒業後、舞鶴海上保安学校へ。巡視船勤務の海上保安官となる。第30次南極観測隊、第38次南極観測隊ドーム基地越冬隊に参加。巡視船〈みうら〉の教官兼主任主計士として海猿のタマゴたちを教えた後、2009(平成21)年に退職。現在は講演会、料理講習会、TV/ラジオなどで活躍中。著書に『面白南極料理人』『面白南極料理人 笑う食卓』『身近なもので生き延びろ─知恵と工夫で大災害に勝つ―』『南極料理人の悪ガキ読本―北海道旨いぞレシピ付き―』など。

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