ホーム > 書籍詳細:魂でもいいから、そばにいて―3・11後の霊体験を聞く―

未曾有の大災害で家族を失った人々がはじめて語った16の「奇跡」の物語。

魂でもいいから、そばにいて―3・11後の霊体験を聞く―

奥野修司/著

649円(税込)

本の仕様

発売日:2020/03/01

読み仮名 タマシイデモイイカラソバニイテサンテンイチイチゴノレイタイケンヲキク
装幀 田中和義(新潮社写真部)/カバー写真(宮城県名取市閖上 日和山)、新潮社装幀室/デザイン
雑誌から生まれた本 新潮から生まれた本
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-123311-6
C-CODE 0195
整理番号 お-109-1
ジャンル ノンフィクション
定価 649円
電子書籍 価格 649円
電子書籍 配信開始日 2020/03/06

未曾有の災害で愛する者に突然死なれ、絶望の淵に立たされた人々の心を救ったのは、奇跡としかいいようのない体験だった。布団に入ってきた夫を「抱いてあげればよかった」と悔いる妻。階上の息子の足音を聞く母。死亡届を書いている時に兄からメールを受け取った妹。それは夢だったのか、幻なのか――。再会を願う痛切な声と奇跡を丹念に拾い集めた感動のドキュメンタリー、待望の文庫化。

著者プロフィール

奥野修司 オクノ・シュウジ

1948(昭和23)年、大阪府生れ。立命館大学卒業。ノンフィクション作家。『ナツコ 沖縄密貿易の女王』で講談社ノンフィクション賞と大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。その他『小沢一郎 覇者の履歴書』、『皇太子誕生』、『心にナイフをしのばせて』、『看取り先生の遺言』、『放射能に抗う』、『再生の島』、『「副作用のない抗がん剤」の誕生』、『魂でもいいから、そばにいて』、『丹野智文 笑顔で生きる』(丹野智文と共著)、『怖い中国食品、不気味なアメリカ食品』(徳山大樹と共著)、『ゆかいな認知症』、『天皇の憂鬱』、『美智子さまご出産秘話』、『なぜか笑顔になれる認知症介護』など著作多数。

書評

死者と生者の間に生み出された物語

橘玲

「そもそもなんでこんなことを始めたのか?」というのが、私の最初の疑問だった。東日本大震災をテーマにした本はいくつもあるが、まさか霊体験とは思わなかった。
 じつはこの疑問は、奥野さん自身が本書の冒頭に書いている。きっかけは、宮城県で二千人以上を看取った在宅緩和医療の医師だった。その医師はがんの専門医だったが、自身が胃がんで余命十カ月を宣告され、奥野さんと話したときはその十カ月がすでに過ぎていた。
 被災したひとの二割が幽霊を見たという数字を挙げて、医師は奥野さんに、霊と生者との物語を書くよう強く勧めた。だが当然のことながら、奥野さんは躊躇する。客観的に検証できない霊体験では、ノンフィクションとして成立しないのではないか……。
 しかしそれでも奥野さんは、自分でもよくわからないなにかに突き動かされ、重い腰をあげて東北に向かう。そこはオガミサマという、死者と交流できる女性霊媒師がいまも受け入れられている土地だった。
 父母と死別した女性は、気仙沼のブティックで見ず知らずの客から、「どなたか亡くなりましたか」といきなり声をかけられる。「あなたは胃が弱いから胃の病気に気を付けろとお父さんが言ってます。お母さんは、ありがとうと言ってますよ」
 子どもを亡くした水道工の男性は、建て主の奥さんから「誰かそばに立ってるよ」といわれる。「男の子かなぁ? 悲しそうな顔で見てる。体壊すから、そんなに無理しないでって言ってるよ」
 たしかにこれでは、ノンフィクションにはならない。オガミサマがほんとうに霊と話しているかを科学的に検証するのは難しくない。そしておそらく、物理法則に反することはなにも起きていない。
 現代の脳科学や心理学は、ひとが頻繁に記憶を書き換えていることを明らかにした。たとえるなら、死者に会いたいと念じていると、霊となった死者が会いにくるのではなく、霊体験の記憶が無意識のうちに「捏造」されるのだ。
 しかし、記憶を書き換えているのはいったい誰だろう。それは「無意識」だが、フロイト的なおどろおどろしい欲望のかたまりではなく、文章を読み言葉を理解する知能を持っている。そのうえ、無意識が考えていることを私たち(意識)は知ることができない。
 意思と知能を持つ無意識は、私たちのなかにいる「もう一人の見知らぬ自分」だ。そしてこの何者かは、意識が世界を理解するときのように、論理や物理法則に頼ったりはしない。“それ”が生きているのは、神や悪魔、魔物や妖精、霊や妖怪が跋扈するスピリチュアルな世界なのだ。
 私たちはみな、意識的・合理的な自己と、不合理でスピリチュアルな自己をもっている。親しいひとを失ったとき、意識では現実を理解してもこころでは受け入れることができないのは、スピリチュアルな自己が死を拒絶しているからだ。そしてこの隙間から、霊が立ち現われてくる……。
 ここに、ノンフィクションになり難かった奥野さんの取材が、「ノンフィクション作品」として成立する理由がある。霊体験とは、意識的な自己とスピリチュアルな自己を結ぶ「物語」なのだ。
 奥野さんが聞き取ったのは、理不尽な死を突きつけられたひとたちが、かなしみのなかで生み出さざるを得なかったそれぞれの物語だ。そこにはさまざまな霊が現われるが、幼い子どもを失った親の物語に終わりはなく、その一方で、高齢の父母や長年連れ添った夫・妻はしばしば物語を終わらせるために現われる。
 東京で暮らしていた三三歳の女性は、震災の直後、陸前高田にいる安否のわからない祖母の夢を見る。不自由な足で杖をつきながら津波から逃げようとしたものの、濁流に巻き込まれ恐ろしげな表情で水の中に浮かんでいた。
 それから彼女はずっと、大好きだった祖母を助けられなかったことを気に病んでいた。そしてある日、祖母が彼女の部屋にやってくる。
「ほんとうはなあ、怖かったんだぁ」と、祖母はいった。「でも、おばあちゃんは大丈夫だからね。心配しなくていいよ。みんなのことよろしくな」
 この物語を奥野さんに語ることで、彼女は祖母を送ることができたのだろう。

(たちばな・あきら 作家)
波 2017年3月号より
単行本刊行時掲載

目次

旅立ちの準備
春の旅
1 『待っている』『どこにも行かないよ』
亀井繁さんの体験
2 青い玉になった父母からの言葉
熊谷正恵さんの体験
3 兄から届いたメール《ありがとう》
熊谷常子さんの体験
4 『ママ、笑って』――おもちゃを動かす三歳児
遠藤由理さんの体験
5 神社が好きだったわが子の跫音あしおと
永沼恵子さんの体験
夏の旅
6 霊になっても『抱いてほしかった』
阿部秀子さんの体験
7 枕元に立った夫からの言葉
赤坂佳代子さんの体験
8 携帯電話に出た義兄の霊
吉田加代さんの体験
9 『ほんとうはなあ、怖かったんだぁ』
阿部由紀さんの体験
10 三歳の孫が伝える『イチゴが食べたい』
千葉みよ子さんの体験
秋の旅
11 『ずっと逢いたかった』――ハグする夫
高橋美佳さんの体験
12 『ただいま』――津波で逝った夫から
菅野佳代子さんの体験
13 深夜にノックした父と死の「お知らせ」
三浦幸治さんと村上貞子さんの体験
14 《一番列車が参ります》と響くアナウンス
今野伸一さんと奈保子さんの体験
15 あらわれた母と霊になった愛猫
大友陽子さんの体験
16 避難所に浮かび上がった「母の顔」
吾孫耕太郎さんの体験
旅のあとで
解説 彩瀬まる

判型違い(書籍)

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