水底の歌―柿本人麿論―〔上〕
990円(税込)
発売日:1983/03/01
- 文庫
柿本人麿は流罪刑死した。千二百年の時空を飛翔して万葉集に迫り、正史から抹殺された古代日本の真実をえぐる梅原日本学の大作。
天下第一の詩人、歌聖柿本人麿は、時の政権に地位を追われ、はるか石見国に流罪刑死! 斎藤茂吉、さらには遡って賀茂真淵の解釈によって定説とされて来た従来の常識を徹底的に粉砕し、1200年の時空を超えて、日本古代史と万葉集の不可分の関係をえぐる。人麿の絶唱は何を意味するか。正史から抹殺され、闇の中に埋もれた巨大な真実を浮彫りにする雄渾無比の大作。
目次
第一部 柿本人麿の死――斎藤茂吉説をめぐって――
第一章 斎藤茂吉の鴨山考
歌聖・柿本人麿の秘密/終焉の地をめぐる謎/斎藤茂吉による鴨山・石川の推定/茂吉の詩的直観と沢瀉・土屋・武田三氏の反応/茂吉の鴨山発見――三つの前提条件/茂吉の推論――鴨山捜索の三つの鍵/カメはカモより転じ、貝は峡を表わす/浜原への道――人麿のルートの推定/砂鉄の地の伝染病――人麿の死因の推定/不都合な二首は万葉編者の失態である/茂吉による人麿像の学界および歌壇制覇/折口信夫の人麿・吟遊詩人集団説/折口・高崎・谷本説と茂吉の猛烈なる反撃/郷土史家への先制攻撃と石河邑の発見/亀村の津目山に推定するための茂吉の苦闘/代用証明を積み重ねる茂吉的執念/「鴨山考」の勝利と新しい鴨山の発見/あっけない変説と茂吉の鴨山歌
第二章 鴨山考批判
鴨山五首は一組で人麿の最期を語っている/イハネシマケルの誤読に立つ鴨山イメージ/仙覚・契沖・真淵ら古注のとる第二首の解/カヒニマジリテの誤解による石川イメージ/大いなるものは悲嘆であって景色ではない/当代随一の詩人がなぜ辺境で淋しく死んだか/契沖の下級官吏説と真淵の朝集使説/下級役人赴任説のもつ数々の矛盾/石見出生説・遊芸集団説・流罪説/茂吉の浜原・人麿終焉地説と矢富氏の実証的反論/詩人の空想が生んだ浜原の砂鉄採掘事業/近代主義的万葉理解の限界――真淵の古今序改竄/人麿と平城天皇を結ぶ伝承――水・悲劇・猿の心象/正史に残る柿本佐留の痕跡と真淵の論断/仙覚と由阿の古注に見る人麿の死の解釈/伝承のつたえる人麿と子・躬都良の運命/正徹のつたえる高津在の人麿木像の怪異/忌日の伝承――核をなす流罪・水死・怨霊の心象/巻一・巻二は古代統一国家形成を歌う叙事詩である/運命の年・大宝元年と和銅元年――人麿と不比等
第三章 柿本人麿の死の真相
鴨山五首が語る悲劇の三つの局面/墓のある小島で詩人は自らの挽歌をうたう/人麿はいかに葬られたか――山峡説と火葬説/合理的解釈ゆえのさまざまな誤読――土葬説ほか/古注に見る浮舟の死のはるかなこだま/夫の水死体を探しあぐねた妻は悲嘆にくれる/名を秘めた友人の権力者に対する痛切な告発/『竹取物語』に忍びこませた不比等への諷刺/都の人々は人身御供の噂に恐れおののく/流罪の地としての鴨島と木梨軽太子の場合/出雲神話の伝える不幸な父子の処刑/春の海の無惨な水死刑――人麿の最期/万葉集編者はひそかに圧殺された真実を語る/流人の島・狭岑島の痛ましい遺跡群/凄惨きわまりない美――流人・人麿の絶唱
第二部 柿本人麿の生――賀茂真淵説をめぐって――
第一章 賀茂真淵の人麿考
人麿論の方法について/賀茂真淵の人麿解釈/柿本氏の消長と万葉集復権期の暗合/人麿時代考に重なる『古今集』仮名序解釈/俊成と定家の先説にたいする懐疑の表明/二条家における権威ある誤謬の形成/定家の仮名序否定と万葉集成立期の推論/契沖の家持私撰説と真淵の二段階編集説/真淵の人麿年齢考の二つの前提/八色の姓制定と柿本朝臣登場の意味/伝承の正三位と考証の下級地方官との間/『人丸秘密抄』の奇妙な記述と真淵の考証の圧勝/『古今集』仮名序を改竄する真淵の近代合理主義/原典を書きかえた文献学者・真淵の弁明/古今序の謎と近代考証学の限界/紀氏の屈折した主張と柿本猨の秘密
第二章 年齢考
はたして正史は人麿にふれていないか/八色の姓の政治効果/持統体制確立のための人材登用/名門・大伴氏の疎外と新興・柿本氏の登場/人麿と猨――ありうる三つの関係/人麿の死と佐留の死は重ねることができる/真淵の人麿=舎人説は十分な論証といえない/真淵の呪縛力と土屋文明の懐疑/草壁挽歌にこだまする天孫降臨神話
書誌情報
読み仮名 | ミナソコノウタカキノモトノヒトマロロン1 |
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シリーズ名 | 新潮文庫 |
発行形態 | 文庫 |
判型 | 新潮文庫 |
頁数 | 530ページ |
ISBN | 978-4-10-124402-0 |
C-CODE | 0192 |
整理番号 | う-5-2 |
ジャンル | 詩歌、哲学・思想 |
定価 | 990円 |
著者プロフィール
梅原猛
ウメハラ・タケシ
(1925-2019)1925年宮城県生まれ、哲学者。国際日本文化研究センター顧問。京都大学文学部哲学科卒業。立命館大学教授、京都市立芸術大学学長、国際日本文化研究センター所長などを歴任。縄文時代から近代までを視野におさめ、文学・歴史・宗教等を包括して日本文化の深層を解明する幾多の論考は〈梅原日本学〉と呼ばれる。著書に『隠された十字架一法隆寺論』、『葬られた王朝一古代出雲の謎を解く』、『親鸞「四つの謎」を解く』(以上すべて新潮社)など多数。
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