
デトロイト美術館の奇跡
539円(税込)
発売日:2019/12/25
- 文庫
- 電子書籍あり
映画になるようなワクワクするストーリーはやはり、マハさんにしか書けない。(女優・鈴木京香)
ピカソやゴッホ、マティスにモネ、そしてセザンヌ。市美術館の珠玉のコレクションに、売却の危機が訪れた。市の財政破綻のためだった。守るべきは市民の生活か、それとも市民の誇りか。全米で論争が過熱する中、一人の老人の情熱と一歩が大きなうねりを生み、世界の色を変えてゆく――。大切な友人や恋人、家族を想うように、アートを愛するすべての人へ贈る、実話を基に描かれた感動の物語。
第二章 ロバート・タナヒル《マダム・セザンヌ》一九六九年
第三章 ジェフリー・マクノイド《予期せぬ訪問者》二〇一三年
第四章 デトロイト美術館《奇跡》二〇一三―二〇一五年
書誌情報
読み仮名 | デトロイトビジュツカンノキセキ |
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シリーズ名 | 新潮文庫 |
装幀 | ポール・セザンヌ《画家の夫人》1886年頃 油絵 カンヴァス 100.6×81.3cm デトロイト美術館蔵 Bequest of Robert H.Tannahill/カバー装画、(C)Detroit Institute of Arts/Bridgeman Images/カバー写真、新潮社装幀室/デザイン |
雑誌から生まれた本 | 芸術新潮から生まれた本 |
発行形態 | 文庫、電子書籍 |
判型 | 新潮文庫 |
頁数 | 144ページ |
ISBN | 978-4-10-125963-5 |
C-CODE | 0193 |
整理番号 | は-63-3 |
ジャンル | 文学・評論 |
定価 | 539円 |
電子書籍 価格 | 506円 |
電子書籍 配信開始日 | 2020/05/22 |
書評

胸の鼓動が高まる出会い
まだ訪れたことのない街なのに、愛おしく感じるのは何故でしょうか。日差しをあびて輝く街路樹や街角のカフェ、そして市民に親しまれたデトロイト美術館、DIA。
芸術新潮に四回に渡り連載された、原田マハさんの『デトロイト美術館の奇跡』は、デトロイト市の財政破綻により、DIAのコレクションが売却へむかう、という2013年の実際のニュースから始まります。市民に愛され磨かれたDIAの珠玉ともいえる収蔵作品の数々は、デトロイト市が抱えた負債を返す手段として最も現金化しやすい財産だったからです。
堂々たる美術コレクションを築き、それを美術館に寄贈する財界人。貧しいながらも、夫とともにそこで過ごす時間にささやかな幸福を感じる女性。ある肖像画に導かれるようにして郷里を離れ、その美術館で働くキュレーター。登場する様々なキャラクターがどれもいきいきと魅力的で、その美術館がある街での暮らしを、そして何よりDIAを愛しんでいます。
自動車工場で長年働いてきた生粋のデトロイターであるフレッドと、亡き妻のジェシカ。お気に入りのアートを友達と呼び、美術館へは「友達に会いに行く」という彼らのエピソードに、心動かされる美術愛好家は多くいらっしゃるのではないでしょうか。物語では、そのフレッドの純粋な思いが、デトロイトに大きな奇跡を生み出す発端になるのです。
不況という雨は、デトロイトの街を長く濡らしたけれど、終盤、ついに美術館は最も美しく在る方法を市民たちに見つけだされます。淡く少しずつ色を変える紫陽花のように、光のつぶを丁寧にカンヴァスにのせた印象派の絵画のように、人々の小さな善意を重ね奇跡は起こりました。デトロイトの街に大きな虹が架かったのです。
読後、美術が好きで良かった、と美術の魅力を知る誇りと嬉しさがじわりと広がりました。趣味と胸を張っていうには、芸術のイメージはまだまだ高尚で、自分に知識があるわけではないけれど。
美術館を訪れた時、作品の完成度に目を見張るだけでなく、胸の鼓動が高まるような特別な出会いを感じたことが幾度となくあります。そして、一人のアーティストの作品を観続けているうちに愛着を覚えて、いつか自室の壁にこの作家の小品を掛けたいとうっとり夢見たりもしています。
きっと、自分なりに楽しく作品に向き合えてさえいれば、私は美術愛好家を名乗って良いのだと感じます。
心血を注がれた一枚の絵画とそれを鑑賞する側の想像力。美術に造詣深い原田さんならではの筆致でしょう。繊細な人間観察と一枚の作品を奥深くまで掘り下げる眼。
原田さんの生み出した登場人物たちにいざなわれ、デトロイトの街を訪ねたいと思います。そして人々に愛され続けるDIAの絵画を心ゆくまで堪能したいと思います。
懐かしさを抱えながら、一枚また一枚。
この美術館で起こった奇跡の予習は終わっていますから。
(すずき・きょうか 女優)
波 2016年10月号より
単行本刊行時掲載
著者プロフィール
原田マハ
ハラダ・マハ
1962(昭和37)年、東京都生まれ。作家。関西学院大学文学部日本文学科および早稲田大学第二文学部美術史科卒業。馬里邑美術館、伊藤忠商事を経て、森ビル森美術館設立準備室在籍中の2000(平成12)年、ニューヨーク近代美術館に半年間派遣。その後2005年『カフーを待ちわびて』で日本ラブストーリー大賞を受賞し、翌年デビュー。2012年に発表したアートミステリ『楽園のカンヴァス』は山本周五郎賞、R-40本屋さん大賞、TBS系「王様のブランチ」BOOKアワードなどを受賞、ベストセラーに。2016年『暗幕のゲルニカ』がR-40本屋さん大賞、2017年『リーチ先生』が新田次郎文学賞を受賞。その他の作品に『本日は、お日柄もよく』『ジヴェルニーの食卓』『デトロイト美術館の奇跡』『常設展示室』『風神雷神』『リボルバー』などがある。