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ナチュラリスト―生命を愛でる人―

福岡伸一/著

649円(税込)

発売日:2021/10/01

書誌情報

読み仮名 ナチュラリストセイメイヲメデルヒト
装幀 徳丸ゆう/イラスト、菅野健児(新潮社写真部)/写真、新潮社装幀室/デザイン
雑誌から生まれた本 考える人から生まれた本
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-126232-1
C-CODE 0195
整理番号 ふ-49-2
ジャンル 文学・評論
定価 649円

昆虫少年が生物学者を経て、「ナチュラリスト」になるまで。白熱の知的生物学講義!

生命の本質を見つめ、美しさと精妙さに溢れるこの世界をまるごと愛したい……。大富豪ウォルター・ロスチャイルドにドリトル先生、生涯をかけて恐竜や昆虫を追う科学者たち。先人たちに導かれるように、昆虫少年だった福岡ハカセは生物学者を経て「ナチュラリスト」へと回帰する。その転換点に何があったのか? 持続可能な社会のため、私たちにできることをやさしく問いかける生物学講義。

目次
はじまり
第1講 「系統発生」の時間軸
ドリトル先生を訪ねて歩く/なぜいま、ドリトル先生なのか/フェアネスというもの/「系統発生」の時間軸のお話/旅の予感
第2講 「個体発生」を追って
私が少年だったころ/世界に君臨する蝶/世界の記述がはじまる/ヒュー・ロフティングの町/大富豪、ウォルター・ロスチャイルド/ガラス玉の無数の目/ほんとうの世界/世界に目を向けて
第3講 なぜ生命史を私たちは必要とするのか
スタビンズ君の登場/未知の世界への憧憬/パドルビーを探したい/鮮やかなる虚実/ブリストルへ/ペンザンスの町の明かり/ドリトル先生と出会う
第4講 ナチュラリストに会いに行く
ナチュラリストの条件/よく気がつくこと/ヴィンチ村のレオナルド/時間軸を持つ/一冊の本から広がる世界/ロゴスを持つ/お茶の水博士に出会う/リアルな人間の友だちはいなくても/「進化論」についてひとこと/人生に大事なことはすべて虫から学んだ/子どもを放っておいてくれる親/図書館ワンダーランド/私のメンター、黒澤先生/私の人生を変えた人/ヤンバルテナガコガネ伝説/ナチュラリスト、田淵さん/地史の落し子たちに
第5講 メンターを探す
「博物館」の機能を探る/「黒澤先生」には今も会えるだろうか/収蔵品の基準は何か/世界にひとつだけ/昆虫標本責任者は蝶捕り名人/メンターの存在/フタバスズキリュウの奇跡/大伽藍を支える一本の釘/恐竜学者に出会って/大石化石ギャラリーへ/サメの歯の化石を「鑑定」してもらう/化石鑑定団に聞く/「恐竜倶楽部」なる秘密結社!?
第6講 博物学の本場、イギリスへ
イギリスの強さはどこにあるのか/「知の基地」として機能する/イギリス王立協会の存在
第7講 翻訳するという試み
新訳をやってみよう/一人称の妙技/ドリトル先生の年齢疑惑/新訳で得た至福の時間/物語に生じた変化/時間の有限性
第8講 「始まりと終わり」を知る
時間軸を知るための近道/生命を教える一冊として/時間を表現すること
ナチュラリスト宣言
ナチュラリストになるためのガイド
解説 森田 真生

書評

福岡伸一的「ナチュラリスト」

真鍋真

 福岡伸一さんと私には共通点がいくつかある。二人とも1959年に東京で生まれている。二人とも子供の時に絵本『せいめいのれきし』が好きだった。福岡さんも私も生物の多様性や進化に興味を持っている……と多々あるが、福岡伸一ファンに叱られるかもしれないので、このあたりでやめておこう。
 小学生のころの私は、夏休みになると新宿三丁目のデパートの屋上で、お金を払ってカブトムシをつかみ取りして、それを「昆虫採集」の成果として、夏休みの終わりに標本箱にいれて提出していた。採集地は正直に新宿区新宿三丁目と書いていたと思う。同じころ、本書によれば、福岡さんは蝶を卵から蛹へと育てて観察する自由研究をまとめていた。台風で倒れた木から見つけた幼虫を図鑑で調べ尽くして、新種かもしれないと国立科学博物館に昆虫学者を訪ねたりしていたのだ。そして、小学4年生のシンイチ少年は、研究者という仕事があることを発見していた。絶版になった図鑑を神保町の古本屋街に探しに行ったり、図書館の貴重本を収めた非公開ゾーンに本を探しに行っていた。やはり出来る人とは、過ごしてきた時間の質が違うのだと納得するしかない。
 さて、シンイチ少年が昆虫少年から分子生物学者へと成長していた頃、私はアメリカで修士課程を終えて、イギリスで博士課程に進学していた。イングランド西部のブリストルという町で、中生代の爬虫類について博士論文のための研究をしていた。私は勉強から逃避することが多く、そんな時は市内のスポーツクラブに行って、運河をながめながら何も考えずにジョギングマシンの上を走っていた。ずっと後のことだが「ドリトル先生」シリーズに出てくるパドルビーという町を探しにブリストルを訪れた福岡さんは、同じ風景をみながら、スタビンズ君の気持ちになって、心の中で世界に思いを馳せていたらしい。子どものころからの読書体験の質と量の違いが桁違いなのだ(汗)。福岡さんは、さらに翻訳を通して、原著者だけでなく、過去の翻訳家とも心の中で会話できる。もうドリトル先生の域に達しているのではないだろうか。
 福岡さんも私も「時間軸」という座標に沿って旅をするのが好きだ。私は過去約38億年の地球上の生物の栄枯盛衰の概要を頭の中に「時間軸」として持っていて、始祖鳥を見れば約1億5000万年前のジュラ紀後期に、ティラノサウルスと聞けば約6600万年前の白亜紀末期にそれらを当てはめていく。始祖鳥がティラノサウルスに進化したわけではないので、時間軸が縦軸だとしたら、横軸にあたる空間軸をもってきて、そのx、y、z空間に大きな木を思い描く。動物でも植物でも菌類でも、それぞれの生物の系統進化を示すたくさんの枝が、その起源に遡っていくと、1本の大きな幹に集まっていくような木である。小型肉食恐竜の枝は体を小さくして、始祖鳥を経て現在のニワトリやハトにつながっている。しかし、すぐとなりの枝では、体を大きくしてティラノサウルスが出現した。彼らは子孫を残さずに絶滅しているので、6600万年前でその枝は途絶えている。
 福岡さんの「時間軸」には、人類の科学史という視点も含まれている。いつだれが、どこで、どのような気づきがあって、その後の試行錯誤を経て、現在の理解になっているかを「時間軸」に沿ってたどることである。その途中には間違い、時には捏造などもあったりして、紆余曲折の歴史があるかもしれない。しかし、そのような過去の人類の軌跡からも、私たちは学びや発見の手がかりを得ることが出来る。
 福岡さんの言う「ナチュラリスト」とは、自分が何かに気づいたり、発見をしたりするだけでなく、先人や同世代人とそれを共有することを楽しみ、それが何か新しいものを創り出すことに希望を持っている人なのかもしれない。だから、自分の人生という有限の時間の中で、自分は未来の展開を見ることが出来ないかもしれないが、「時間軸」が未来にもつながっていることを感じられれば、いまの自分とまわりの世界が違って見えてくるのではないだろうか。私もそんなナチュラリストのひとりでありたい。

(まなべ・まこと 恐竜学者)
波 2018年12月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

福岡伸一

フクオカ・シンイチ

1959(昭和34)年、東京生れ。米ハーバード大学医学部フェロー、京都大学助教授などを経て青山学院大学教授。生物学者。サントリー学芸賞を受賞した『生物と無生物のあいだ』、『動的平衡』ほか、「生命とは何か」をわかりやすく解説した著作多数。他の著書に『フェルメール 光の王国』『迷走生活の方法』、訳書に『ドリトル先生航海記』『ガラパゴス』などがある。読書の復興・啓発を目指し、2015年より「知恵の学校」を設立、校長をつとめている。

福岡伸一公式サイト (外部リンク)

判型違い(単行本)

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