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白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい

小山鉄郎/著 、白川静/監修

539円(税込)

発売日:2009/12/01

書誌情報

読み仮名 シラカワシズカサンニマナブカンジハタノシイ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-129891-7
C-CODE 0122
整理番号 こ-47-1
ジャンル 言語学
定価 539円

詳しい人にこそ新しい発見があるはずです。ベストセラー、待望の文庫化!

私たち日本人の生活になくてはならない漢字。毎日使っていながら、どうしてその形・意味になったのかは、なかなか知られていません。複雑で難しそうに見える世界には、一体何が隠されているのでしょうか? この本は、漢字学の第一人者白川静さんの文字学体系を基に、古代文字やイラストを使い、成り立ちをわかりやすく紹介します。学校とは全く違う楽しい漢字の授業の始まりです。

目次
はじめに
【手】をめぐる漢字
【足】をめぐる漢字
【人】をめぐる漢字
【示】をめぐる漢字
【申】をめぐる漢字
【タイ】をめぐる漢字
【余】をめぐる漢字
【辛】をめぐる漢字
【文】をめぐる漢字
【目】をめぐる漢字
【臣】をめぐる漢字
【犬】をめぐる漢字
【矢】をめぐる漢字
【其】をめぐる漢字
【衣】をめぐる漢字
【羊】をめぐる漢字
【隹】をめぐる漢字
【虎】と【象】をめぐる漢字
【真】をめぐる漢字
【可】をめぐる漢字
【才】をめぐる漢字
あとがき
解説 俵万智

書評

波 2009年12月号より 白川漢字学へのすぐれた案内

岸本葉子

白川静さんは、ご存じのとおり漢字研究の第一人者。ライフワークというべき『字統』『字訓』『字通』の三部作を完成させた後も、一般市民のために漢字やそれを生んだ文化についての講話を続け、二〇〇六年、九十六歳で亡くなった。
『白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい』は晩年の白川さんに教えを受けた小山鉄郎さんが、大人はもちろん「小中高校生たちにも十分理解できるように」易しく書いた。
間口は広いが、奥も深い。白川漢字学の核心にふれ、古代中国の社会や世界観まで垣間見させる。加えて、権威を疑わないおそろしさ、それによって失うものまで、読者は考えることになる。
著者によると、白川さんの最大の業績のひとつは、漢字に含まれる「口」の部分が神への祝詞を入れる箱であると指摘したこと。なるほど、それだと「口」を含むいろいろな漢字を体系的に説明できる。「告」は祝詞の箱を木の枝にかけ、神に訴え告げることを表している。「示」は神をまつる卓で、「祝」は卓に向かい祝詞の箱を、人が上にかかげているところ。
そんなふうに芋づる式に、と言いたいくらい、漢字どうしがつながりを持って頭に入り、「ひとつひとつを別々に覚えてきた、あの苦労は何だったのか」と恨めしくなるほど。この自然な相互連関に比べたら、従来なされていた「告」は「牛が人に何かを訴えようとするとき、口をすり寄せてくる」なんて説明が、単なるこじつけに思えてしまう。
なぜ白川さんは、指摘することができたのか。「はじめに」を読み返せば、うなずける。殷王朝の甲骨文字、周の時代にかけて青銅器に鋳込まれた文字を、白川さんは自分でたんねんに読んだから。漢字の始まりは、甲骨文字に遡るのだ。
ではなぜ、白川さん以外の人は気づかなかったか。そのわけも著者は示している。後漢の人のまとめた『説文解字』が、長いこと漢字の聖典とされてきた。そして『説文解字』の作られたときはまだ、甲骨文や青銅器の文字は地中に埋もれたままだった。「告」は牛が口を寄せて云々も、『説文解字』にある説明だ。
それにしたって甲骨文字の発掘が十九世紀末、それから一世紀以上、しかも漢字文化圏の人口はこれだけ多いのに、よくまあ放置されてきたものだと思うけれど、この侵すべからざる聖典に、白川さんは敢然と異を唱えた。「口」を含む漢字は数あれど「古代文字には、耳口の意味で構成されている文字は一つもないとのことです」という文をこの本の結びとしたところに、著者の批判と、白川さんの勇気への支持を感じる。日本でも『説文解字』をもとにした辞典が、今も作られているそうだ。旧字はまだ、漢字のもとの形を追えたが、戦後の漢字改訂で、正しい体系を知らずに作り変えられてしまい、新字では意味のとれないものが多いという。「誤りを正当として生きなければならぬという時代を、私は恥ずべきことだと思う」との白川さんの憤りを、具体的な例に即して、著者は伝える。
こうした話は、実はかなり込み入っているし、どうかすると退屈でもある。にもかかわらず、わかりやすく楽しい本なのは、著者の小山さんの功績だ。考え抜かれた構成、切れのよい文章、的確な接続詞による方向指示で、迷いなく読み進められる。「あとがき」によれば、著者に漢字の話をする白川さんは、いつも好奇心でいっぱいで、著者もそれにひきこまれ、漢字が面白くなっていったとのこと。同じプロセスを、読者はこの本で追体験できる。
白川さんの仕事は、山に喩えれば独立峰だ。先人が累々と積み重ねてきたところへ、だいじな石を一個載せた、のではない。まっさらな平地に、新しい体系を打ち立て、既存の山を越える高さに到達した。白川さんが漢字研究ですごいことを為し遂げた人だとは、私も聞いていた。が、どのようにすごいかは、この本ではじめて実感した。

(きしもと・ようこ エッセイスト)

著者プロフィール

小山鉄郎

コヤマ・テツロウ

1949(昭和24)年群馬県生れ。一橋大学卒。1973年共同通信社入社。川崎、横浜支局、社会部を経て、1984年から文化部で文芸欄、生活欄を担当。現在、同社編集委員兼論説委員。著書に『白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい』『白川静さんと遊ぶ 漢字百熟語』『村上春樹を読みつくす』『文学者追跡』などがある。

白川静

シラカワ・シズカ

(1910-2006)福井県生れ。立命館大学卒。立命館大学教授を務めた。漢字研究の第一人者で文化勲章受章者。『字統』『字訓』『字通』の字書三部作で知られる。

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