ホーム > 書籍詳細:藤澤清造短篇集

衝撃は終わらない。長篇『根津権現裏』復刊で読書界の話題をさらった幻の私小説作家藤澤清造。その才気と情熱の全貌を明らかにする十三作品を厳選。

藤澤清造短篇集

藤澤清造/著 、西村賢太/編

637円(税込)

本の仕様

発売日:2012/03/01

読み仮名 フジサワセイゾウタンペンシュウ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-135617-4
C-CODE 0193
整理番号 ふ-43-2
ジャンル 文学賞受賞作家
定価 637円

盛り場に遊ぶ友人たちに、恥を忍んで重ねる無心。瀕死の母を故郷に残した深い悔恨。子沢山の悲しみ。妻の不貞……。望んでいた理想の人生が、貧窮ゆえに潰えてゆく。大正から昭和初期、絶望の底を這いながら、なお淫心に翻弄され、自らもまた都市無産者の運命を生きた作家・藤澤清造。残された小説、戯曲を歿後弟子・西村賢太が厳選。新発見原稿も収録し、その才気と情熱を伝える。

著者プロフィール

藤澤清造 フジサワ・セイゾウ

(1889-1932)1889(明治22)年石川県鹿島郡(現・七尾市)生まれ。尋常高等小学校卒。骨髄炎の手術を経て、1906年上京。各種職業を変遷したのち、1922(大正11)年に書き下ろし長篇小説『根津権現裏』を刊行。1932(昭和7)年芝公園六角堂内のベンチで凍死体で発見される。

西村賢太 ニシムラ・ケンタ

1967(昭和42)年、東京都生れ。中卒。2007(平成19)年『暗渠の宿』で野間文芸新人賞、2011年「苦役列車」で芥川賞を受賞。刊行準備中の『藤澤清造全集』(全五巻別巻二)を個人編輯。文庫版『根津権現裏』『藤澤清造短篇集』を監修。著書に『どうで死ぬ身の一踊り』『二度はゆけぬ町の地図』『小銭をかぞえる』『廃疾かかえて』『随筆集 一私小説書きの弁』『人もいない春』『西村賢太対話集』『随筆集 一日』『一私小説書きの日乗』『棺に跨がる』『形影相弔・歪んだ忌日』『けがれなき酒のへど 西村賢太自選短篇集』『やまいだれの歌』『痴者の食卓』ほか。

目次

一夜
ウィスキーの味
刈入れ時
女地獄
母を殺す
犬の出産
殖える癌腫
ペンキの塗立
豚の悲鳴
槍とピストル
敵の取れるまで

(戯曲)

語注 西村賢太・編集部
解説 西村賢太
年譜 西村賢太編

インタビュー/対談/エッセイ

波 2012年5月号より 新発見作も付して

西村賢太

昨年の『根津権現裏』に続く、新潮文庫の藤澤清造シリーズ第二弾である。
前書は幸にして、そこそこ江湖に迎え入れられるかたちとなった。正直なところ、予想をはるかに上廻る好評を得ることにもなった。
しかしそれが五百枚にのぼる長篇であれば、今度は短篇の方の真価にふれてみたい要望が起こるのも、至極当然な次第であろう。
周知のように、大正期の文芸作品は主に短篇を中心として、その百花繚乱ぶりを示している。無論、大半は掲載誌の紙幅の制約による側面はあるにしても、やはり個々の作家の真髄は、それら短篇作品に如実にあらわれているところが多い。
藤澤清造も、また然りである。
なればこそ、この十五年間を清造の“押しかけ歿後弟子”を自任し、それを唯一の矜恃として生きてきた私たる者、前書の校訂後には確たる要請も受けぬまま、すぐとこの第二弾の準備に取りかからざるを得なかったが、この度も同文庫編輯部の英断が再び下されたことは、何んとも有難い限りであった。
そして今回は、その準備段階において、誠にこの上ない僥倖も訪れた。
毎年恒例の、明治古典会による大市の入札会に、清造の自筆原稿三点が突如現われたのである。
いずれも短篇であるところのその三本は、私のこれまでの博捜でも、題名すらキャッチし得なかった未見の作であった。
そしてこれは、初出と推測される大阪の夕刊新聞自体、今のところどの公共機関にも収蔵の確認が取れてはいないので、その生原稿でしか内容を読めぬ作と云うことにもなる。
一体に清造は、他の大正期作家に比して、もともと書簡にせよ草稿にせよ、極端なまでにその自筆類が古書市場に出てこない作家である。
漱石や芥川は、金さえあれば肉筆物はいつでも容易く入手することができる。それは少し下って太宰や三島にしても同様である。が、清造のようにたださえ寡作な上、生前はもとより、死後も長いこと正当な評価を得られなかった作家は、まず往時の古書市場で原稿を商品視されぬから、保存の対象になり得ぬところがあったのである。それだけに、もし現在これらを入手しようとすれば、当時の編輯者宅に奇跡的に眠っていた、いわゆるウブ口ものの出品を待つより他はない。実際、かの大市でも清造の原稿が出てきたのは、八年前のことにまで遡るのである(無論、これは私が無事に落札したが)。
それが今回、完全揃いのかたちで三点も出てきたのだから、私の興奮は云うまでもなく、甚だ激しいものがあった。
まさに千載一遇のことであり、二度このような機会も巡ってこないであろうことから、私はこの落札に関してはキ印の札――即ち、他が絶対に追い付けぬ程の高額札で臨む次第と相成った。
結果は、多少突き上げられて、三点で計四百四万円での落札となったが、とあれ入手できたことには、心底からの安堵を覚えた。もし、これをみすみす取りこぼすような失態を犯せば、私は清造の歿後弟子なる看板を、即刻おろさざるを得なくなっていたところである。
が、これもよくよく考えてみれば、結句はやはり芥川賞のおかげなのである。
先の『根津権現裏』復刊も、すべては同賞からの余恵であることは、すでに何度か筆にものせている。今回は、更に直接的に、かの受賞を機に得た印税が、該原稿の入手をよりスムースなものにしてくれた。
となれば、この三原稿は本来なら全部私の方の『清造全集』で初公開したいところだが、せめてそのうちの一作は、それに先んじて本書に収録する義務があるようにも思われる。本書もまた、元を辿ればかの一連の余恵の流れにあることは否めないからだ。
その「敵の取れるまで」と題された小品を、一種のボーナス・トラックとしてお楽しみ頂ければ幸である。

(にしむら・けんた 小説家)

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