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母が明かした秘密。大川の端で交わした父との約束。そっと寄り添う家族に涙、涙、涙!

大川契り―善人長屋―

西條奈加/著

680円(税込)

本の仕様

発売日:2018/07/01

読み仮名 オオカワチギリゼンニンナガヤ
装幀 安里英晴/カバー装画、新潮社装幀室/デザイン
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-135777-5
C-CODE 0193
整理番号 さ-64-6
ジャンル 歴史・時代小説
定価 680円

掏摸(すり)に騙(かた)りに美人局(つつもたせ)。住人が全員悪党の「善人長屋」に紛れ込んだ本当の善人・加助が、またしても厄介事を持ち込んだ。そのとばっちりで差配母娘は盗人一味の人質に。長屋の面々が裏稼業の技を尽して救出に動く中、母は娘に大きな秘密を明かす。若かりし頃、自らの驕(おご)り高ぶった態度が招いた大きな罰のことを――。流れゆく大川が静かに見つめた、縺(もつ)れた家族の行方を丹念に描く人情時代小説。

著者プロフィール

西條奈加 サイジョウ・ナカ

1964(昭和39)年北海道生れ。都内英語専門学校卒業。2005(平成17)年、『金春屋ゴメス』で「日本ファンタジーノベル大賞」大賞を受賞。2012年『涅槃の雪』で中山義秀文学賞、2015年『まるまるの毬』で吉川英治文学新人賞を受賞。著書に『金春屋ゴメス 異人村阿片奇譚』『烏金』『善人長屋』『恋細工』『千年鬼』『睦月童』『九十九藤』『閻魔の世直し 善人長屋』『大川契り 善人長屋』『上野池之端 鱗や繁盛記』などがある。

書評

善人面した悪党たちの、痛快エンターテインメント

細谷正充

 善人面した悪党たちが、成り行きまかせに善行三昧。ユニークな設定とキャラクターが躍動する、西條奈加の痛快時代エンターテインメント「善人長屋」シリーズの第三弾が、ついに登場した。また、長屋の住人たちに会えるかと思えば、嬉しくて堪らない。
 深川浄心寺裏山本町にある長屋。木戸脇に質屋の「千鳥屋」があるため千七長屋の名が付いているが、真面目で気のいい人ばかりが暮らしていると評判で、いまでは“善人長屋”と呼ばれている。しかしそれは、表の顔であった。長屋の差配をしている「千鳥屋」の主人の儀右衛門は、質屋の裏で盗品を扱う窩主けいず買いをしていた。また、長屋の住人も、騙りをしている菊松・お竹の夫婦や、情報屋の半造など、誰もが裏稼業を持っている。さらに、それぞれの女房や子供も、裏稼業のことは承知済みだ。そんな長屋に手違いから、正真正銘の善人である加助が入ることになった。辛い過去を抱えながら、善行に邁進する加助に巻き込まれた長屋の住人は、裏の顔を駆使して、さまざまな騒動を解決していく。
 というのが、シリーズ第一弾『善人長屋』のアウトラインだ。続く第二弾『閻魔の世直し―善人長屋―』では、悪党どもを退治する閻魔組の横行に、前作で生まれた凶賊・夜叉坊主の代之吉との因縁が絡まり、長屋の面々が一致団結した活躍を見せてくれた。
 そして第三弾となる本書だが、連作短篇のスタイルで、善人長屋に持ち込まれた騒動が描かれていく(ちなみに、シリーズ第一弾は連作短篇、第二弾は長篇である)。物語の視点人物は、いつものように儀右衛門の娘のお縫だ。彼女には姉と兄がいるが、すでに長屋を出ていて、存在だけが記されていた。そのふたりが、本書に登場する。まず第一話の「泥つき大根」では、茶問屋「玉木屋」に養子に行き、主人の役割を果たしている兄の倫之助が、長屋を来訪。一年前に夫を失った義母が、二十五も年下の石蔵という男といい仲になったと、困り事を相談。さっそく動き出す長屋の面々により、やがて石蔵の正体と、義母の胸中が明らかになるのだった。ストーリーの面白さは当然として、深く掘り下げられた人の心と、優しく爽やかな締めくくりと、本シリーズの魅力が十全に活写されていた。冒頭を飾るに相応しい作品だ。
 さらに第五話「雁金貸し」ではお縫が、長屋を嫌っている姉のお佳代と、十年ぶりに再会。姉のかかわった金貸しの詐欺事件を解決しようとする。長屋の面々の持つ、裏稼業の能力が発揮されるところに、シリーズの魅力があるのだが、それは本作でも健在。代書屋の傍ら、文書偽造をしている浪人の梶新九郎が、金貸しの証文に仕掛けられた細工を見事に見抜くのである。
 また、長屋を嫌い正しい生き方に固執するお佳代に、善行三昧の加助の在り方を重ね、“善”ですら人を追い詰めることがあることを述べたラストには、深く考えさせられた。前作とも通じ合うテーマを扱った秀作といえよう。
 そして第七話「鴛鴦の櫛」と、それに続く最終話「大川契り」は、ある事情からお縫と母親のお俊が盗人の人質になり、お俊の苦い過去が語られる。もちろん、掏摸すりの安太郎が旧知の少女の苦境を知る第二話「弥生鳶」や、傷だらけの子供を助けようとした菊松・お竹の行動が意外な真実を暴く第四話「子供質」、美人局つつもたせをしている唐吉・文吉の恋愛騒動を綴った第六話「侘梅」など、長屋の住人も、それぞれの話で躍動している。どれもこれも面白く、作者のストーリーテラーぶりが、存分に楽しめるのだ。
 しかも各作品を通じて、人間の持つ善悪というものが、多角的に見つめられているではないか。たとえば第三話「兎にも角にも」では、加助の善意が踏みにじられる一方で、彼の善意で良い方向に変わった人が居ることが明らかにされる。善も悪も人の心から生まれるものであり、常に複雑な内実を秘めている。それを悪党だからこそ、善悪に敏感な長屋の住人を投げ込み、鮮やかに表現しているのだ。ここに本シリーズの、大きな読みどころがある。
 昨今の、横浜の巨大マンションの傾き発覚から始まった、一連の騒動を見たら分かるが、現代社会は問題に対する責任の所在が分散されており、誰が真に悪いのか、判断しづらくなっている。そのような時代だから、本シリーズの価値は高まる。善人長屋の悪党たちの痛快な活躍が、善悪の本質を見極める眼を、鍛えてくれるのである。

(ほそや・まさみつ 書評家)
波 2015年12月号より
単行本刊行時掲載

目次

泥つき大根
弥生鳶
兎にも角にも
子供質
雁金貸し
侘梅
鴛鴦の櫛
大川契り

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