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生者と死者―酩探偵ヨギ ガンジーの透視術―

泡坂妻夫/著

649円(税込)

発売日:1994/10/26

  • 文庫

[「消える短編小説」入ってます!]お願い。はじめは各頁を切り開かず、必ず袋とじのままお読み下さい。朝日新聞「売れてる本」で紹介! 「紙の本ならではのトリック」瀧井朝世(2013年12月8日)

この本は絶対に立ち読みできません。はじめに袋とじのまま、短編小説の「消える短編小説」をお読みください。そのあと各ページを切り開くと、驚くべきことが起こります――。そして謎の超能力者と怪しい奇術師、次々にトリックを見破るヨギ ガンジーが入り乱れる長編ミステリー「生者と死者」が姿を現すのです。史上初、前代未聞驚愕の仕掛け本です。読み方にご注意してお楽しみください。

書誌情報

読み仮名 セイジャトシシャメイタンテイヨギガンジーノトウシジュツ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-144506-9
C-CODE 0193
整理番号 あ-23-6
ジャンル ミステリー・サスペンス・ハードボイルド、文学賞受賞作家
定価 649円

書評

ぼくをジュブナイルミステリー作家に育てた新潮文庫三冊

はやみねかおる

 どうも、はやみねかおるです。
 児童向け推理小説を書くのを生業としています。

 ぼくは、小さい頃から本が好きでした。
 身の回りにある本を、片っ端から読んでいました。
 年の離れた兄が二人いるのが幸いでした。彼らの本棚には、小学生ではなかなか手にする機会の無い“文庫本”というものが、わんさか溢れていました。
 次に紹介する「新潮文庫の三冊」――。
 田舎に住んでた本好きの少年がプロの物書きになるにあたり、どのような影響を受けたかという視点で選んだものです。
 この三冊を読めば、ひょっとするとジュブナイルミステリー作家になれる……かもしれません(そんなこと関係なく、三冊ともおもしろいんですけどね)。

 シャーロック・ホームズに出会ったのは、子ども向けの『世界名作全集』に収録されていた『まだらのひも』です。同時に、それがミステリーとの出会いでもありました。
“名探偵”という存在に、度肝を抜かれました。もっと、ホームズの話を読みたいと思いました。しかし、『世界名作全集』には三編しか収録されていません。
 そんなとき、兄の本棚で見つけたのが『シャーロック・ホームズの冒険』です。
「『世界名作全集』より、遥かに小さくて薄い本なのに、十編も入っている!」
 ……今思えば、コストパフォーマンスにうるさい小学生でした。

コナン・ドイル、延原謙 訳『シャーロック・ホームズの冒険』書影

 ホームズの物語には、ミステリーの基本的なおもしろさが全て詰まっています。天才的な名探偵、魅力的な謎、わくわくする捜査、意外な犯人、論理的思考に基づいた推理と解決――。
 マイ・ファースト・ミステリーがホームズ譚だったことは、ものすごい幸運です。
 そして、バカな少年は無謀にも思ったのです。「ひょっとして、自分にも書けるんじゃないか?」と――。

 以前、小学校の先生をしていました。もし、クラスの子どもたちに、「タイムマシンが登場するお話を考えましょう」と言ったら、どんな物語を出してくるでしょうか?
 未来へ行って、進んだ文明を楽しむ話? 過去へ行って、恐竜や侍を見たりする話?
 本をたくさん読んでいる子なら、「親殺しのパラドックス」に挑戦するような話を考えたりするかもしれません。
 しかし――。
 もし、この『笑うな』のような物語を考えてくる子どもがいたら……。
 その子は、天才か筒井康隆本人です。

筒井康隆『笑うな』書影

 この『笑うな』というショートショート集を読んだのは、高校一年生ぐらいのときです。
 その頃のぼくは、SF(もどき)やミステリー(もどき)の作品をいくつか書いていました。ショートショート(もどき)も、百本以上書いていました。
 ――ひょっとして、このまま書き続けたらプロになれる?
 そんな、砂糖菓子をメイプルシロップで煮込んだような甘い考えを、『笑うな』は一瞬で打ち砕き、世の中には“天才”というものが存在するという、キャロライナ・リーパーのような辛い現実を教えてくれました(キャロライナ・リーパーは、種ごと食べると死ぬとすら言われている唐辛子です)。

 時は流れ、ぼくは小学校の先生になり、幸運に恵まれてプロの物書きにもなりました。
 しかし、最も幸運だったのは、『そして五人がいなくなる』というミステリーを書いた後に、泡坂妻夫の『生者と死者―酩探偵ヨギ ガンジーの透視術―』に出会ったことです。
 もし、『生者と死者』を先に読んでいたら、あまりのレベルの違いにミステリーを書くことはできなかったでしょうから――。

泡坂妻夫『生者と死者―酩探偵ヨギ ガンジーの透視術―』書影

 元々、泡坂妻夫の本は大好きで、全作品を追っかけていました。「いつか、泡坂先生のような、読者を驚かせるミステリーを書きたい!」という野望も、持っていました。
 しかし、『生者と死者』を読んで、その野望は砕かれました。これ以上の衝撃を読者に与えるのは不可能だ――そう思いました。
 ぼくからのアドバイスは、たった一つ。「二冊買ってください!」です。読めば、この意味がわかります!

 この原稿を書いて、たくさんの影響を本から受けてるのだと改めて感じました。
 だから、読書はおもしろいですね。
 では!

(はやみね・かおる 小説家)

波 2024年9月号より

この本の読み方

はじめに、袋とじ製本のまま、この本をお読み下さい。
短編小説を読むことができます。
次に、各ページを切り開いて、長編ミステリーをお楽しみください。
元の短編小説は消失してしまいます。
著者

著者プロフィール

泡坂妻夫

アワサカ・ツマオ

(1933-2009)東京・神田生れ。家業の紋章上絵師の仕事をするかたわら推理小説を書き、1976年「DL2号機事件」で第一回幻影城新人賞に入賞しデビューした。1978年『乱れからくり』で日本推理作家協会賞を、1988年『折鶴』で泉鏡花文学賞を、1990(平成2)年『蔭桔梗』で直木賞を受賞。マジシャンとしても著名で、創作奇術で石田天海賞を受賞している。

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泡坂妻夫
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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
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文学賞受賞作家
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