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アンの想い出の日々〔上〕―赤毛のアン・シリーズ11―

ルーシー・モード・モンゴメリ/著 、村岡美枝/訳

990円(税込)

発売日:2012/10/30

  • 文庫

「アン」誕生100年を機に刊行された、感動のシリーズ最終巻! 本書を読むまで『赤毛のアン』は終らない。大人になった読者たちへ。

1908年の発表以来、世代を超えて読み継がれ、愛されてきた『赤毛のアン』。実は、モンゴメリの死の当日に何者かによって出版社に持ち込まれたシリーズ最終巻は、これまで本国カナダでも部分的にしか刊行されないままとなっていた。『アン』誕生100周年を機に詩、短編、ブライス家の語らいなど新原稿を含む、作者が望んだかたちに復元された完全版、待望の邦訳。ファン必読の書!

  • テレビ化
    アン・シャーリー(2025年4月放映)
  • 舞台化
    ミュージカル「赤毛のアン」(2024年12月公演)
  • テレビ化
    アンという名の少女3(2021年11月放映)
  • テレビ化
    アンという名の少女2(2021年9月放映)
  • テレビ化
    アンという名の少女(2020年9月放映)
  • 映画化
    赤毛のアン 卒業(2018年11月公開)
  • 映画化
    赤毛のアン 初恋(2018年10月公開)
  • 映画化
    赤毛のアン(2017年5月公開)
目次
第一部

笛吹き
フィールド家の幽霊
炉辺荘の夕暮れ
願わくば……
なつかしき浜辺の小径
故郷の家の客用寝室
思いがけない訪問者
第二夜
新しい家
駒鳥の夕べの祈り

男と女
仕返し
第三夜
愛する我が家
海の歌
ふたごの空想ごっこ
第四夜
理想の友
想い出の庭
第五夜
真夏の一日
記憶の中で
夢叶う
第六夜
さようなら、なつかしき部屋よ
なつかしい幽霊たちの部屋
冬の歌
ペネロペの育児理論
作品によせて エリザベス・ロリンズ・エパリー

書誌情報

読み仮名 アンノオモイデノヒビ1
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
頁数 480ページ
ISBN 978-4-10-211351-6
C-CODE 0197
整理番号 モ-4-51
ジャンル 文芸作品、評論・文学研究
定価 990円

書評

物語とともに

田中希実

 新潮文庫3冊、記憶を探ると、自宅の本棚を探すまでもなく浮かんできた作品たちがありました。

ルーシー・モード・モンゴメリ、村岡美枝 訳『赤毛のアン』書影

 まずは『赤毛のアン』。小学生の時、一度は読んでおこうと軽い気持ちで手に取ったことを覚えています。読み始めると、アンを通して繰り広げられる日々の騒動、そしてアン自身の成長に目が釘付け。物語の終盤、夢見る少女から一人前の娘になったアンを「愛しいのに寂しい」といういたたまれない気持ちで、育ての親マリラと共に見つめました。
 その後、長い時間をかけて少しずつシリーズ全巻に目を通しましたが、牧師の妻であるモンゴメリの人間愛に満ちた人物描写はどんどん秀逸になっていくものの、一巻目である『赤毛のアン』の時ほど「自分ごと」としては、アンや、作品に出てくる子供たちを見つめられなくなってしまいました。それはきっとモンゴメリが、彼女の子供心の要素を全て見事に『赤毛のアン』に注ぎ込んでいたからなのではと思います。
 高校生の時には『からくりからくさ』を読み、からくさのように様々な事柄が絡み合い、からくりのように伏線回収がどんどん進む物語の流れに圧倒されました。また姉妹編『りかさん』を読んだことがあった為、物語の核に据えられた市松人形のりかさんも愛しく、あっという間に読み終わりました。

梨木香歩『からくりからくさ』書影

 今回約10年ぶりに再読。高校生の時とはまた違った感覚があり、当時は特に気にかけなかった「最後まで曖昧だったり謎だったりした部分」が、今の私には、「謎なのに、心の奥底では分かっている部分」として深くトゲのように刺さり、抜けなくなってしまいました。梨木さんの作品には、人間の普遍的な無意識が結晶化したような詩的な表現が、流れるように織り込まれています。一部引用しようとしても、全てが蔦のように絡み合い、全てを引きずり出してしまいそう。
 また改めて気づいたのは、登場人物の学生たちが、今の私が読んでもギョッとするくらい大人で、「女」であることでした。それでいて、そんじょそこらの大人とも女とも違い、誰しもが感じていながら見てみぬふりをしたり、気づけていないような事象を、それぞれの感性でしっかり受け取り、飲み込み、時に共有しながら自分の一部としていくのです。
 物語の根底に流れる火と水の想念。普遍的な、永遠の流れ。人々の無意識下を蔦のように這う、蛇信仰。私たちの無意識は、まだ繭の中で眠っていて、突き破りたいのに、突き破れないのだ。このままでは繭の中で、羽化することなくドロドロのまま死んでしまう。哀しさ、寂しさ、焦り、恐怖、怒り。
 しかしこの物語の女たち、そして梨木さんのまなざしは、それら全てを繭のように優しく、そっと包み込んでいくのです。そして淡々と、日常と言葉を紡いでいく。いつか私も、そのような女になれたらと悲しく思うのみの日々……。

ヘッセ、高橋健二 訳『シッダールタ』書影

 悩みがあると思わず手に取ってしまうのは『シッダールタ』です。
 とある町のお土産屋の店主と手紙をやり取りしたことがあり、その際贈って頂いた、私にとって特別な本。
「シッダールタ」とは仏教の開祖ブッダの出家前の名ですが、この作品に登場するシッダールタはヘッセによる創作上の人物です。物語の中で、彼は悟りを求めて、あらゆる人の生に匹敵するくらい様々な経験をし尽くします。
 そんな彼の人生がたった200ページの本に詰まっていて、この作品を書くためにヘッセ自身も必要としたであろう、途方もない悟りの道のりが偲ばれます。
 同時に、私が悩むたびおこがましくもシッダールタに自分自身を重ねてしまうのは、私と同じ生身の人間であるヘッセがこれを書きおおせたという事実があるからだろうと思います。
 シッダールタの中に、ヘッセや私、世の中の全ての人の生が詰まっている。悩んだ時、この本を開き彼に会いに行くと、その人生のどこかに必ず今の自分自身を見出すことができて安心するのです。
 ただ唯一、シッダールタにも実の息子のことは分かり得ないままでした。悟りを開き、自分自身が世の中の善きこと悪しきこと全てを知っても、自分の知っていることをそっくり子供に教え、導くことは、到底できないのです。今までの悟りはなんのためだったのか。やっと愛する対象を、愛する喜びを見つけたのにと、私はシッダールタと共に嘆きます。
 しかし物語の終盤、彼と共に過ごした渡し守の正体を知るとき、私はまだ人生の流れに逆らったり、飲まれたり、ただただ押し流されながらも、少しは、シッダールタと同じくらいに、救われたような気持ちになるのです。

(たなか・のぞみ アスリート)

波 2026年1月号より

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著者プロフィール

(1874-1942)カナダ、プリンス・エドワード島生れ。1歳9カ月で母と死別、祖父母に育てられ教師になったが、30歳で書き始めた『赤毛のアン』のシリーズが熱狂的な人気を呼んだ。美しい島の自然を背景に、アン・シリーズのほか、より自伝的なエミリーのシリーズなどの小説、詩集、日記を残し、国内外で多数の読者の心を捉えた。

村岡美枝

ムラオカ・ミエ

1960年東京生れ。日本女子大学大学院博士課程前期修了。アメリカ文学専攻。村岡花子の娘である母みどりの遺志を継ぎ、妹恵理とともに花子の書斎を「赤毛のアン記念館・村岡花子文庫」として保存。訳書に『ウェールズのクリスマスの想い出』『うわさの恋人』『あらしのくれたおくりもの』などがある。

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