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モスクワ、ニューヨーク、カブール。30年の旅路は何を奪い、何を与える?

エージェント6〔下〕

トム・ロブ・スミス/著 、田口俊樹/訳

853円(税込)

本の仕様

発売日:2011/09/01

読み仮名 エージェントシックス2
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-216936-0
C-CODE 0197
整理番号 ス-25-6
ジャンル 文芸作品、ミステリー・サスペンス・ハードボイルド、評論・文学研究
定価 853円

1980年。ニューヨーク行きの野望を断たれたレオは、ソ連軍の侵攻したカブールで、設立間もないアフガニスタン秘密警察の教官という職に甘んじている。アヘンに溺れる無為な日々がつづくが、訓練生ナラを伴ったある捜査で彼女とともにムジャヒディン・ゲリラに囚われてしまう。ここにいたって、レオは捨て身の賭けに出た。惜しみない愛を貫く男は何を奪われ、何を与えられるのか?

著者プロフィール

トム・ロブ・スミス Smith,Tom Rob

1979年、ロンドン生れ。英国人の父とスウェーデン人の母を持つ。2001年、ケンブリッジ大学英文学科を首席で卒業。在学当時から映画・TVドラマの脚本を手がける。処女小説『チャイルド44』は刊行1年前から世界的注目を浴びたのち、2008年度CWA賞最優秀スパイ・冒険・スリラー賞をはじめ数々の賞を受ける。

田口俊樹 タグチ・トシキ

1950年、奈良市生れ。早稲田大学卒業。“マット・スカダー・シリーズ”をはじめ、『チャイルド44』『パナマの仕立屋』『神は銃弾』『卵をめぐる祖父の戦争』『ABC殺人事件』『偽りの楽園』など訳書多数。著書に『おやじの細腕まくり』『ミステリ翻訳入門』。さらにフェロー・アカデミー講師として後進の育成にあたっている。

書評

波 2011年9月号より 三部作の掉尾を飾る必死の脱出行

吉野仁

面白さに圧倒されるばかりだ。
すでにトム・ロブ・スミス『チャイルド44』『グラーグ57』の二作を堪能された方ならば、ためらうことはない、三部作の掉尾を飾る新作『エージェント6』をいますぐお読みあれ。ここに海外エンターテインメント小説でしか味わえない醍醐味がすべて詰まっているといっても過言ではない。
国際的な陰謀をめぐるスケールの大きさはもちろんのこと、見せ場を配した巧みなプロット、魅力ある人物の登場、いくつもの情感あふれるエピソードや迫真の活劇場面でつないだストーリーテリングの妙。信義と裏切り、絶望と再生、復讐と慈愛など、心がわしづかみにされたり大きくゆさぶられたりする娯楽要素のすべてが詰まっているばかりか、主人公一家に起こった悲劇が歴史の暗部と重なりつつ何十年というスパンを経て展開していく。これぞまさしく巻おくあたわざる面白さ。読み出したら最後やめられないのだ。
実際にソ連で起こった大量殺人事件に想を得て書かれたという第一作『チャイルド44』は、日本でも超大型新人によるスリラー大作として紹介され、年末恒例のミステリーベストテンで一位に輝くなど圧倒的な支持を得た。主人公は、国家保安省の上級捜査官レオ・デミドフ。スターリン体制下のソ連ゆえに、事件の捜査も一筋縄ではいかない。そもそも理想国家ソ連には「犯罪は存在しない」とされている時代だ。妻ライーサにスパイ容疑をかけられたり、自分まで収容所送りにされたりするなか事件の核心へと迫っていく。
続く『グラーグ57』では、フルシチョフの時代となったソ連が舞台。新設されたモスクワ殺人課で働くレオは、思わぬ事件に巻き込まれ、復讐の標的となってしまう。同時にレオは養女ゾーヤに手をやいていた。
と前二作まで、ソ連という特殊な国家とその時代ごとの変遷が巧みに背景へ生かされていたのと同時に、捜査官レオ個人の生き方や家族の愛と絆に迫るエピソードがつねにサブストーリーにおかれていたことで重層的な大作に仕上がっていたわけだが、『エージェント6』でも話の大きな幹となっているのは、やはりレオの家族をめぐる展開である。
まずはプロローグとして、一九五〇年、レオと後に妻となるライーサとのなれそめが明かされる一方、アメリカ黒人歌手によるモスクワ訪問の様子が語られていく。レオのチームが警護班のひとつとして、その共産主義者の黒人歌手につきそっていたのだ。
それから十五年後、とりかえしのつかない悲劇がレオ一家を襲う。しかも事件の舞台はアメリカだった。レオの妻ライーサ、養女であるゾーヤとエレナの三人は、国際親善イヴェントに参加するためニューヨークへやってきた。だが、エレナは密かにホテルから抜け出し、ある人物のもとへとむかった……。
と、本作はもっぱらアメリカを舞台にして展開していくのかと思えばそうではない。『チャイルド44』では走る囚人移送列車から脱出し、『グラーグ57』ではオホーツク海の囚人護送船や極寒の強制労働収容所において死闘を繰り広げたが、今回もレオはまるで地獄の底のような土地アフガニスタンへ放り込まれ、半死半生のような姿で棲息し続けることとなる。アフガニスタン国家情報局訓練生であるナラとの交流が唯一の救いとなっているものの、三部作のなかでも群を抜いて壮絶に描かれている場面だ。いったい作者はどこまでレオに受難を負わせるつもりなのか。
裏をかえせば本三部作の面白さは、そんな極限状況からの必死の脱出行にある。出口なしまでに追いつめられ、やっと扉をみつけてもその先にさらなる困難が待っており、何かを失わずに逃げきることはできない。なんという非情な物語。だが、それでもレオは生き抜き、真相へとたどりつく。
そういえば、邦題につけられた数字、44、57、6をぜんぶ足してみると一〇七。煩悩の数一〇八にひとつ足りない数字だ。残された一つとは(あらためてこう書くのも気恥ずかしいが)「家族への愛」ではないか。いや、こんなこじつけをしたくなるほど、レオが妻や娘たちへ抱く思いが見事にラストで感動のドラマに昇華されているのである。まさかこんな結末をむかえるとは。それを味わうためにも『エージェント6』をいますぐ手にとられよ。心配はいらない。一気に読んでしまうことだろう。

(よしの・じん 書評家)

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トークイベントの模様

2011年9月6日、東京・丸善丸の内本店3階「日経セミナールーム」にて、来日したトム・ロブ・スミスさんのトーク&サイン会が行われました。「ずっと行きたかった」という日本との意外な接点、『チャイルド44』に始まるレオ・デミドフ3部作の創作秘話、執筆中の新作の内容など、ゲストにお迎えした翻訳者の田口俊樹さんを交えてたっぷり語ってくれました。そのトークの模様を以下から見ることができます。作家の貴重な映像と肉声。ファン必見です。



「『エージェント6』(新潮文庫)刊行記念 トム・ロブ・スミス トーク&サイン会」
(Live Wireより)


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