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こどもホスピスの奇跡―短い人生の「最期」をつくる―

石井光太/著

1,705円(税込)

発売日:2020/11/26

書誌情報

読み仮名 コドモホスピスノキセキミジカイジンセイノサイゴヲツクル
装幀 矢萩多聞/装幀
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 270ページ
ISBN 978-4-10-305457-3
C-CODE 0095
定価 1,705円
電子書籍 価格 1,705円
電子書籍 配信開始日 2020/11/26

すべては病の子供と家族のために。施設誕生から日々の奮闘まで、感動の記録。

余命少ない子供たちが日々続く辛い治療から離れ、やりたいことをのびのびとやり、家族と生涯忘れえぬ思い出をつくる。そんな、短くとも深く生きるための場所があったら――。医師や親たち関係者の希望をたずさえ、大阪、鶴見に誕生した「TSURUMIこどもホスピス」。実現に向けて立ち上がった人たちのこれまで、そしてこれから。

目次
プロローグ
第一章 小児科病棟の暗黒時代
白い巨塔の不文律
子供の愛情飢餓
恨んだ目をして死んでいく
新生児医療の葛藤
快復という悲劇
「助からないなら治療をやめます」
第二章 英国のヘレンハウス
小さな一歩
ホスピタル・プレイ・スペシャリスト
英国の緩和ケア
誰が大学病院の権力を握るのか
第三章 大阪市中央公会堂
大阪市立総合医療センター
緩和ケアの導入
スタート・スモール
第四章 小児病棟
すみれ病棟の青春
病院で勉強をさせてください
第二ボタン
第五章 プロジェクト始動
ホスピス設立を願う人々
残された時間を豊かに
小児がん拠点病院
ホスピス訪問を夢見る少女
オープンへの道のり
第六章 TSURUMIこどもホスピス
幕開け
気づきを与えてくれた死
遺族として生きる
第七章 短い人生を飾る
生きた証をアルバムに
家族をつなぐ
第八章 友のいる家
二年目の春
夏夜のキャンプ
友として寄り添う
エピローグ

書評

「こどもホスピス」を知っていますか?

仲野徹

 大阪市の北東部、鶴見区に「TSURUMIこどもホスピス」がある。2016年4月、日本で最初に開設された民間の小児ホスピスだ。我が家から徒歩圏内で時おり散歩に訪れることもある、1990年に「国際花と緑の博覧会」が開かれた跡地、花博記念公園鶴見緑地の一角に位置している。
 と書くと、さもよく知っているように思われるかもしれない。しかし、それは誤解だ。大阪に子供のためのホスピスができたことは耳にしていたが、どこにあるのかは知らなかった。それに、このこどもホスピスがどのような役割を担うものなのかも全く知らなかった。
 ホスピスというと、治療法のない末期ガン患者に対する終末期ケアをする施設が頭にうかぶ。そこで対象とされる患者はもちろん成人である。だが、TSURUMIこどもホスピスは違う。小児ガンを中心とした「難病の子供たちが短い時間であっても治療の場から離れ、家族や友人と笑い合って、生涯忘れえぬ思い出をつくるための『家』としての空間」なのである。
 そのホスピスがどのようにして生まれたかについて書かれたのがこの本だ。著者は、上手すぎるとさえ時に思うノンフィクションの名手・石井光太。主人公は小児の緩和医療を何とかしたいと立ち上がった二人の医師とそれに共鳴した人々、そして、難病に冒された患者たち――もちろん亡くなった子供もたくさんいる――とその家族である。この物語は、私も学んだ大阪大学医学部の附属病院に勤めていた小児科医、小児ガンを専門とする原純一の話から始まる。
 大学病院での小児ガン治療のサポート体制に大きな疑問を抱いていた原であったが、その改革を成し遂げることなく2005年に大阪市立総合医療センターへと異動した。新天地の小児血液腫瘍科の部長として、治療を受ける子供や親たちの負担を減らす体制整備に着手する。
 当時、小児の緩和ケアはほとんど理解されていなかった。そこへ原が招いたのは小児科医の多田羅竜平である。多田羅は、NICU(新生児集中治療室)勤務で感じた矛盾から英国に渡り、小児の緩和ケアを学んだエキスパートだ。
 この二人が核となり、病院型ではない民間型の子供ホスピスの設立が計画された。前例も先立つものもないため、決してスムーズではなかった。それでも、多彩な賛同者を得ながら、2010年にうちだした「こどものホスピスプロジェクト宣言」に沿って計画は進められていった。その過程においてさまざまな試行錯誤が余儀なくされたが、大きな推進力になってくれたのは数多くの患者や親たちであった。
 なかでも強く印象に残るのは、中学2年生の時にユーイング肉腫という骨の悪性腫瘍に冒され、総合医療センターで治療をうけた久保田鈴之介のエピソードだ。京大医学部を目指すスズ君は当時の大阪市長・橋下徹に訴え、闘病中の高校生に対する学習支援制度を実現させる。病棟では周囲の患者たちを爽やかに励まし続けたスズ君だったが、最後の力を振り絞って受けたセンター試験の10日後に亡くなった。こう書いているだけで涙が湧いてきてしまう。
「つくるのはわりと簡単です。でも、これを運営するのは非常に難しいと思うんで、ぜひ世界に誇れるホスピスになっていただきたいなと思います」
 社会事業として建設費用の一部を提供したファーストリテイリングの柳井正会長によるオープニングセレモニーでの言葉だ。この本を読むと、とても「わりと簡単」に作られたとは思えない。確かに、運営はさらに難しいのかもしれない。しかし、この本がひとりでも多くの人に読まれ、こどもホスピスの理念についての理解が広がれば、「世界に誇れるホスピス」へと確実に一歩前進するはずだ。
 と、ここで終わってもいいのだが、すこし蛇足を。じつは、原さんは高校・大学の先輩であり、同じく血液学を専門にしていたこともあって、以前からよく存じあげている。不覚にも、いつも飄々としておられる先生がこんなに素晴らしい活動をしてこられていたとはつゆ知らなかった。なので、最後に付け加えさせてください、「原先生ゴメンナサイ」と。

(なかの・とおる 大阪大学大学院医学系研究科教授)
波 2020年12月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

石井光太

イシイ・コウタ

1977(昭和52)年、東京生れ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『物乞う仏陀』『神の棄てた裸体』『絶対貧困』『レンタルチャイルド』『ルポ 餓死現場で生きる』『遺体』『蛍の森』『浮浪児1945-』『「鬼畜」の家―わが子を殺す親たち』『43回の殺意―川崎中1男子生徒殺害事件の深層』などがある。

石井光太 公式ホームページ (外部リンク)

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