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あらゆるこの世の変遷を見てきた97歳の著者が語る、末世を生き抜くための知恵。

命あれば

瀬戸内寂聴/著

1,210円(税込)

本の仕様

発売日:2019/08/27

読み仮名 イノチアレバ
装幀 モリナオミ/装画、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 214ページ
ISBN 978-4-10-311227-3
C-CODE 0095
ジャンル 文学・評論
定価 1,210円

季節の移ろいを愛で、新しいことに挑戦し、死と生と老いを思い、懐かしい人たちを偲んで、非情な事件や荒廃した政治を憂う。いくつになっても喜び、笑い、怒り、嘆き、命がある限り生きる情熱は失いたくない――。97歳の著者の真摯な言葉があなたの心をときほぐす、不安な時代を幸福に生きるための心がまえ62話。

著者プロフィール

瀬戸内寂聴 セトウチ・ジャクチョウ

1922(大正11)年5月15日徳島生れ。東京女子大学卒。1957(昭和32)年「女子大生・曲愛玲」で新潮社同人雑誌賞受賞。1973年11月14日平泉中尊寺で得度。法名寂聴(旧名晴美)。1992(平成4)年『花に問え』で谷崎潤一郎賞、1996年『白道』で芸術選奨、2001年『場所』で野間文芸賞、2011年『風景』で泉鏡花文学賞を受賞。1998年に『源氏物語』(全10巻)の現代語訳を完訳。2006年文化勲章を受章。著書に『かの子撩乱』『美は乱調にあり』『青鞜』『比叡』『手毬』『いよよ華やぐ』『釈迦』『秘花』『奇縁まんだら』『月の輪草子』『わかれ』『老いも病も受け入れよう』『求愛』『いのち』など多数。

書評

むごい筆だけど

田中慎弥

 収められているのは新聞にいまも連載中の随筆のうち、1997年から2016年までのもの。世紀をまたいでなお、作家は様々なことに興味を向け、時には各分野で活躍する人たちを応援し、寿ぎもするが、いまを生きる日本人、人類への嘆きや落胆の方にこそ重みがある。瀬戸内さんほどのキャリアがあれば、時代や国家や為政者には目もくれず、世界がどうなろうが、自らの小説の道をひたすらストイックに進めばいいだけなのに、と私などは思ってしまう。瀬戸内さん、どうか小説のみに力を注いで下さい、と。
 だが、この随筆集に書かれてあるように世の中を全方位的に見つめ、時に有罪判決を受けた人物と向き合ったり、時にはまた犯罪被害者支援の活動もする、といった多面性こそが、瀬戸内さんを僧侶としてだけでなく作家たらしめてきたのだろう。
川端康成氏が『美しい日本』と自慢した日本の自然も人も、今や風前の灯だというのは言い過ぎだろうか。」「今、人々は目に見えないものへの畏敬を失っている。その為、どんな浅ましい偽りを犯しても恐れも恥も感じない不感症な怪物に、人間を変えてしまったのである。」といった現代への批判に対しては、いえいえ、人間はまだまだ捨てたものでもないと思いますが、と私は小声で反論したくもなるのだが、ではそういう自分自身が、現代にあっていったいどれほどのことをしてきたのかと省みれば、黙るしかない。
 本は読者に届いてこそ大きな意味を持つ。だから、ここに展開される現代批判は、この随筆集を読む一人一人に突きつけられたもの、ということになる。一見すると大物作家が気ままに書き綴った、と思えなくもなく、勿論そういった要素もここにはあるのだろうが、だからといって読んだ方も、さすがは瀬戸内さん、なかなかいいこと仰いますな、などと悠長に構えている場合ではない。瀬戸内さんにこれ以上耳が痛いことを言われないように、懸命に各々の仕事をしてゆかなければならない。この私自身も。
 全六章のうち第三章「なつかしい人たちの俤」を、作家として興味深く読んだ。宇野千代水上勉といった文豪が次々に登場する。作家というものは小説を書いてナンボ、作品こそ全てであり、作家本人がどんな人物であったかはどうでもいい、と私は日頃思うことにしているのだが、それは、ともすると作品よりも作家の人生の方に興味を引きずられそうになることへの戒めだ。瀬戸内さんしか知り得ないようなエピソードも出てくるから、よけいによからぬ興味をかき立てられてしまう。
 特に大庭みな子が亡くなった時の話などは、こんなこと書いちゃっていいのか、と読んでいるこちらが焦る。瀬戸内さんの筆は、冷酷なまでにその場面を描写してみせるのだ。他の作家には真似の出来ないやり方であり、書くということの、そして書かれるということの残酷さを見せつける。たとえ思い出話に過ぎないのだとしても、作家が作家を描く時、懐かしさや悲しみを踏み越えて、作家のなんたるかを暴かずにはおかない。いなくなってしまった人たちの生前の姿を生き残った作家が書く、そのことへの批判もあるだろう。死者は生きて書く作家の筆を止めようがない。むごい筆だとも言える。それは、長命を保ってなお現役であり続ける作家の宿命みたいなものだろうか。私は自分が九十歳を過ぎて書き続けることを、ほとんど想像出来ない。そういう時がもし来るのなら、こんなこと書いちゃって大丈夫ですか、と遠い後輩たちから思われてしまうようなものを、果して書くのか、書かないのか。
 ところで第六章の中に登場する「新しい男友だち」というのは私のことである。自分の書いた掌編集に対し、「『やられた!』と私はうなった。」と書いて下さり、こちらとしてはしてやったりだが、私の本などに刺激を受けてか、瀬戸内さんはその後、掌編集『求愛』を刊行されている。生きながらにしてむごい筆のエジキに、私はされてしまったのか。戦いている暇はない。大先輩をさらにうならせるものを、立ち止らずに書かねばならない。

(たなか・しんや 作家)
波 2019年9月号より
単行本刊行時掲載

目次

第一章 京都・嵯峨野に暮らす日々
美しい日本の乏しい危機感
寂庵の行方
文化への愛と情熱
声明の夕べ
女性仏教文化研究センター
文化ボランティア運動
老春のパワー
灯りを消そう
田んぼアートの初穂
小さな町家
第二章 愛別離苦をのりこえて
家族と迎える正月こそ
ややこしい運命から
厄年の迷惑な置き土産
子ども手当とは
躾はあって当然
国家百年の計
犯罪被害者の会を支援する
言葉もない辛さ
第三章 なつかしい人たちの俤
宇野千代さんの岩国
水上勉さんをしのぶ夕
快老米寿の人
正月の死
歴史の流れの堰に
もういない人たち
妖怪聖家族
ふたり 太郎と敏子
現代の妖怪
柚子湯
稀有な夫婦愛
勧進帳と弔辞
やがて来るその日のために
残される立場
第四章 どちらを向いても嘆かわしい
血も涙もない冷酷非情な判決
奇跡の帰還
人権と裁判
汚染された日本人の心
伝える人の少くなる不安
偽りに不感症な怪物
地獄にも仏
アングリマーラの話
人気妖怪
細川護熙さんとの縁
アベ政治を許さない
第五章 女にまかせろ
いずこも同じ女の悩み
女にまかせろ
女の時代
盲導犬とみつまめ会
太陽になった平成の女たち
人権から共生への道筋
猛暑の日の面会
ぬちがふう(命果報)
第六章 好奇心が長寿の秘訣
小澤征爾さんのコンサートキャラバン
籔内童子と正倉院展
文楽を守れ
復興への燭光
白亜の巨大墓
トマス・アクィナスとの縁
ノーベル賞のこと
新しい男友だち
新しもの好きの電子ブック
今、福田恆存の対談集
酒徒番付 西の大関として
あとがき

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