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美術館へ行こう―ときどきおやつ―

伊藤まさこ/著

1,650円(税込)

発売日:2018/04/26

  • 書籍
  • 電子書籍あり

日々のあいまに、旅の途中で、思い立ったらぶらり――。

いつも通っているところ、気になっていたところ。北海道から鹿児島まで、個人美術館から文学館まで。人気スタイリストが、全国各地の、街に馴染んだ、居心地のよい、24の小さな美術館をご案内します。お土産やカフェなど、鑑賞後のおたのしみもあわせて。のんびりしに、気分転換に、元気をもらいに、ちょっと美術館まで。

目次
北のアルプ美術館 北海道斜里郡斜里町
六花の森 北海道河西郡中札内村
金沢美術工芸大学 柳宗理記念デザイン研究所 石川県金沢市
中谷宇吉郎 雪の科学館 石川県加賀市
碌山美術館 長野県安曇野市
フィン・ユール邸 岐阜県高山市
朝倉彫塑館 東京都台東区
ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション 東京都中央区
インターメディアテク 東京都千代田区
岡本太郎記念館 東京都港区
日本民藝館 西館(旧柳宗悦邸) 東京都目黒区
岩立フォーク テキスタイル ミュージアム 東京都目黒区
ちひろ美術館・東京 東京都練馬区
三鷹市山本有三記念館 東京都三鷹市
あとりえ・う 東京都町田市
museum as it is 千葉県長生郡長南町
鎌倉文学館 神奈川県鎌倉市
ベルナール・ビュフェ美術館 静岡県駿東郡長泉町
多治見市モザイクタイルミュージアム 岐阜県多治見市
BANKO archive design museum 三重県四日市市
ユキ・パリス コレクション 京都府京都市
アサヒビール大山崎山荘美術館 京都府乙訓郡大山崎町
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 香川県丸亀市
かごしま近代文学館 「向田邦子の世界」展示室 鹿児島県鹿児島市

書誌情報

読み仮名 ビジュツカンヘイコウトキドキオヤツ
装幀 いとう瞳/題字、渡部浩美/ブックデザイン
雑誌から生まれた本 芸術新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 A5判
頁数 160ページ
ISBN 978-4-10-313874-7
C-CODE 0095
ジャンル 美術館・博物館
定価 1,650円
電子書籍 価格 1,320円
電子書籍 配信開始日 2018/11/02

書評

やわらかな手にひかれて巡る「心の病院」

光野桃

「できればそこはそんなに大きくなく 街に馴染んでいるといい。帰りがけお茶が飲めたり、のんびりできる喫茶店なんかがあったらもっといい」――
 ほんと、ほんと、わたしもそんな美術館が好きよ! と思わず前書きに相槌を打った。
 スタイリストの伊藤まさこさんが選んだ、小さな、居心地のいい24の美術館。北は北海道から南は九州まで、厳選して紹介する本書は「芸術新潮」で連載されていたものだが、一冊にまとまるのを心待ちにしていた。
 登場する美術館には、まったく知らなかったところもあれば、いつかは行きたいと憧れている加賀の「中谷宇吉郎 雪の科学館」や畦地梅太郎のアトリエであった町田市鶴川の「あとりえ・う」、四日市市の萬古焼のスタイリッシュなデザインミュージアムなどもある。
 そしてまた、散歩の途中に立ち寄っては大好きなサリーや麻の古布を眺める目黒区の「岩立フォーク テキスタイル ミュージアム」、京都の帰りに、その美しい古典的な窓辺に会いに行く「アサヒビール大山崎山荘美術館」、時間をやりくりして通う駒場の「日本民藝館」など、馴染の場所を見つけると、何だか故郷が褒められたような、ちょっと誇らしい気持ちになった。
 美術館では、ひと通り鑑賞した後、展示室のソファや椅子に座って、静かにしているのが好きだ。展示されている物たちから発せられる気を存分に浴びる。
 よく行く美術館には気に入りの場所が必ずあって、たとえば日本民藝館本館二階、一番奥にある展示室の前の木のベンチ。好きな飴をこっそり鞄から取り出してなめながら、ずっとそこにいる。
 そういう場所で、ただボーっとする時間がどうしても必要なのだ。そうしないと息が詰まる。海や森ではなく、カフェでもなく、自宅の居間でも公園でもなく、それは美術館でなければならない。
 なぜなのだろう、と以前から考えていたが、その答えが本書の23番目に紹介されている「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館」の項にあった。
 猪熊弦一郎の理想の美術館像を表す言葉が「美術館は心の病院」だったというのだ。良い空間と良い建築。街の中心にあって、日常的に行きやすく、子どもたちにとっても親しめる場所。だからこの美術館は18歳まで無料なのだそうだ。
 そんな場所に通い、「日常の垢を落とし、またいつもの生活に戻っていく」。幼少期からこんなふうに暮らすことができたら、どんなに健やかな大人に育つだろう。「心の病院」があるかないかで、その土地に住まう人々の心のありようは変わるはずだ。
 生前、猪熊画伯はこう言っていたという。
「美しいものが分かる人というのは、人の気持ちが分かる人」と。
 そういえば本書の語り口は、以前のものと少し違うな、と思いながら読んでいた。デビュー当時から伊藤まさこさんの著作に触れてきた者として、いつも頭にスーパーとつけたくなるような仕事っぷり、女っぷりだと感じてきたが、そのまさこさんが、この本では歩く速度を緩めたかのように優しく、懐かしい口調で語りかけてくるのである。
 娘さんとふたりで訪ねたときの情景や、お母さんが絵を見て言われた一言などが、ふんわりと、でも少しだけ切ない色をして行間を漂い、ふとページから目を上げる。
 すると、子どもの頃、家の裏の木の上が心の病院ならぬ木の上の病院だったことや、母の好きだった布や器の色や手触りが、鮮やかによみがえってきた。
 日本全国の素敵な美術館を愉しく、美味しく巡る旅。その旅を導いてくれるまさこさんの手は、やわらかく、あたたかく、ああ、この人もまた、「美しいものが分かる人」なのだったなあ、と、あらためて思うのだった。

(みつの・もも エッセイスト)
波 2018年5月号より
単行本刊行時掲載

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著者プロフィール

伊藤まさこ

イトウ・マサコ

1970年、横浜生れ。文化服装学院でデザインと服作りを学ぶ。料理や雑貨など「暮らし」をベースにしたスタイリングを手がける。著書に『あの人の食器棚』『台所のニホヘト』『家事のニホヘト』『美術館へ行こう ときどきおやつ』(以上新潮社)、『新装版 毎日ときどきおべんとう』(PHP研究所)など多数。自らプロデュースした衣食住にまつわる商品を販売するサイト「weeksdays」を「ほぼ日」と一緒に運営中。

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