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アラート

真山仁/著

2,200円(税込)

発売日:2025/07/24

  • 書籍
  • 電子書籍あり

防衛力はカネか人か? この未来はフィクションでは終わらない!

防衛費倍増の財源を巡って政権は揺れていた。予算折衝は激しさを増した。その最中、台湾の潜水艦と日本の漁船の衝突事故が。北京滞在中の都倉響子総務会長の決断は? トランプ、台湾有事──今そこにある「リアルな危機」から、この国の未来を守るのは誰か。安全保障を経済から問う圧倒的長編ポリティカル・フィクション!

目次

プロローグ
第一章 傘屋の小僧 二〇二四年
第二章 リヴァイアサン 二〇二五年
第三章 一世一代 二〇二五年
第四章 独立独歩 二〇二七年
エピローグ

書誌情報

読み仮名 アラート
装幀 Alexyz3d/iStock/Getty Images/写真、matejmo/iStock/Getty Images/写真、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 Foresightから生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 336ページ
ISBN 978-4-10-323324-4
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 2,200円
電子書籍 価格 2,200円
電子書籍 配信開始日 2025/07/24

インタビュー/対談/エッセイ

フィクションで終わればいいと願っている

真山仁

安全保障を「税」から問う最新長編『アラート』が刊行された。トランプ再登場、台湾有事、「北」のミサイル――リアルな危機が迫る中、防衛費の財源問題は道筋さえ見えない。そこに思いもかけない事件が! 緊迫のクライシス・ノベルに込めた思いを語ってもらった。

――財政破綻の危機を描き、国家予算半減という大胆なテーマに挑んだ『オペレーションZ』から八年。新作『アラート』で、税から見た安全保障に取り組んだきっかけは?

 いくつかの出来事が重なりました。最初は五年程前に『墜落』という小説の取材で、防衛省や自衛隊の方たちと雑談している時に、「防衛力強化のために増税するのを、国民に理解してもらえるでしょうか」と質問をされたのです。防衛費は長い間、GDPの一パーセントという枠がありましたが、日米関係や国際情勢の変化で、上げなければいけない時期が来ているという話でした。実際に、2023年から五年間で、GDP二パーセントに倍増することになりました。ただし、財源はいまだにはっきりしていません。

――最初は安全保障の現場からの声だったわけですね。

 次に、ある国会議員と会った時のことです。政治家として覚悟を決めて挑まなきゃいけない政策提案は何ですか、と尋ねました。当時は、少子化や年金が話題でしたが、意外なことに、安全保障だと言われた。財政赤字に問題意識を持っていて、歳出を減らさなければと考えている議員です。でも、防衛費は減らせないから、財政再建とは反対の方向に行くことになったとしても、安全保障だけは、国債で賄うのはあり得ないと言うわけです。自国を守るということに関しては、国民に理解をしてもらって、協力を得ることが、政治家として大切な役目だと思うと。

――それは、つまり増税ということですね。

 安全保障の財源として国債を当てるのはあり得ないと、財務省も言っています。そもそも赤字国債は本来違法なわけで、緊急避難的な状況として、赤字国債の発行を認める法律まで通して、ようやく実施しているのです。これ以上国債に頼れないので、増税してでも、安全保障を何とかしなければならないという認識は、霞が関や永田町だけじゃない、多くのメディアの政治部記者の間では共有されています。

――国際情勢の変化が大きいのでしょうか。

「米中戦争」は貿易摩擦の領域を超え始めています。中国の軍事費が膨張していて、金額的に、また装備から見ても、アメリカを超えようとしている。ただ、精度の問題があるので、現実に戦争になれば、核不使用ならアメリカが優勢。それでも、中国がアメリカに勝てるわけがないという時代は、とっくに終わっています。アメリカと中国に挟まれている日本の立ち位置は、相当難しい状況にあると認識する必要があります。

――日米関係も変質しています。

『アラート』の中でも書きましたが、2022年1月の「2+2」(日米安全保障協議委員会)で、アメリカから、沖縄の在日米軍は今後日本を守らないと非公式に通告されたようです。それは政治部の記者は知っている。アメリカが注視しているのは中国の動向であり、台湾を守ることなのです。

――そういった各方面からの情報が、真山さんのところで重なっていった。しかし、防衛力強化のために増税という話は、なかなか表立っては出てきません。

 自分の国を、自らの防衛力で守るという、当然至極な行為を忘れてきたことに警鐘を鳴らしたいという思いは昔からありました。歳出半減より、増税する設定の方が、小説としてはハードルが高いのですが、国民が全く関心を持たないテーマだからこそ、敢えて書く。そうやって社会の陰に光を当てるのも、小説の役割ですから。本来なら、じっくり時間をかけて取材して、プロットも試行錯誤して、それから書くべきなのですが、そんな悠長なことをしている場合じゃないという感覚があって、見切り発車で連載を始めました。おかげで単行本にする時に、大幅に削ったり、書き加えたりする羽目になりましたが。

物語を動かす事件とキャラクター

――トランプの二期目が始まって、関税など大変なことになっていますが、日米の安全保障に影響はあるでしょうか。

 日本ではトランプの後、バイデンになれば、中国に対して理性的に振る舞うだろうと見られていました。ところがバイデン政権で、対中問題は逆に加速したのです。アメリカの本気度が上がっていった。さらに二期目のトランプは過激で、先日もNATOに対して、防衛費をGDP五パーセントにしろと突然言い出した。トランプの五パーセントは、明日には三パーセントになるかもしれないけど、ともかく彼の発想はすごく分かりやすい。アメリカはこれ以上、他国のために負担するのはこりごりだというわけです。

――そのような国際情勢の下で、『アラート』では、驚くような事件が起きて、ストーリーが大きく動いていきます。

 フィクションである小説では、ありえないと思われている事件を起こすことができます。この作品の中では、それが安全保障を考える上で象徴的な出来事でなければいけない。そこで考えたのが、日本の漁船と台湾の潜水艦が衝突して沈没するという事故です。現場は、日本のEEZ(排他的経済水域)と公海の境界線。潜水艦が台湾軍のものというのもポイントです。仮想敵国でもないし、非常に微妙な状況が生じます。

――絶対にありえないとも言えない事故なのですね。

 現実に、日本海を始めとして、日本の沿岸には、世界中の潜水艦が航行しています。津軽海峡は潜水艦が通れるルートを空けているくらいですから、いつか事故が起きてもおかしくありません。

――この事故の発生を機に物語の中心人物になるのが、与党の女性政治家、都倉響子です。

 都倉という政治家を中心に据えることによって、物語が二つの意味で回り始めました。一つは、有事や安全保障を考える時、主役は官僚ではなく、政治家だということです。防衛省や財務省がいくらがんばっても、政治家が決断できない限りは、絶対に問題は解決しない。大きな変革を起こすには、政治家の役割が大事なのです。もう一つは、小説としての面白さです。窮地に追いやられた彼女が、自分の使命感を暴走に近い形で実現させていく過程を描くことで、教科書ではない、エンターテインメントとして、物語が動いていったと思います。

――税や安全保障は、エンタメになりにくい題材ですね。

 テーマとエンタメ性のバランスは、いつも苦労するところで、テーマが大きければ大きいほど、読者に興味を持ってもらうのが難しくなる。その難しさを面白さに変えられるように努力したつもりです。

危機を現実にしないために

――税金の問題も、『アラート』では想定外の展開を見せます。そこは小説を読んでいただくとして、現実に税と安全保障の関係は、どうなっていくとお考えでしょうか。

 まず、防衛費を倍にしたら日本を守れるのかという問題があります。倍ではなく三倍、五倍にしたら、守れるのか。もっと重要なのは、どこから守るのかということです。米中戦争対策が目的なら、仮想敵は中国になります。ですが、中国は今まで一度も日本に軍として攻めてきたことはありません。挑発はしてきますが、領空侵犯はほぼしていない。微妙なエリアまで入ってくるのがせいぜいです。ミサイルを撃ってきているのは北朝鮮で、すぐ近くにロシアもいる。実際に防衛省と自衛隊内部で仮想敵国と考えているのは、露華鮮の三ヵ国です。

――非常に厳しい環境に日本はあるのですね。

 日本は地政学的に見ても、最悪の場所にあります。覇権国家というか、戦争に前のめりな国しか周りにいない。太平洋を挟んで反対側は、同盟国とはいえ、やはり戦争大好きなアメリカですからね。

――ただ、その危機感が共有されているとは思えません。

『アラート』を書くにあたって、どこまで危機感を与えれば、防衛費のための税金を払うのに国民は納得するだろうという問題がありました。財務省の官僚に取材すると、最初に言われたのが、中国に攻撃してもらえばいい――。でも、そんな安易な、誰でも考えるようなことを書きたくなかった。それでいろいろ提案しても、なかなか首を縦に振ってくれません。現実に恐怖を味わうか、切実に自分たちの国を守らなければいけないという気持ちになるような出来事が起きない限り、増税なんか実現しないと彼らは考えている。でも、今ではホームセキュリティにお金を払っている人は少なくない。自分の家の安全にはお金をかけるのに、なぜ国のセキュリティにお金を払わないと決めつけるのか。そう問いかけても、いや無理でしょうねと彼らは言うのです。

――それが彼ら官僚の肌感覚なのでしょうか。

 せめて読者の方には、日本が置かれている状況に目を背けず、理解してほしいし、国を守ることをちゃんと口にできるよう、政治家に求めてほしい。現世利益的な、その場限りの政策しか訴えない政治家を、いつまでも国政に就かせていいのか。逆に政治家も勇気を持って、国民に迎合するのではなく、この国のために自分たちがしなければいけないことをしっかり訴える。そこから始めるしかないでしょう。

――この本の帯には「この未来はフィクションでは終わらない!」とあります。ここで描かれる危機が現実になってしまう確率は、どれくらいだと思いますか。

 むしろフィクションで終わればいいと願っています。でも、この小説をきっかけに、ここで描かれるような安全保障のための税金が必要なんじゃないかと発言する人が出てくるかもしれない。安全保障を自分事として考えるために、一石を投じられたらいいなと思っています。

(まやま・じん 作家)

波 2025年8月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

真山仁

マヤマ・ジン

1962年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒。新聞記者、フリーライターを経て、2004年、企業買収の壮絶な裏側を描いた『ハゲタカ』でデビュー。同シリーズはドラマ化、映画化され大きな話題を呼んだ。『マグマ』『ベイジン』『売国』『黙示』『そして、星の輝く夜がくる』『ロッキード』『墜落』『タングル』など著書多数。近著に『ブレイク』『当確師 正義の御旗』『ロスト7』がある。

真山 仁 - JIN MAYAMA Official Home Page - (外部リンク)

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