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神道と日本人―魂とこころの源を探して―

山村明義/著

1,870円(税込)

発売日:2011/09/16

  • 書籍

日本人が誇る精神性は、どこにつながるのか。原初の姿を問うノンフィクション。

清浄を好む国民性、絆をつなぐ祭の力、型と作法を重んじる心性、武士道の死生観、他者への感謝と真摯な祈り……。「日本人らしさの原点」は神道に秘められている――。原発事故や秋葉原事件などの地元の古社をはじめ、ブームに沸く出雲、熊野、伊勢、そして宮中祭祀まで二百人以上の神職を取材、この国の基層を再発見する。

目次
まえがき 神道のもつ普遍性と汎用性に気づいてもらうために
第一章 日々の営みのなかに根ざす誠心(まことごころ) 感謝の思い、祈る心
無私の祈り/宇宙飛行と神社/言霊にこめられた感謝と祈り/素直な気持ちで神様と向き合う/神様を身近に感じる
第二章 自然を敬い、自然と共にあれ 「鎮守の森」に息づく日本の命脈
鎮守の森の蘇生に宮司人生を懸ける/氏子とともに植えた数多の木々/日本人の命脈が息づく場所/人が自然に生かされる/自然の変異を感じとる/「左翼神主」と揶揄されても
第三章 聖なるものへ近づくために 「禊ぎ」にこめられた清明正直
「トイレの神様」が解き明かす「禊ぎ」の精神性/宗像大社の聖なる島/「聖」と「俗」を見極める目と心/神前で嘘をついた鳩山由紀夫/小沢一郎の「妙見信仰」/まつりごとの原点「敬神愛民」
第四章 災厄から蘇る転換点 禍事を逆転に導く「祓へ」の効用
大震災が巡り合わせた二柱の神/連鎖する災厄にどう向き合うか/神去りの地、秋葉原/秋葉原で断絶された「火の神」の祭/凶事を再生に転化する祓への力/現代日本の禍事とは何か/神社の再興こそが神戸の復興に/祓へと祭で蘇りを果たす
第五章 凜として、いまを生き切る 武士道精神と魂の帰る場所
日本人の「戦う魂」/武士道にみる日本人の魂観/武道と神道に共通する精神性とは/土から生まれて土に還る/厳粛ななかにも清々しい神葬祭/魂の帰る場所/死を怖れず、いまを懸命に生きる
第六章 海を越え、つながり合う 神道のもてなしの心と寛容性
日本を知らない日本人/アメリカ本土に創建された神社/「日本人より日本人らしい」青い目の神主/朝鮮半島と日本をつなぐ/日韓交流の場として/異色の精神科医宮司が語る「魂の交流」/世界に通用するコミュニケーションの作法と型/「いまここの瞬間」ヒア・アンド・ナウ/神道の「三つのF」
第七章 守りつつ、切り拓く 神職たちの新たなる試みと挑戦
神輿担ぎの世代交代をすすめた妙案/若き女性神主「自信と誇り」の源泉/「新潟の奇跡」を起こした実業家神主/地域に根ざした経営で地域とともに栄える
第八章 時空を超えて宿る神々 出雲、高千穂が紐解く神の座す場所
出雲大社の注連縄にこめられたパワー/神社に在る原初の姿/神々は時空を超えて/神々のコスモロジー/コンピュータに神は宿るのか/神の宿る「場」と「空間」
第九章 古くて新しい日本のかたち 熊野と伊勢に秘められた蘇りの力
「蘇り」の聖地、熊野/穢れを祓い、祭に臨む/神々の共同体にみる「共存共栄」の精神/伊勢ブームの陰で見うしなわれている日本人の感性/伊勢神宮が体現する「永遠の循環システム」
第十章 崇高なる祈りの先にあるもの 宮中祭祀が映し出す永遠の祭
天皇陛下の祈り/聖なる神域、宮中三殿/天照大神に仕える清浄なる女性/静寂と闇のなかでの感謝の祭/日本人が日本人であるための精神性とは
あとがき

書誌情報

読み仮名 シントウトニホンジンタマシイトココロノミナモトヲサガシテ
雑誌から生まれた本 新潮45から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 304ページ
ISBN 978-4-10-331041-9
C-CODE 0095
ジャンル 宗教
定価 1,870円

インタビュー/対談/エッセイ

日本人の精神の原点に帰る

山村明義

 古今東西、神話なき国家は滅びる、という。
神話なき国家は、自ら大事にすべき精神性の基本としての「神」が不在となった国家である、と見なされるからである。
 その点で、「八百万の神々」の国である日本は、全国に約八万社以上の神社があり、神々はいまだ健在のように映る。ところが、最近の紀伊半島を集中的に襲った記録的豪雨や東日本大震災の話でいえば、日本の神々の鎮座する「場と空間」となっていた神社が次々と被災し、とりわけ福島第一原発の事故で起きた爆発の連鎖は、まるで「火の神」が怒り狂い、神さえも近づけないかのような様相であった。
 古来から日本人には、「日本の危機は、日本の神々の世界の危機」という意識があった。
 だからこそ実際に日本人は、神々の住む聖なる場としての自然を大事にしてきたし、日本の神道もまた、危機の時にそれを乗り切る精神性として生き残ってきた歴史があった。
 ちなみに、いまでも日本の神々の世界には、「地震の神」や「津波の神」、「雷神」と同義である電気エネルギーの神、さらには台風や洪水の神もいるし、災害全体の神もいる。
 しかし、なぜか「放射能の神」は存在しない。「火之迦具土神」(ほのかぐつちのかみ)や「火産霊神」(ほむすびのかみ)という「火の神」は存在していても、「放射能の神」、「放射線の神」という神はいないのである。
 これは、原子力爆弾や原子力発電そのものが、人間自身が科学の力を借り、畏れ多くも自然界の神の概念にないものを作り上げてしまった、ということを示す象徴的な話である。
 さらにいえば、将来の日本では、福島県の住民のみならず、原発事故で放射能に汚染された土地の「除染」という膨大な作業に、悩まされ続けることの予兆だといえよう。
 このような話は一見すると、フィクションの世界の話のようだが、今回の「神道と日本人」という神道ノンフィクション作品のための取材を通して、浮かび上がってきたものだ。
 今回の本は、全国の神社に奉職する神職を訪ねた私自身によるルポという形式を取っている。彼らの話を聞くうちに、マスメディアに大量に登場した情報とは、まったく異なる視点や物語が続々と生まれた。その日本の神々を古代から守り続けている神職の視点から見れば、今回の東日本大震災とは、「大変な神々の危機」というものに映っているのだ。
 また、「日本の神々との仲とりもち」といわれる神職の視点から、いまの日本の現状を見ると、また違う時代の危機が見えてくる。
 それは、伝統的に日本人同士を結び繋いできた日本人の「魂と心」の危機である。
 例えば、放射能汚染の除染のためにも有効な日本人の「禊ぎ」の精神性。災害に立ち向かい逆転をもたらす「祓へ」の行為。「和する心」の一方で、戦うための日本人の「魂」。これらはすべて日本の神道の基本的な精神性なのだが、これらはもはや風前の灯火となっていた。
 いま東日本大震災の東北の被災地でさえ、戦後の個人主義の弊害により、人間の繋がりの喪失や協調性のなさが指摘され始めている。これもまた神道という日本人の基本的な精神性が戦後、失われたことが最大の原因なのである。
 実は約二千年以上の間、日本人の精神性の中心であり続けた日本の神道は、戦後は本当の意味で日の目を浴びることがなかった。占領政策下では「戦時思想の基本となった」と見なされ、逆に虐げられてきたといっていい。
 いま、その日本人の「魂」が復活しつつある。例えば「なでしこジャパン」の活躍に見られるように、スポーツの世界では「魂」という言葉が使われない日はない。だが、実は「魂」という考え方の原点には、神道があるのだ。
 そして日本の神職者たちは、沈黙を破った。
 すなわち、戦後初めて約五十人の神職が自ら名乗りを上げ、彼らのいうところの「言挙げ」を始めたのである。その意味で今回の著作は、戦後出版された本のなかではどこを探しても存在しない、封印が解かれた初めての本だといえよう。

(やまむら・あきよし 作家、ジャーナリスト)
波 2011年10月号より

著者プロフィール

山村明義

ヤマムラ・アキヨシ

昭和35年熊本県生まれ。早稲田大学卒業後、雑誌記者を経てフリーランス・ジャーナリストからノンフィクション作家へ。約三年半にわたり、日本全国で二百人以上の神社神職へのインタビューをおこない、神道に関する研鑽を重ねてきた。『神道と日本人―魂とこころの源を探して―』は満を持して放つ、神道に関する初めての単行本である。父系の祖先は、約九百年前、菅原道真のあとを追い京都から九州の大宰府へ「神職」として赴任し、神職の有職故実の書『江家次第』を記した大江匡房にあたる。

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