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めぐみと私の35年

横田早紀江/著

1,320円(税込)

発売日:2012/08/31

  • 書籍
  • 電子書籍あり

死ぬ前に、もう一度娘に会いたい。その一心で闘ってきた。全日本人必読の書。

13歳の娘が下校中に忽然と姿を消した35年前、毎日あてもなく探し回った。その娘が北朝鮮に拉致されたと分かった15年前、すぐにも娘に会えると期待した。そして、小泉総理が訪朝し娘の死を告げられた10年前、絶対に取り戻すと決意した。「私に残された時間はもう短い」。日本政府、国民、そして北朝鮮にむけた最後の訴え。

目次
序章 決意 ――今年こそ、絶対に
金正日の死が意味するもの/次から次へと出てくる新情報/日本の異常な状況/今こそがチャンス
第一章 追憶 ――いちばん幸せだった頃
やんちゃな女の子/いちばん幸せな日々/新潟での生活の始まり/めぐみの将来の夢/バドミントンに明け暮れて
第二章 絶望 ――どこにもいない娘
姿を消した娘/何もない手がかり/誘拐犯からの電話/なりふりかまわぬ捜索/毎夏の遺体確認
第三章 信仰 ――私の家族の原点
強烈な疎開体験/父の死と進路/夫との出会い/信仰を持って/新潟との別れ/めぐみによく似た子
第四章 衝撃 ――北朝鮮で生きていた
つながる点と線/急展開した事態/押し寄せるマスコミ/主婦から「被害者家族」へ/政府、世間への訴え
第五章 交渉 ――振り回される日本
訪朝の衝撃/腹立たしい交渉/曽我ひとみさんとめぐみ/国連での申し立て/家族会への批判/北朝鮮から届いた娘の「遺骨」
終章 祈り ――とにかく、元気でいて
主人の発病/ブッシュ大統領の包容力/私たちの使命/すべての営みには時がある/とにかく元気でいて欲しい
謝辞

書誌情報

読み仮名 メグミトワタシノサンジュウゴネン
雑誌から生まれた本 新潮45から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-332761-5
C-CODE 0095
ジャンル 社会学、事件・犯罪
定価 1,320円
電子書籍 価格 1,056円
電子書籍 配信開始日 2013/02/22

書評

今こそ、母の声を届けたい

歌代幸子

 初めて横田夫妻にお会いしたのは、昨年四月のことだった。「新潮45」から早紀江さんの手記をまとめる依頼を受け、夫妻が住む川崎のマンションを訪れた私は、かつてないほど緊張していた。初対面というだけでなく、横田めぐみさんには、特別な思いがあったからだ。
 夫妻の長女、めぐみさんが突然に姿を消したのは、一九七七年十一月十五日のこと。中学一年生のめぐみさんは、夕方、クラブ活動を終えて帰宅する途中、自宅近くの十字路で友だちと別れたまま、消息を絶った。
 めぐみさんと同年生まれの私もまた、当時、新潟市内の近隣中学へ通う生徒だった。めぐみさんの一家が暮らす水道町界隈は馴染みがあり、周辺の海岸や松林は慣れ親しんだ遊び場でもあった。めぐみさんの行方不明を伝える「新潟日報」の記事は、私たちを震撼させた。あの事件を機に、誘拐を案じる親からは一人で海岸付近へ行くことを禁じられ、子どもたちも怖れて足が遠のいた。
 めぐみさんの消息は分からないまま、時おり、「外国で暮らしているらしい」などと噂が流れた。テレビのワイドショー番組で涙ながらに娘の情報を求めるご両親を見るたび、痛ましくてならなかった。街角には公開捜索のポスターがたくさん貼られていたが、それもだんだん色褪せていった。
 あれから二十年後。めぐみさんが北朝鮮に拉致されたという報道があり、大きな衝撃を受けた。私は娘をもつ母親となっており、なおのこと他人事とは思えなかった。被害者を救出するための署名活動が始まると、家族全員で名前を記した。
 さらに五年を経た二〇〇二年、小泉首相の訪朝が実現し、ようやく事態が進展した。だが、そこで伝えられたのは「五人生存、八人死亡」のニュース、そして、めぐみさんの「死亡」情報だった。
 その後、北朝鮮から「めぐみさんの遺骨」が届けられたが、それは別人のものだった。なおも翻弄される家族の苦悩はいかなるものだったか。私の心には、中学時代の記憶とともに、拉致問題、殊にめぐみさんの存在が常にあったように思う。
それでもまさか、自分が早紀江さんの手記をまとめることになろうとは思わなかった。たいへん意義のある仕事だと感じたが、同時に重圧も大きかった。
 インタビューを始めると、報道では知り得なかった家族の軌跡が浮かび上がっていった。明るくお茶目な娘との思い出、双子の弟たちと家族五人で囲んだ食卓……一家の幸せな時間は、めぐみさんの失踪によって無残に断ち切られてしまった。絶望の淵で、懸命に娘を探しまわる日々。拉致されたことが分かってからは、救出を求める壮絶な闘いが始まった。
 そして現在、日朝間の交渉は止まってしまい、解決にむけての動きは見られない。その真実を伝えたいと、早紀江さんは辛い心情を語り続けてくれた。
 そうした思いを、私はどこまで伝えられるのか。書き進めるほど無力感に苛まれ、めぐみさんが行方不明になった新潟の現場へ行ってみた。同じ十一月の夕刻、早紀江さんが息子たちを連れて探しまわった場所をたどった。夜には人通りも途絶える住宅街、中学校から護国神社、さらに寄居浜へ向かうと灯りも途絶え、波音を聞いていると漆黒の闇に吸い込まれそうになる。「めぐみちゃーん、めぐみちゃーん!」と叫ぶうち、胸の動悸は高まり、震えがおさまらなかった。“同じ母の立場として、必ずや娘を……”という思いが湧き、その一念で最後まで綴ることが出来た。
 本書では早紀江さんの生い立ちにもふれた。両親から注がれた愛情を同じようにめぐみさんに注いだことがわかる。滋さんと築いた家庭のアルバムには、子どもたちの笑顔があふれている。残された写真を見るたびに、この家族の幸せを奪った拉致問題の非情さを思った。それゆえ、数奇な人生を歩まざるを得なくなった母親の深い悲しみも……。
 訪ねるたびに、早紀江さんはベランダで育てている花の写真を楽しげに見せてくださった。「めぐみもお花が好きだったの」と。娘がいなくなったあの日から三五年。「娘にもう一度会いたい」と願う母の切なる声に、今こそ耳を傾けて欲しい。

(うたしろ・ゆきこ ノンフィクションライター)
波 2012年9月号より

著者プロフィール

横田早紀江

ヨコタ・サキエ

1936年京都府生まれ。1962年滋さんと結婚し、1964年にめぐみさんを、4年後に男の双子を出産。夫の転勤で名古屋、東京、広島に住み新潟に移った翌1977年に当時13歳のめぐみさんが失綜。懸命に捜索するも何の手がかりもなく、それから20年経った1997年、北朝鮮に拉致されたことが判明。1997年から2007年まで「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」の代表を務めた滋さんとともに、現在も拉致被害者を奪還するべく活動している。

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