
あの子とO
1,815円(税込)
発売日:2025/05/14
- 書籍
- 電子書籍あり
吸血鬼一家が営む山奥のピッツェリア。ある日、新たな仲間が加わることに!
漫画家を目指す双子の小学生吸血鬼、ルキアとラキア。二人はスランプから抜け出すため、ピッツェリアに見習い職人としてやってきたオーエンにキャンプに連れて行ってもらうことになった。オーエンには吸血鬼だということを知られてはいけない。でもその夜、ある事件に遭遇し──。変速するヴァンパイアストーリー全三篇。
プロローグ
あの子と休日
カウンセリング・ウィズ・ヴァンパイア
あの子とО
書誌情報
読み仮名 | アノコトオー |
---|---|
装幀 | 水沢石鹸/装画、新潮社装幀室/装幀 |
雑誌から生まれた本 | 小説新潮から生まれた本 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 256ページ |
ISBN | 978-4-10-336014-8 |
C-CODE | 0093 |
ジャンル | 文芸作品 |
定価 | 1,815円 |
電子書籍 価格 | 1,815円 |
電子書籍 配信開始日 | 2025/05/14 |
インタビュー/対談/エッセイ

ゴッドファーザーにご挨拶
万城目さんの新刊『あの子とO』は、本誌対談がきっかけで生まれた!? 新作ゲームの発売も間近に控えた「生みの親」である小島さんのもとを再び訪ねました。
ジャンルに囚われない作風
万城目 お久しぶりです。前回お目にかかったのは2022年9月、『あの子とQ』刊行記念の対談のときだったので、もう二年半前になりますね。
小島 そんなになりますか。万城目さんとは付き合いが長いせいか、なんだか久しぶりな気がしません。あの頃はオフィスを引っ越したばかりでまだこのフロアは出来上がっていませんでしたね。
万城目 ちょうど片付けの最中だったので、完成したオフィスにお邪魔するのは今日が初めてです。しょっぱなから、以前よりさらにゴージャスになった「出迎えの間」でルーデンス君とも再会して、「コジプロに来た!」とテンション爆上がりでした。「DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH」の最新トレーラーも大きなスクリーンで拝見して、家で小さなYouTube画面で見るのとは、音響含め、まったく違う迫力でしたね。
小島 オフィスに遊びに来てくださった方に、壁にサインをいただいているんですよ。万城目さんからもサインをいただけて光栄でした。
万城目 あんなビッグネームぞろいのところに混ぜてもらって恐縮です。いつもひょうたんのイラストサインを描くのですが、今日は牙のあるヴァンパイア・バージョンです。『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』の発売を6月に控えて、小島さんは今めちゃくちゃお忙しいんじゃないですか?
小島 そうですね、発売日が近づいてきて制作も佳境なのと、これから海外出張も増えるので、ちょっとバタバタしています。そんなわけで、実は新刊『あの子とO』はまだ読めてないんですよ。申し訳ありません。
万城目 いやいや、むしろそんなにお忙しいのに対談の時間を取ってもらってありがたい限りです。今日はですね、『あの子とO』の完成報告とお礼を言うために来たんですよ。
小島 お礼? どういうことですか?
万城目 覚えていらっしゃるでしょうか。前作の対談の最後で、小島さんが「次の作品は『あの子とO』でどうですか」と思いきり適当に言ってくださって。その時はまだ二作目の構想なんて全くなかったんですけど、小島さんの提案をきっかけに、むくむくとイメージが湧いてきたんです。おかげで『あの子とO』が書けました。小島さんが名付け親、ゴッドファーザーです!
小島 ああ! 「Qといえば『オバケのQ太郎』。次はQ太郎の弟のO次郎から取って『あの子とO』なんてどうでしょう」なんて言った記憶があります。
万城目 僕はQ太郎とO次郎のくだりは、完全に忘れてましたが(笑)。
小島 僕のアイディアを採用してくださっていたとは……。じゃあ、次は「あの子とF」なんてどうですか? フランケンシュタインの「F」です。あるいはミイラ。マミーの「M」で「あの子とM」とか(笑)。
万城目 ネタバレになってしまうから、ここで詳細は書けないけど、そんな感じで「あの子とO」の話をしてくれたんです。
小島 なるほど。このあいだ映画「ドラキュリアン」の4K版が出たので見返したんですよ。半魚人のギルマンの「G」も使えますね。シリーズでいくらでも書けそうじゃないですか?
万城目 みんな見た目にインパクトがありすぎて、本来の能力を隠して社会に溶けこんで何事もなく生きているっていう設定が難しそうですが、参考にさせていただきます(笑)。
小島 僕の発言が万城目さんの執筆のきっかけになったなんて、嬉しいですね。昔から、万城目さんと僕って共通点があるような気がしてます。
万城目 どんなところですか?
小島 万城目さんって、小説を書くうえでジャンルを気にしてないでしょう。SF、ファンタジー、時には時代小説の要素も入ることもあって、一つのジャンルに囚われないものを書いていらっしゃる。僕もそうなんです。「SFですか?」って聞かれることが多いんですけど、個人的にはSFをやろうと思って作ってるわけじゃないんですよ。

万城目 確かに。「DEATH STRANDING」はSF要素もあるけど、他に戦場の緊張感、親子の物語、荷物運びの苦労、建築やジップラインを設置することのよろこび……、いろんな感情を楽しむことができるゲームでした。僕の小説も作品によってスポーツ要素、舞台になった土地の要素、歴史の要素などが闇鍋のように混ざり合っているので、どの味に反応するかは読者次第、好きに読んでくれたらいいなと思って書いてます。
小島 誰かに決められた枠に嵌めようとしないで、自分が書きたいものを書くという姿勢が俗に言う「万城目ワールド」の魅力だと思います。僕も常に新しいものを作りたいと思ってやっています。
小説とゲームの違い
小島 『あの子とO』は短篇集なんですね。全部で三篇ですか。もちろん、全て吸血鬼が出てくる話なんですよね?
万城目 そうです。『あの子とQ』にもちらっと出てきた双子の吸血鬼の小学生がいるんですけど、彼らの実家が経営しているピッツェリアに、ある日見習い職人のオーエンという青年がやってくるんです。その青年と双子がキャンプに行くことになるんですが、そこである事件が起こります。双子は吸血鬼だから特殊能力を使えば事件を解決できるけど、オーエンに秘密を知られてはいけません。どうやって事件を解決しようか――というのが表題作の「あの子とO」です。それから前作の主人公で吸血鬼の嵐野弓子と親友のヨッちゃん、それからもう一人の同級生の三人で休みの日にクイズ&ゲーム大会に参加することになる「あの子と休日」っていう、ドタバタコメディ。もう一つは「カウンセリング・ウィズ・ヴァンパイア」っていうタイトルなんですが、これは小島さんに気に入ってもらえると思います。
小島 へえ。どんな小説なんですか。
万城目 『あの子とQ』にも登場する、佐久という江戸時代から四百年近く生きてる、非常にクセのあるヴァンパイアがいるんです。佐久が年に一回、心理カウンセラーのもとを訪れて自分の過去を話すというストーリーなんですが、カウンセラーの先生の視点から見た、佐久の不穏な様子を書いています。最初は悠然と構えていた先生と佐久の関係性が徐々に変化していくところなど、たぶんこれまで僕が書いた作品のなかでもっともホラー要素が強い一篇になったと思うので、ぜひ小島さんに読んでもらいたいです。
小島 ほお。それは面白そう。万城目さんは、新作を執筆されるまでにどのくらい時間をかけるんですか。二年半前の対談の前は、まだこの小説の構想はなかったということですよね。
万城目 ヴァンパイア嵐野弓子のシリーズとして続きを書きたいなと思ってはいたんですが、「あの子とO」のアイディアはまだ何も生まれていませんでした。前回の対談で、小島さんがふと口にしたタイトルが頭に残って、というよりも、対談の最中から頭の隅のほうで「あ、この話は書ける」とイメージが走り始めていた感じです。小島さんはどうですか? 「DEATH STRANDING」の制作を始めたときから、今回の「2」の構想があったんですか?

小島 小島プロダクションは多くのクリエーターを抱えているので、一つのゲームをリリースした後でも、すぐに次の制作にかからないと、彼らの仕事がなくなってしまうんです。だから常にアイディアはあって、今作も、一作目を完成させてからそんなに間を置かず動き出していたんですが、新型コロナウィルスの流行があって、一度そのアイディアを全部捨てました。コロナ禍を経験した我々にとっては、それ以前にイメージしていた世界が嘘くさく感じられてしまう部分があったんです。だから、十年前に考えていたことを貫いて一つの形にしたというのではなくて、その都度、作ったり壊したりしながら今に至ったという感じです。
万城目 なるほど。小説は一人で書けますけど、ゲームはたくさんのクリエーターの技術が結集して作られてますからね。それにしても、小島さんは次から次にアイディアが出てくるから、それを形にするクリエーターの皆さんは大変だろうなと推察します。
小島 そうかもしれません。でも、みんなで一つのものを作り上げていく過程は本当にスリリングで楽しいですよ。発売が発表されて、全世界から反応がありましたし、今もみんなソワソワしています。
万城目 小島さんのように、世界を相手にした物づくりをしている人と話すと刺激を受けます。アイディア段階の話を聞いても、言い方悪いですが、毎度「何のこっちゃ?」なんですよ。描いている絵が大きすぎて、聞いているだけでは把握ができない。それが作品が出来上がると、「こういうことを言っていたんだ」と答え合わせができて、たまらない感覚になるんです。
小島 万城目さんは、昨年直木賞も受賞されて、日本ではこれだけの人気作家ですが、翻訳とかはどうですか?
万城目 僕が書く小説はドメスティックな内容が多いからか、台湾・韓国・中国の漢字文化圏の翻訳はあるのですが、それ以外の翻訳オファーが全く来ないんですよ。欧米圏で翻訳されたものも一つもありません。アルファベットの壁が高いです。
小島 それは勿体ない。万城目さんのユーモアのセンスは世界に通じるものがあると思います。最近だと、伊藤潤二先生のホラー漫画だって、どう見てもジャパニーズホラーなのに、アニメ化をきっかけに人気が広がり、今は原作の漫画も全世界で読まれています。万城目さんの作品も、一つ翻訳が決まればあっという間に広がっていくと思います。『あの子とQ』のシリーズなんて、ヴァンパイアが主人公の学園ものじゃないですか。まずはこれのアニメ化とかどうでしょう?
万城目 小島さんからそう言ってもらえると心強いです。ぜひ、作戦会議させてください!
(まきめ・まなぶ 作家)
(こじま・ひでお ゲームクリエイター)
波 2025年6月号より
単行本刊行時掲載
著者プロフィール
万城目学
マキメ・マナブ
1976年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。2006年にボイルドエッグズ新人賞を受賞した『鴨川ホルモー』でデビュー。同作のほか、『鹿男あをによし』『プリンセス・トヨトミ』『偉大なる、しゅららぼん』が次々と映像化され、大きな話題に。2024年『八月の御所グラウンド』で第170回直木賞を受賞。その他の小説作品に『とっぴんぱらりの風太郎』『悟浄出立』『パーマネント神喜劇』『六月のぶりぶりぎっちょう』など、エッセイ作品に『万感のおもい』『新版ザ・万字固め』などがある。