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独自の透徹した文学世界を築きあげた吉田健一。その稀有な生涯と作品を語りつくした決定版評伝!

吉田健一

長谷川郁夫/著

5,500円(税込)

本の仕様

発売日:2014/09/30

読み仮名 ヨシダケンイチ
雑誌から生まれた本 新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 A5判
頁数 654ページ
ISBN 978-4-10-336391-0
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション
定価 5,500円
電子書籍 価格 4,400円
電子書籍 配信開始日 2015/03/13

ケンブリッジ留学時の知的な冒険。河上徹太郎との美しい師弟関係。中村光夫、福田恆存、大岡昇平、三島由紀夫らとの鉢ノ木会での交遊――長い文学修行を経て、批評、随筆、小説が三位一体となった無比の境地に到達、豊穣な晩年を過ごした人生の達人・吉田健一の全貌を、最晩年に編集者として謦咳に接した著者が解き明かす!

著者プロフィール

長谷川郁夫 ハセガワ・イクオ

1947年、神奈川県生まれ。大阪芸術大学文芸学科教授。早稲田大学文学部在学中に小沢書店を創立、2000年9月までに数多くの文芸書の編集に携わった。2006年刊の『美酒と革嚢――第一書房・長谷川巳之吉』で芸術選奨文部科学大臣賞、やまなし文学賞などを受賞。2014年刊の『吉田健一』で大佛次郎賞を受賞。他の著書に『われ発見せり――書肆ユリイカ・伊達得夫』、『藝文往来』、『本の背表紙』、『堀口大學 詩は一生の長い道』、『知命と成熟 13のレクイエム』がある。

書評

マレビトの余生

青山真治

「余生」ということを考え始めた直接のきっかけは大瀧詠一さんのラジオ番組で、大瀧さんは一九八四年の『EACH TIME』というアルバムを最後に二枚のシングルを除いてオリジナル作品を発表することなく三十年の長きに亘る「余生」を送って昨年末この世を去った。享年六十五歳、といえば吉田健一である。この数字にとりつかれたのも吉田がきっかけであり大瀧さんの亡くなった直後に愕然とした理由の一つがこれだった。大瀧さんが吉田と同様「マレビト」であったことは間違いなく、その「余生」においてポピュラー音楽についての貴重かつ膨大な研究をラジオ番組として残したのだった。
 先輩の黒沢清が「老後の楽しみ」という言葉を使ったのはアメリカのロバート・アルドリッチの代表作『ロンゲスト・ヤード』を評するためでこれは河上徹太郎的な用語ということになるが、実はアルドリッチも六十五で亡くなった。今年五十歳になった存在にとって数えるまでもなくあと十五年で達する年齢までの歳月を「余生」と決めたこの一年間の数少ない楽しみが「新潮」に断続掲載された『吉田健一』だったことはいかなる偶然か。おまけに連載開始の頃にはアルドリッチの時ならぬ特集がこの国で組まれてもいる。
 もちろん「余生」が必ずしも「楽しみ」づくしだということなどまずないだろうことを吉田のことを考えずとも自認しているつもりの子供の頃から年表好きのこの書き手は文庫の付録であるそれを繰り返し繙き吉田の「余生」が五十七からの八年間だったことを何度も確認してきた。決して吉田のよき読者などと自慢しようもないこの愚鈍な輩はしかしこの年表と著書目録にだけは何度も目を通していて、同時によく記憶している平成二年から始まる新しい吉田発見の文庫連続出版のその発見の旅を平成四年の中上健次の逝去により一時的に中断を余儀なくされた個人的事情を持っている。さらに「余生」を持つことのなかった中上の没年齢四十六に自分が近づくにつれて再び本格的に吉田に吸い寄せられていった事情もある。その頃考え始めたのが六十五歳の死ということだった。
 平生なら一面識もない方をさん付けで呼ぶことを憚るのが常だが吉田愛に満ちた労作『吉田健一』の筆者への心からの親愛の情を持ってあえて試みると、長谷川さんは吉田と中上の関係に触れてはいないけれど少なくとも寺田博という名編集者が二者を結んでいることは誰の目にも明らかで、中上が「マレビト」であったかどうかは定かではないがしばしば中上は貴種流離譚の書き手と評されたから「余生」とは無縁のこの小説家もその点で吉田的なるものと繋がりはすると考えるのはごく個人的な雑感の部類だろうか。
 六十五歳の死といっても酒も煙草もやらなかった大瀧さんのそれと両切りピースをくゆらせる酒豪の吉田のそれとが百八十度違っていると言うこともできるし同時に変わるところはないと言うこともできるだろうからその点は自らの「余生」にとって何の参考にもならないと考えていい。長谷川さんもそれを重要視することはなくただ吉田的「時間」に忠実な出来事としてだけ叙述なさった。その認識が吉田の葬儀に立ち会った二十九歳の暗澹たる記憶から現在に至るまでの長谷川さんの「時間」そのものであることをごく陽気に祝福しながら噛みしめることのできるのがこの評伝であると言ってもいい。何しろ吉田しかり大瀧さんしかり「マレビト」はいたって陽気な存在なのだと誰もが知っている。この陽気さがなぜか人を救うがゆえにかれらは「マレビト」と呼ばれるのかもしれない。そして「マレビト」が「何かの束縛を解かれたのが余生であつて、」「余生があつてそこに文学の境地が開け、人間にいつから文学の仕事が出来るかはその余生がいつから始るかに掛つてゐる」としたらもしかするとこれからの十五年も案外棄てたものでもないかもしれないと凡人も陽気に夢想できるのだ。

(あおやま・しんじ 映画監督、作家)
波 2014年10月号より

目次

第一章 水の都
第二章 メリ・イングランド
第三章 二都往還
第四章 「文學界」出張校正室
第五章 戦争まで
第六章 東京大空襲
第七章 海軍二等主計兵
第八章 宰相の御曹子
第九章 「鉢ノ木会」異聞
第十章 早春の旅
第十一章 酒中に真あり
第十二章 「君子」の三楽
第十三章 返景深林ニ入リテ
第十四章 生きる喜び
第十五章 正午(まひる)の饗宴
第十六章 われとともに老いよ
あとがき
人名索引

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