挫折を経て、猫は丸くなった。―書き出し小説名作集―
1,210円(税込)
発売日:2016/06/30
- 書籍
- 電子書籍あり
一瞬で読めて、無限に広がる416の物語。
「彼女の頬を、マウスカーソルで撫でた」「白ブリーフの落とし主は永遠に見つからない」「ヒーローたちの利害は複雑に絡み合っていた」「担任に好かれている吉田と、ただの吉田がいた」――提示されるのは冒頭だけ。続きは読み手のイマジネーション次第の自由な文学、「書き出し小説」。416本の異なるストーリーがあなたを魅了する!
目次
はじめに
自由部門
規定部門
解説そしておわりに
【巻末付録】書き出し座談会
自由部門
規定部門
解説そしておわりに
【巻末付録】書き出し座談会
書誌情報
読み仮名 | ザセツヲヘテネコハマルクナッタカキダシショウセツメイサクシュウ |
---|---|
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 192ページ |
ISBN | 978-4-10-336932-5 |
C-CODE | 0095 |
ジャンル | エッセー・随筆 |
定価 | 1,210円 |
電子書籍 価格 | 968円 |
電子書籍 配信開始日 | 2016/12/09 |
書評
ずっとしがんでいられる面白さ
文学的な目線でも楽しめるし、単純にあるあるでも楽しめるのが「書き出し小説」。ここでは僕のお気に入りを紹介します。
〈カナブンが一直線に飛んできた。私のファーストキスだった。〉
主人公がどんな人間なのかを考えてワクワクします。「それが最初で最後のキスだった」と2文目に続くとしたら、ひょっとしたらとんでもなくブスな女の子の話かもしれない。なんとなく名前に濁点入ってそうだとか、いち文をずーっとしがんでられる。なんなら脳トレにもいいと思うんですよね。脳みそがグッグッグッと運動している感じになります。
〈「これの色違いありますか」八百屋に妙な客が来た。
この文字数でフリとオチが全部詰まっているのがすごい。かわいいお話っていう可能性もありますね。子供がピーマンを持ってきたから、「ああ、パプリカ買いたいのね」っていう。はじめてのおつかいですね。
〈ぬ、みたいなイヤホンをもたもたほどいて、この場が過ぎるのを待つ。〉
こういうイヤホン、あるある。ひらがなで一番面白いの、「ぬ」な気がするんだよなぁ。素晴らしいなぁ。言語感覚の素晴らしさに触れられるのもうれしいですね。
〈大盛り券を貰って喜んでいた。それを所持しているだけでは何も食べられないのに。〉
小学校3年生のときに、木下大サーカスが学校の前で券を配ってたんですよ。見られるんだ!と思って券を握りしめて見に行ったら、1800円が1500円になるとかのただの優待券だった。優待券というシステムを知らなかったんです。チケットを買うお金もないから、サーカステントの前でぼーっと立ってた。切ないなぁ、思い出しますね。そんな個人的な記憶も呼び起こされます。
規定部門(予め決まったテーマに即した「書き出し小説」)だと【歴史人物(海外編)】は面白かったですね。
〈「またとびきり悲しいやつ、頼みますよ」と声をかけられ、シェークスピアはほとほと嫌気が差した。〉
僕なんかもよく「またじゃあ、嫌いなやつ言ってくださいよ、炎上させちゃってくださいよ」って言われるから共感しちゃいますね。
〈ファーブルにも少なめに虫除けスプレーをかけた。〉
ファーブル、頑なに断ったんだろうね。「オレ一応虫好きだから、虫が好きで売ってるし」って。とはいえね、周りが気付かれないようにすっとかけたんでしょうね。弟子の苦悩みたいなものも感じさせられますね。
あとは【童貞】、これは本当全部面白かったな。
〈不可能な作戦ばかり思いつく。〉
思いついてたもんなぁ。「ぶつかって入っちゃった」っていう、なぜか両者ともに下半身裸っていう勝手な作戦を考えてましたね。あとは、めちゃくちゃ男前の友達に意中の女の子をこっぴどく振ってもらって、そのあと僕がなぐさめて……とか。でも気付いたんですけど、そもそもそんな信頼関係を築いている友人がいなかったんですよ。
僕の「書き出し小説」の遊び方のひとつは、その日その日、テーマを決めて本を開くんです。たとえばサスペンスだとすると、これが殺人の動機だったら、とか。今日はSF、今日は純愛……って。最後にヒロインと素敵なキスをすると考えて、これが入り口としてどんなストーリーになるかを10行以内で考える。一番難しい0から1を生むところを、投稿者の方がやってくれてるんで、気持ちいいですよね。人の手柄で自分もちょっとした小説家気分になれて、ずーっと遊んでいられる。自分の気持ち次第で毎回好きなタイミングで新刊を出せるような感じを味わえます!
〈カナブンが一直線に飛んできた。私のファーストキスだった。〉
主人公がどんな人間なのかを考えてワクワクします。「それが最初で最後のキスだった」と2文目に続くとしたら、ひょっとしたらとんでもなくブスな女の子の話かもしれない。なんとなく名前に濁点入ってそうだとか、いち文をずーっとしがんでられる。なんなら脳トレにもいいと思うんですよね。脳みそがグッグッグッと運動している感じになります。
〈「これの色違いありますか」八百屋に妙な客が来た。
この文字数でフリとオチが全部詰まっているのがすごい。かわいいお話っていう可能性もありますね。子供がピーマンを持ってきたから、「ああ、パプリカ買いたいのね」っていう。はじめてのおつかいですね。
〈ぬ、みたいなイヤホンをもたもたほどいて、この場が過ぎるのを待つ。〉
こういうイヤホン、あるある。ひらがなで一番面白いの、「ぬ」な気がするんだよなぁ。素晴らしいなぁ。言語感覚の素晴らしさに触れられるのもうれしいですね。
〈大盛り券を貰って喜んでいた。それを所持しているだけでは何も食べられないのに。〉
小学校3年生のときに、木下大サーカスが学校の前で券を配ってたんですよ。見られるんだ!と思って券を握りしめて見に行ったら、1800円が1500円になるとかのただの優待券だった。優待券というシステムを知らなかったんです。チケットを買うお金もないから、サーカステントの前でぼーっと立ってた。切ないなぁ、思い出しますね。そんな個人的な記憶も呼び起こされます。
規定部門(予め決まったテーマに即した「書き出し小説」)だと【歴史人物(海外編)】は面白かったですね。
〈「またとびきり悲しいやつ、頼みますよ」と声をかけられ、シェークスピアはほとほと嫌気が差した。〉
僕なんかもよく「またじゃあ、嫌いなやつ言ってくださいよ、炎上させちゃってくださいよ」って言われるから共感しちゃいますね。
〈ファーブルにも少なめに虫除けスプレーをかけた。〉
ファーブル、頑なに断ったんだろうね。「オレ一応虫好きだから、虫が好きで売ってるし」って。とはいえね、周りが気付かれないようにすっとかけたんでしょうね。弟子の苦悩みたいなものも感じさせられますね。
あとは【童貞】、これは本当全部面白かったな。
〈不可能な作戦ばかり思いつく。〉
思いついてたもんなぁ。「ぶつかって入っちゃった」っていう、なぜか両者ともに下半身裸っていう勝手な作戦を考えてましたね。あとは、めちゃくちゃ男前の友達に意中の女の子をこっぴどく振ってもらって、そのあと僕がなぐさめて……とか。でも気付いたんですけど、そもそもそんな信頼関係を築いている友人がいなかったんですよ。
僕の「書き出し小説」の遊び方のひとつは、その日その日、テーマを決めて本を開くんです。たとえばサスペンスだとすると、これが殺人の動機だったら、とか。今日はSF、今日は純愛……って。最後にヒロインと素敵なキスをすると考えて、これが入り口としてどんなストーリーになるかを10行以内で考える。一番難しい0から1を生むところを、投稿者の方がやってくれてるんで、気持ちいいですよね。人の手柄で自分もちょっとした小説家気分になれて、ずーっと遊んでいられる。自分の気持ち次第で毎回好きなタイミングで新刊を出せるような感じを味わえます!
(やまさと・りょうた 芸人)
波 2016年7月号より
イベント/書店情報
著者プロフィール
天久聖一
アマヒサ・マサカズ
1968年、香川県生まれ。1989年、漫画家としてデビュー。以来、主にマンガ以外の分野で活躍中。主な著書に『味写入門』(アスペクト)、『バカドリル』シリーズ(ポプラ社)、『こどもの発想。』(アスペクト)、『味写道』(アスペクト)、『書き出し小説』(新潮社)などがある。
関連書籍
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