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ADHDの正体―その診断は正しいのか―

岡田尊司/著

1,485円(税込)

発売日:2020/04/15

  • 書籍
  • 電子書籍あり

その症状、ADHDではありません。「誤診」乱発はなぜ起こる?

大人のADHDの9割は「誤診」。子どものケースにも見分けのつきにくい「別物」が多数紛れ込んでいる。安易な診断と投薬は、むしろ症状を悪化させかねない。セカンドオピニオンを求め来院する人たちを診察し続ける精神科医の著者が、診療実績と世界各国の研究報告を踏まえ、最先端の実情から対策と予防法まで徹底解説。

目次
はじめに
第一章 緩められる診断基準
 一九九〇年代半ばまで、ADHDは主に子どもの障害だと考えられていた。やがて、子どもの頃に見逃されていたケースが大人になって発見されることも少なくないと考えられるようになり、診断基準は次々と緩められていく。その結果、今や世界各地で世代や性別を問わず、ADHDと診断される人が爆発的に増えている。だが、セカンドオピニオンを求めて著者のクリニックを訪れる人の中には、誤診が疑われるケースも少なくない。
第二章 「大人のADHD」は発達障害ではない?
「大人のADHD」という診断と薬物療法に正当性を与える根拠は、それが児童期から連続しているということだった。そんな大前提に真っ向から疑義を突きつけるような研究結果が相次いで発表される。世界各地で続けられていた、大規模な長期追跡調査だ。それらのエビデンスが強力に指し示すのは、大人のADHDの多くが子どものそれとは別物であり、発達障害とは異なる問題によって起きているという可能性だった。
第三章 矛盾だらけの「ADHD」
 ADHDと定義される症候群の実体は非常に多様なものの「寄せ集め」で、ひとつだけで診断の決め手となる特徴は見つかっていない。しかし、学会が定める最新の診断基準も具体的な検査を義務付けていない。ゆえに、実際の診断の根拠になるのは、本人あるいは保護者や教師から得た情報に基づいた症状や経過だ。実際に検査してみると、ADHDと診断された人の三分の一は平均よりも高い能力を発揮する。
第四章 症状診断の危うさ
 本来のADHDと紛らわしい状態にはたくさんの種類がある。そして、それら「擬似ADHD」は、しばしば本来のADHDよりも深刻な問題を抱えている。両者を見分けるうえで重要なのは、不注意や多動の傾向があるかどうかではなく、程度だ。また、一口に不注意といっても、注意の維持が困難なのか、それとも雑多な情報の中から肝心のものに注意を向けることができないのか、あるいは注意を切り替えるのが苦手なのかによって、原因と治療法は異なる。
第五章 薬漬け治療の実態
 アメリカでは四歳から十七歳の子どもの六%が、イスラエルでは八・五%の児童がADHDの薬を服用しているとされる。その背景には、医師や研究者、教師やスクールカウンセラーを巧みに巻き込む製薬会社の営業戦略があった。そして日本でも、治療薬の情報が出回るにつれ、小中学生が自ら薬を求めて来院するようになっている。だが、肝心の効果は不確かであり、成長や生殖機能などへの副作用や依存・乱用が懸念されているのが実情だ。
第六章 覆った定説
 先天的な要因が強いとされる発達障害の中でも、自閉症はほぼ一〇〇%遺伝要因で決まる、生まれ持っての障害だと考えられていた。その認識に大きな衝撃を与えたのは、孤児と養子を長期間にわたり追跡したイギリスとルーマニアの研究である。長期にわたり特定の養育者がいなかった子どもは、遺伝要因がなくとも、自閉症そっくりの「擬似自閉症」の症状を示すようになったと報告されたのだ。この追跡調査には、さらに続きがある。先に調査対象とした孤児と養子のその後を調べたところ、ADHDや擬似ADHDを発症していたのだ。
第七章 見えてきた発症メカニズム
 本来のADHDにしろ、擬似ADHDにしろ、その発症や悪化への環境要因の関与を無視することはできない。リスク遺伝子があっても、養育環境に恵まれれば発症・悪化しない場合もあるし、リスク遺伝子が見当たらない場合でも、養育環境がADHDの診断基準に該当する症状を生み出してしまうこともある。最新の研究成果を踏まえ、遺伝と環境が絡み合うメカニズムを解き明かす。
第八章 苦しみの真の原因は
 いま、精神医療の世界では“主役”が交代しつつある。患者数や回復の困難さにおいて治療の中心を占めていた統合失調症を代表とする精神病に代わり、これまで脇役的な存在だった比較的軽症のうつや不安障害が急増するとともに、心身症などのストレス性疾患、発達障害など病気との境界線上にあるような障害が対処や治療の難しい問題として多くの人を悩ませるようになっているのだ。それらの根底でいったい何が起きているのか。
第九章 回復と予防のために
 診断の質と中身を正確に知るためのポイント、検査の種類、紛らわしい状態の見分け方、薬物以外の治療法――診断と治療について注意点を解説する。当事者はもちろん、保護者や教師、医師の活用も念頭に、予防策についても具体的に記す。
おわりに
主な参考文献

書誌情報

読み仮名 エーディーエイチディーノショウタイソノシンダンハタダシイノカ
装幀 新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-339382-5
C-CODE 0095
ジャンル 心理学、家庭医学・健康
定価 1,485円
電子書籍 価格 1,485円
電子書籍 配信開始日 2020/04/24

書評

その症状、本当に「大人のADHD」ですか

finalvent

 数年前から、著名人が「自分は発達障害だった」とカミングアウトするようになった。インターネット上でも自己紹介の一環のように、自身を発達障害だと語る人が目につく。実際、精神科でそのように診断される人は増えている。発達障害は子ども特有のもの、というのは昔の話だ。大人になってからの診断で、ようやくわかったという感じである。そうした大人の発達障害には、注意欠如や落ち着きのなさが特徴のADHDや、コミュニケーションが取りづらくなりがちなASD(アスペルガー症候群とも言われていた)がある。その両方を備えていることもある。
 こうした世相と呼応するように、本書の第一章に興味深い症例が出てくる。64歳の男性Uさん。子どもの頃の成績は優秀だったが友だちはほとんどいなかった。テレビ業界に入ってからは目覚ましい成果も上げていたものの、ずっと生きづらさを抱え、50代で精神科を受診し、抗うつ剤を飲む日々となった。60歳で退職し無気力な日々を過ごしていたが、大人の発達障害を扱ったテレビ番組を見て、自分はこれではないかと思い至った。診断を受けたところ大人の発達障害とわかり、SSRI(抗うつ剤)に加え、コンサータが処方された。しかし、症状が改善した実感はない。
 この症例は本書の問題提起を象徴的に示している。そもそも「大人の発達障害」や「大人のADHD」とは何か。近年そういう診断を受ける人が増えている背景には、どういう事情があるのか。診断・投薬を受けても、なぜ症状が改善されないのか。そのコンサータっていうお薬は何?
 本書はこうした「大人の発達障害」、特に「大人のADHD」が近年増えてきた実態について、最先端の研究成果を含む医学資料の読み直しと臨床経験を基に、その仕組みや背景を、正直、ここまでするかというほどに根気よく追究している。
 そもそも「大人のADHD」と診断されている実態は何か。著者が打ち出す仮説は世界の常識を一変させてしまう。「大人のADHD」は、本来子どもが診断対象であった発達障害の延長で起きる症例ではなく、別の原因による症状かもしれない、というのだ。著者はこれを仮に「疑似ADHD」として考察を深化させる。
 なるほどと私は思う。先の64歳のUさんの生きづらさや診断への希求は、まさに63歳の私に重なるからだ。現状、「大人のADHD」と診断されている事例には、著者の言う「疑似ADHD」が多く含まれているのではないか。その疑念と追究は、私のような読者には衝撃的ですらあった。
「大人のADHD」という診断と投薬によって、現在の症状が改善されるなら、それでいい。それなら診断と投薬はその人を支えている。しかし、「生きづらさ」を抱えつつも、コンサータなどの投薬が効かないし、症例が改善されていないという問題を抱えている人には、本書の提言は重要な意味を持つだろう。
 誤解なきように付記すれば、本書は発達障害の診断のもとになる精神疾患の国際的な基準「DSM-5」を否定するものではない。現状ADHDと診断されている実態には次の4種類があるのではないかと考察しているのである。
(1)発達障害による本来のADHD
(2)本来のADHDが環境要因で悪化している
(3)愛着障害など養育要因から疑似ADHDとなっている
(4)養育要因以外の理由で疑似ADHDとなっている
 こうした精密な考察から見えてくるのは、生きづらさを実感している人それぞれの経験や環境要因を精査する必要性であろう。「あなたは大人のADHDです。このお薬で改善されます」といった明快な答えが得られないとしても、投薬の再検討により副作用を減らすこともできるし、真の問題改善の端緒が得られるかもしれない。
 また本書はこうした「大人のADHD」の問題に加え、発達障害と診断された子どもにかかわる大人のあり方についても十分な提言を行っている。発達障害の子どもを抱える親や教師にも、多くの示唆が得られるだろう。
 例えば、発達障害の子どもの学童期には、押さえつけ型の教育をしても反発だけが大きくなる。問題点に目を向けるより、まず理解者となり、精神的な安全基地となることが大切である。また、親として否定的な態度にとらわれているときには、自分自身の親との関係を見直すことで事態を客観的に扱えるようになる。
 発達障害や生きづらさに安易な答えはない。著者は「地道な内省とかかわりの先にこそ、根治への道は続いている」という。本書は強い励ましになるだろう。

(ファイナルベント ブロガー)
波 2020年5月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

岡田尊司

オカダ・タカシ

岡田クリニック院長。精神科医。1960年香川県に生まれる。東京大学文学部哲学科に学ぶも、象牙の塔にこもることに疑問を抱き、医学を志す。京都大学医学部で学んだ後、同大学院精神医学教室などで研究に従事しながら、京都医療少年院、京都府立洛南病院などに勤務。2013年に岡田クリニック(大阪府枚方市)を開院したのは、生きづらさを感じながら日々を過ごしている人が気軽に相談できる身近な「安全基地」になりたいとの思いからだった。『脳内汚染』(文藝春秋)、『愛着障害』(光文社新書)、『人間アレルギー』(新潮社)など多くの著作を通じても、人々の悩みや不安に向き合っている。

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