ホーム > 書籍詳細:欺す衆生

人はなぜ、欺き続けなければ生きていけないのか。欲望の深淵を暴く、犯罪巨編!

  • 受賞第10回 山田風太郎賞

欺す衆生

月村了衛/著

2,090円(税込)

本の仕様

発売日:2019/08/27

読み仮名 ダマスシュジョウ
装幀 Getty Images/カバー写真、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 週刊新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 508ページ
ISBN 978-4-10-339532-4
C-CODE 0093
ジャンル 文学・評論
定価 2,090円
電子書籍 価格 2,090円
電子書籍 配信開始日 2019/11/08

戦後最大かつ現代の詐欺のルーツとされる横田商事事件。その残党たる隠岐は、かつての同僚の因幡に導かれるがまま〈ビジネス〉を再興。次第に詐欺の魅力に取り憑かれていくが――。欺す者と欺される者、謀略と暴力の坩堝の果てに待ち受ける運命とは。透徹した眼差しで現代の日本を、そして人間の業と欲を徹底的に描破する。

著者プロフィール

月村了衛 ツキムラ・リョウエ

1963年生まれ。早稲田大学第一文学部文芸学科卒。2010年に『機龍警察』で小説家デビュー。2012年に『機龍警察 自爆条項』で第33回日本SF大賞、2013年に『機龍警察 暗黒市場』で第34回吉川英治文学新人賞、2015年に『コルトM1851残月』で第17回大藪春彦賞、『土漠の花』で第68回日本推理作家協会賞を受賞。近作に『東京輪舞』、『悪の五輪』などがある。

公式サイト「月村了衛の月録」 (外部リンク)

書評

なぜ人は欺すのか、作者の答に震撼せよ

豊崎由美

 うちのマンションの掲示板にも貼られている、振り込め詐欺をはじめとする特殊詐欺への注意喚起のポスター。眺めながら、首をひねる。「どうして欺すんだろう」。金品などの利益を得るためであるのは自明なのだけれど、捕まるかもしれないというリスク、捕まらないためのシステム構築を考える手間や資金などを考えると、怠惰で頭の良くないわたしは働いたほうがいいやと思ってしまう。だから、きっと利益以外の何かが、そこにはある。
 月村了衛の『欺す衆生』は、昭和末期から平成の終わりへと至る一人の男の半生を追うことで、「なぜ、人は欺すのか」という問いに答えようとしている長篇小説だ。
 オープニングは、豊田商事の会長がマスコミの前で殺害された事件を彷彿させる場面。悪辣な詐欺商法を働いていると知りながら、三十万円の固定給と一〇パーセントの歩合に惹かれて入社した横田商事の新人セールスマン・隠岐隆は、二人の男にめった刺しにされた会長の死に顔を見てショックを受ける。しかし、〈善人を装って。親切心を装って。自分は人を欺しているのだと、常に怯えを抱きながら〉働く理由が、彼にはあった。妻の伯父に欺されて背負うことになった借金。過酷な取り立てによって、大学卒業後に入った会社も退職せざるを得なくなった隠岐は、妻子のためにも欺す側に回るしかなかったのだ。
 その後、元横田商事という経歴を隠して、ようやく得た零細文具メーカーの営業職。くすぶる日々を過ごす隠岐の前に、一人の男が現れる。横田商事の総務にいた因幡充。自分と手を組まなければ今の会社に前歴をバラす、この先どんな会社に就職しようが真実を触れて回るという脅しに屈した隠岐は、因幡とともに茨城の二束三文以下の土地を売りさばく原野商法に手を染めることになる。
 それが大成功を収めると、隠岐は詐欺で得た収入を家族に隠すために投資顧問会社を立ち上げ、中堅の証券会社を定年退職した小路を役員として招く。一方、次のビジネスとして和牛商法に目をつけた因幡は、元横田商事で重要な地位にいた肥崎と鎌井を仲間に引き入れる。肥崎と鎌井はかつて横田でやっていたような、年寄りや非資産家を食いものにするビジネスを再開しようと因幡に提案。隠岐は必死で別案を考え、何とかそれを阻止することに成功する。
〈存在しない牛を売る商売で、さらに存在しない餌を売り、未来において生まれない子牛を売る。/人を欺すという意味においては、自分も肥崎や鎌井となんら変わるところはない。/しかし高齢者を狙ったり、生命保険や年金を担保に貸し付けるような悪辣さとは違うと信じたい〉
 れっきとした詐欺に加担している自分を欺し欺し、なけなしの良心を守ろうと踏ん張る隠岐。収益が上がっていくにつれ、和牛がうまくいっている今なら、もしかしたら因幡も自分の離脱を許してくれるかもしれないという淡い期待を抱いた矢先、しかし、経営する投資顧問会社で大事件が発生。小路が持ち逃げをしたのだ。もちろん警察に訴え出るわけにはいかない。小路の開けた穴を補填するため因幡に借金をした隠岐は、〈《人を欺す仕事》から足を洗うどころではない。/これで、今まで以上に血まなこになって人を欺し続けねばならなくなっ〉てしまう。そこにさらなる厄災が訪れる。日本最大の暴力団のフロント企業・神泉興産を束ねる蒲生。因幡と隠岐は、ついにヤクザとも手を組むことになり――。
 家族のため。その一心で詐欺という犯罪に手を染め続けてきた隠岐だったのに、仕事にかまけるあまり、いつしか家庭は冷たい場所になってしまう。詐欺が詐欺を呼び、悪人が悪人を招き、欺し続けていた自分に罠を仕掛ける輩が現れ、その危害は娘に及んでいく。物語の後半は、詐欺見本市といっていいコンゲームの連続で、息継ぐ間もないほどスリリングだ。能力が上がれば上がるほど、良心を摩耗させていく隠岐の変貌ぶりもまた。
 最初の問いに戻る。なぜ、人は欺すのか。作者はそれに、はっきりとした答を用意している。読めば、わかる。その上で、人を欺し、自分を欺し続けた人間の前に広がる殺伐とした荒野を見せる。その荒野を進まなくてはならない者のすさんでいく精神の行く末を見せる。この物語を読んで震撼しない者はいない。すでに自分が欺す側に立っていると自覚する者なら、なおさらに。

(とよざき・ゆみ 書評家)
波 2019年9月号より
単行本刊行時掲載

インタビュー/対談/エッセイ

昭和の闇と、令和の悲惨

月村了衛

 本作『欺す衆生』は、「週刊新潮」に連載された作品だが、同誌の恒例として連載開始の一週前の号に「作者の言葉」が掲載される。執筆前の心境を振り返るためにも、内容紹介を兼ねてまずそれを引用してみたい。
「豊田商事の永野会長刺殺事件が起こったのは一九八五年だから、私はすでに成人している。もっと前だったような気がしていたのは、私がまだまだ子供だったせいもあろうが、感覚的に他の大事件の数々と同様に捉えていたのが大きいと思う。それほどまでに豊田商事は昭和という時代、しかもその末期を象徴する怪事件であった。しかしながら本作は、豊田商事そのものを描くわけではない。そんな事件と運命的に関わってしまった主人公を通して、他者を欺かねば生きていけない人間というものの本質を追求できればと思っている。題名の『欺す衆生』はもちろんそうした意図を表したものである。編集者の方々との真摯な討議の末に決定した。いくつもの候補がある中で、私一人ではこの題名を選びきれなかったであろう。結果的に最も相応しい題名になったと思う。後は私の筆がどこまでこの主題に迫れるかである。主人公の人生と業とを最後まで見届けて頂ければ幸いです」
 果たしてその意図が達成されたかどうか。今は読者の判断を待つのみだが、こうして振り返ってみると、本作の執筆は自分にとって新たな発見に満ちたものだったと言える。
 まるでつい昨日のような気がするが、週刊新潮の編集長に御挨拶したとき、「映画『凶悪』で山田孝之が演っていた主人公のモデルになった人」と紹介され、本当に驚いた。
 何を隠そう、私は新潮社が刊行している一連の犯罪ノンフィクションの愛読者で、映画の原作となった『凶悪―ある死刑囚の告発―』ももちろん読んでいたし、映画も観ている。まさかその御本人にお目にかかれようとは思ってもいなかった。もっとも、映画では常に悲壮な面持ちだった山田孝之とは違い、編集長は実に温厚な紳士であったが。
 また『殺人者はそこにいる―逃げ切れない狂気、非情の13事件―』に始まる新潮文庫オリジナルの犯罪実話集は、私にとって特に印象深いシリーズで、極私的に奇妙な因縁(それについては紙幅の都合でここでは書かない)もあって、今も続刊を心待ちにしている。
 閑話休題。近年私は、作家として第二期とも言うべき時期に入ったと感じている。もう少し詳しく言うと、現代史と日本人との関わりを創作活動の主たる題材とするようになったことだ。そして書けば書くほど、自分が恐ろしい闇に嵌まっていくような手応えを感じている。
 それは、昭和という時代の中で生きてきた人間を描いていると、必ずと言っていいほど平成、そして令和の闇につながっていくからだ。
 過去を描くことによって、先行きの見えない日本の現状と未来とを照射することができる――その発見は小説家として大いなる歓喜であると同時に、また底知れぬ恐怖でもあった。
 昭和に渦巻く暗黒は、令和の悲惨に直結している。そのことを私は確信する。
 日本人はあまりに多くのことから目を背け、蔑ろにし、先送りにして顧みなかった。その結果として現在がある。そうした因果関係を構成する数多くの縦糸が、おぼろげながらに見えるようになってきた。
 我々は今こそ、その黒い糸を直視すべきであると考える。
 だが一小説家でしかない私にとって、それは挑むことさえ困難な、身の丈を超える巨大なテーマであるのもまた事実である。
 だからと言って、私が執筆を止めることはない。小説家には小説家の戦い方がある。
 それぞれの時代を生きる人間の姿を描くことによって、普遍的な、そして純白ではあり得ない社会というものの実相を、多少なりとも提示できるのではないか。
『欺す衆生』を書き終えた今、そんなふうに私は想う。

(つきむら・りょうえ 作家)
波 2019年9月号より
単行本刊行時掲載

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