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火竜の山―南アルプス山岳救助隊K-9―

樋口明雄/著

1,760円(税込)

発売日:2016/10/21

書誌情報

読み仮名 カリュウノヤマミナミアルプスサンガクキュウジョタイケーナイン
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 351ページ
ISBN 978-4-10-350411-5
C-CODE 0093
ジャンル ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
定価 1,760円

これは、ただの“災害現場”ではない!
アドレナリン全開の極上エンタテインメント。

高速道路が開通して人気の新羅山。新設された山岳救助隊のため講演に訪れた南アルプス警察署の夏実と静奈、登山サイトの同行者募集に応じた沙耶、そして一人さまよう傷だらけの少年……山に噴火の兆しが現れた時、人間たちの絆が試される。パニック・アクション×クライム・サスペンス=一気読み必至の山岳ミステリ!

目次
序章
第一部
第二部
第三部
終章

書評

命がけで任務を全うする二人のヒロイン

西上心太

 百名山などを対象にしたそこそこハードな登山のナビゲーション番組や、山歩きがテーマの趣味講座がNHKで放映されるなど、登山ブームはいまも続いているようだ。山に魅せられた作家も少なくないようで、取材も兼ねての山行につき合わされ、急峻な岩場を前に、涙目になりながらよじ登る編集者もいるらしい。登りは辛くても頂上に立った時の気分は格別だろうが、こればかりは自らの足でたどりついた者でないと味わえない。
 しかし世には優れた冒険小説が数多くあるではないか。ひとたびそれらのページをめくれば、雪が吹きすさぶ高山であろうが、熱波に覆われた砂漠であろうが、いながらにして過酷な地へと誘ってくれる。われら本読みの役目は、過去の名作について言及するだけでなく、新たに生みだされる傑作への目配りをおろそかにしないことである。だがこと山岳冒険小説のジャンルにおいては、樋口明雄の作品を選んでおけば間違いはないのである。
 本書『火竜の山―南アルプス山岳救助隊K-9―』は、作者の看板となった、南アルプス山岳救助隊(K-9)シリーズの第四弾である。この救助隊の特徴は、隊の中に三頭の山岳救助犬とペアーを組むハンドラーと呼ばれる隊員がいることだ。犬の優れた嗅覚と広範な活動範囲を武器に、遭難者たちの捜索に当たるのだ。とはいえ、今回舞台となるのは彼らのホームである南アルプスの主峰北岳きただけではなく、独立峰の新羅山しんらさんを有する岐阜県狩場かりば市である(自治体と山は架空の設定)。狩場市は奥飛騨の別荘地といわれる街だ。高速道路の延伸により都会からのアクセスが改善された結果、独立峰で登りやすい新羅山はにわかに登山客の人気を集め始めたのだ。
 K-9のハンドラー星野夏実と神崎静奈は、それぞれの《相棒》であるボーダーコリーのメイとジャーマン・シェパードのバロンとともに狩場市へ赴いた。同地の警察署で、山岳救助の講演とデモンストレーションを行なうためだ。その途中の高速道路で、法規違反を犯して二人の車を追い抜いていったワゴンに遭遇した。運転席と助手席には若いカップルの姿があったが、後部座席に東京で誘拐された少年が乗せられていたことを二人は知るよしもなかった。
 一方、火山地質学者の榎田は、大学で活火山である新羅山の観測を続けていたが、観測データから近々に噴火の可能性が高いことを読み取り、自治体に注意を促した。だが折悪しく、榎田の一人娘である沙耶はネットで知り合ったメンバーとともに新羅山に向かっていた。
 監禁されていた別荘から逃亡し、新羅山に逃げ込んだ少年、彼を追う誘拐犯カップル、下山の勧めに従わず頂上を目指す沙耶のパーティ、さらに韓国人の殺し屋も新羅山の麓にやってくる。そして、山岳救助隊の二人と二頭は、遭難者を救うため火竜が暴れ出しはじめた山に足を踏み入れる。
 多数の犠牲者が出た御嶽山おんたけさんの突然の噴火は記憶に新しい。自治体にすれば登山は貴重な観光資源であるため、確実な短期予測がほぼ不可能な噴火に対する入山規制は、よほどのことがない限り実施しにくい現実がある。また登山者の増加に従い、モラルや常識を知らない無謀な登山家も増えている。本書にも登山パーティの意義を理解していない、名ばかりのリーダーが登場する。このような問題提起をさりげなくプロットに取り入れているのも、作者が山をこよなく愛しているからこそだろう。噴火という非常時に加え、モラルなき登山者と、登山目的ではない者も加わり、夏実たちの救助活動は困難さを増していく。
 それぞれの思惑や目的、あるいは使命を持った者たちが新羅山という《火竜の山》に集まる。そして迫り来るカタストロフを前に、二人のヒロインが《相棒》とともに死力を奮って任務を全うする。夏実と静奈、そしてメイとバロン。死の恐怖に晒されながら、互いを信じ互いを助けあう二人と二頭の活躍に、胸を打たれない者はいないだろう。
 樋口明雄の山岳冒険小説に間違いはない。本書はその言葉をあらためて実証する作品なのである。

(にしがみ・しんた 文芸評論家)
波 2016年11月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

樋口明雄

ヒグチ・アキオ

1960(昭和35)年山口県生れ。雑誌記者、フリーライターを経て作家デビュー。2008年刊行の『約束の地』で日本冒険小説協会大賞と大藪春彦賞をダブル受賞、2013年『ミッドナイト・ラン!』で第2回エキナカ書店大賞を受賞した。主な著書に『狼は瞑(ねむ)らない』『光の山脈』『武装酒場』『ダークリバー』など。「南アルプス山岳救助隊 K-9」シリーズに『天空の犬』『ハルカの空』『ブロッケンの悪魔』『レスキュードッグ・ストーリーズ』『白い標的』『クリムゾンの疾走』がある。山梨県北杜市在住。

判型違い(文庫)

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