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僕の音楽キャリア全部話します―1971/Takuro Yoshida-2016/Yumi Matsutoya―

松任谷正隆/著

1,760円(税込)

発売日:2016/10/31

  • 書籍

どんなにヒットした過去の曲より、今手がけている作品が、僕の最高傑作。

松任谷由実「守ってあげたい」、松田聖子「赤いスイートピー」、ゆず「栄光の架橋」──誰もが一度は耳にしたあのイントロやフレーズは、いかにして生まれたのか。いつの時代も日本ポップシーンのメインストリームで「音」をつくり続ける著者が、アレンジャー、プロデューサーとして、自身の仕事と音楽観の全てを語る。

目次
はじめに
第1章 2016年の音づくり
『宇宙図書館』
ギターもベースも自演でグルーヴを伝える
オールラウンド・プレイヤー・リスト
一緒にやりたかった三人。掛け替えのない三人
すぐれたミュージシャンやエンジニアは風景を見せてくれる
第2章 音楽的暗黒時代
加藤和彦に誘われ、吉田拓郎の「結婚しようよ」でデビュー
ミュージシャンの三重苦に悩んだフォージョーハーフ時代
ユーミンの『ひこうき雲』と吉田美奈子の『扉の冬』
一輪のダリアはディレクターのディレクションへの意見だった
「曇り空」はセルジオ・メンデス&ブラジル'66
マリーナ・ショウの名盤に希望の光を見た
何十年も聴き続けている六枚のアルバム
作品からユーミンに好意を抱く
瀬戸龍介の十二弦ギターが生きた「やさしさに包まれたなら」
「生まれた街で」でアレンジに開眼
家族のように思えたハイ・ファイ・セットと伊藤銀次
映画『妹』とドラマ『家庭の秘密』の音楽
拓郎とユーミンは意見を尊重してくれた
トゲのある音楽よりも等身大で自然体の音楽が好き
誰もが売れると信じていたイルカの「なごり雪」
梶芽衣子のレコーディングで高校時代のCharと共演
第3章 アレンジャー本格化時代
吉田拓郎の後ろ姿に男の夢を感じたつま恋のコンサート
ユーミンのポップ路線を開拓した山下達郎
「JACKSON」の歌唱はドクター・ジョンを意識
跳ねられるガイジン、跳ねられないガイジン
新婚旅行についてきた吉田拓郎とかまやつひろし
細野晴臣とは水と油。だからこそ、いつもおもしろい
ニック・デカロ、マイケル・フランクス、フル・ムーンを意識
大貫妙子の声には湖の底のような不思議な魅力がある
自分名義の作品は苦手と再認識した『夜の旅人』
隠れたヒット作『コンボイ』のテーマ
第4章 エンタテインメント路線開拓期
『昼顔』のカトリーヌ・ドヌーヴをモチーフにした『紅雀』
葉山・逗子の夏のライヴの原点は鎌倉のプロムナードコンサート
影響を受けた五本の映画
ライフスタイルも変えてポップを往く
須藤薫、杉真理とのワンダフル・ムーンは宝物
大滝詠一の『A LONG VACATION』
苗場のリゾート・コンサートもスタート
小学生時代のスキー合宿が苗場のリゾート・コンサートの原点
感動的だった岡田眞澄の「恋人と来ないで」
「守ってあげたい」のコーラスに奇跡の風景を見た
“照明も音楽”。マーク・ブリックマンの仕事で思い知った
頭の中で音を鳴らしてスコアを書いた『PEARL PIERCE』
忙し過ぎてデモテープを聴き込む余裕がなかった松田聖子
聴いてきた音楽はつくる音楽に反映される
「○○風でお願いします」リクエストが似た音楽を大量に生んだ
「破れた恋の繕し方教えます」のルイス・ジョンソンはド迫力
オール・トゥゲザー・ナウとUSAフォー・アフリカ
先端にいたかった一九八〇年代
代表曲は「ラバーズ・パラダイス」
第5章 デジタル混迷期
踊るベーシスト、エイブラハム・ラボリエル
組んではいけない人と音楽をやってしまった
「二番手で行こうよ」
これから訪れる時代を意識して音楽と向き合う
クリストファー・カレルとヴァーチャル3Dサウンドで録音
第6章 今も、そしてこれからも音楽をつくり続ける
売れると思って本当に売れたアルバムは一枚だけ
失敗した演出は絶対にリベンジする
ユーミンのプロデュースのメリットは五一%。デメリットは四九%
ウエストレイクの思い出
「ラバーズ・パラダイス」をモチーフにしたシャングリラ
シャングリラ~帝劇公演は必然だった
「(みんなの)春よ、来い」プロジェクト
ジュンスカのアレンジがゆずの「栄光の架橋」につながった
帝劇公演で脚本と演出を手掛ける
ラストシーンは愛しい
蜷川幸雄晩年の舞台の音楽を手掛ける
死ぬまで枯渇しない
インタヴューを終えて 松任谷正隆

書誌情報

読み仮名 ボクノオンガクキャリアゼンブハナシマス1971タクローヨシダ2016ユミマツトウヤ
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-350481-8
C-CODE 0095
ジャンル 音楽
定価 1,760円

書評

すべてのクリエイターが読むべき、泥臭い音楽家の青春群像劇

北川悠仁

 僕が初めて松任谷さんと仕事をさせていただいたのは、二〇〇四年。ゆずの二十枚目のシングル曲「桜木町」のアレンジをお願いしたときです。
「どんなふうにしたいの?」
 そう聞かれ、「ピアノのイントロから始まる、切ない曲にしたい」という話をしたときに、松任谷さんがおもむろにピアノの前に座り、いくつかのフレーズを弾いてくれました。そのメロディーが本当に素晴らしくて、感動したことを今でも覚えています。その後にリリースされた「栄光の架橋」も同じく、なにげなく弾いたイントロに心打たれ、その場にいた全員がそのメロディーの虜になっていました。
 それから松任谷さんと交流させていただく機会が増え、お正月の時期には松任谷さんの家に遊びに行かせていただいたこともあります。そこではユーミン特製のおせち料理を食べさせてもらったんですが、その場に松任谷さんはいません。どこにいるのかと思えば、寒空の下ベランダで、お取り寄せしたお肉を、お取り寄せした炭で焼き続けて、僕たちに振る舞ってくれていました。そのお肉を出すタイミング、味。それが本当に抜群で。この姿勢って、音楽のプロデュースワークにも通じるところがあるんじゃないかと、美味しいお肉を頂きながらひとり考えていました。
 悩みや葛藤もなく、音楽家としての道をクールに、そしてスマートに歩んできた――。著書『僕の音楽キャリア全部話します―1971/Takuro Yoshida-2016/Yumi Matsutoya―』を読むまで、僕は松任谷正隆さんという人について、勝手にそんなイメージを抱いていました。ところがこの本に描かれていたのは、音楽に対する凄まじい情熱と執念を持った、ある意味で泥臭い、松任谷さんと周囲の音楽家たちの青春群像劇です。
 松任谷さんやユーミンがつくってきた音楽というのは、僕が物心ついたときにはすでに、J-POPのスタンダードナンバーとして世の中に定着していました。でも改めて、ひとつひとつのサウンドに耳を澄ますと、当時は誰もやっていないようなことに挑戦していて、そのつど道なき道を切り開いてきたんだなということがわかります。文中の松任谷さんの言葉で特に印象的だったのは、「チャラくても流行を追いかけることに決めました」「年齢を重ねると、ほとんどの人はオーバーランしなくなるけど、僕は、まだオーバーランかな」の部分。松任谷さんほどの方が、これからも果敢に変わっていく宣言をしていることがすごくかっこよくて。その手にしたい表現への飽くなき探究心に、改めて刺激をもらいます。
 同じミュージシャンとして、強く共感した箇所もあります。松任谷さんが手がけた楽曲に共通して言えるのは、音から風景が見えること。これって実は、僕らの音楽“J-POP”が、いま一番失いかけている部分なんじゃないかなと思います。言葉だけで伝えようとするメッセージ性だったり、デジタルな音作りだったり、はたまた、SNSの進歩だったり。いろんなことが便利になればなるほど、みんながスマホと向き合う時間が増えれば増えるほど、希薄になってきている。そんな時代の中で、僕はそれでも、松任谷さんがつくられてきた名曲たちのように、音から風景が広がるような音楽の良さを受け継いでいきたいと思いました。
 音だけでなく、文中では松任谷さんがプロデューサーとして、ユーミンの内的な魅力を引き出すエピソードが描かれています。そういえば数年前、僕の結婚式のとき、松任谷さんの演奏でユーミンに歌を唄っていただいたんです。その歌は、本当に人の心に突き刺さる――魂で唄っているような歌で。会場に居た、いい大人たちがみんな大泣きしていました。そのときは冷静に考えられませんでしたが、“生身の人間が唄う”というシンプルなことを、本当に大切にしているんだなと、いま振り返ると感じます。
 松任谷さんの作品に触れると、上質なスープが最初は少し薄味に感じるのに、飲み終わると深い満足感を与えてくれるような感覚を受けます。そして、もう一回観たい、聴きたいと必ず思わせられる奥深さが作品の中に秘められているんです。とてもおこがましいんですが、時代は移ろいでも、松任谷さんにはその新しい時代の中で、そんな奥深さを感じさせる作品をつくり続けてほしいです。今を生きるすべてのクリエイターがスローガンにしたい「最高傑作は、常に次の作品です」という言葉通り、松任谷さんが最後まで走り続ける姿を見続けていたい。そして、その少年のような、大人のような背中を、いつまでも追いかけさせてください。


(きたがわ・ゆうじん ミュージシャン)
波 2016年12月号より

インタビュー/対談/エッセイ

音楽はゼロからは生まれない
インタビュー:松任谷正隆

神舘和典

「この本は、インタヴュー形式であることが重要です」
『僕の音楽キャリア全部話します―1971/Takuro Yoshida-2016/Yumi Matsutoya―』出版から数日後、いつも訪れる都内のカフェで松任谷正隆さんが自著をふり返った。
「僕、こんなしゃべり方だったのかな?」
「こんなニュアンスではないはずだよなあ」
 本を読み直して、松任谷さんは感じたそうだ。
「というのも、自分が知る自分は、鏡に映る姿です。だから自伝だったら、よく知っている“鏡に映る僕”がつづられていく。自分の脳に刻まれている記憶が活字になるわけですから。一方、この本の中の僕は聞き手から見た僕です。言い換えると、僕が相手に、あるいは周囲に与えるイメージが活字になっていく。そして、聞き手側の記憶にある僕について質問され、よみがえった記憶もつづられる。実はもう長い間インタヴュー勉強会を主催しているんですが、インタヴューで人をどこまで掘り下げられるかが少し見えた気がします」
 本の中には、自分が知らない自分の姿もあった。
「人はこういうふうに僕を見ているんだな、とね。たとえば、自分が聞く自分の声と、ほかの人が聞いている声って、違いますよね。録音された自分の会話を聞くと、これ、僕なの!? と驚く。あれに近い感覚かもしれません」
 読者からの反応も新鮮だったという。
「一冊の中で興味を持つ箇所も反応も人それぞれ。この本に関するインタヴューをすでにいくつか受けていますけれど、インタヴュアーが訊いてくるポイントはほとんど違います。それはおもしろい体験です。CDに十曲入っているとしたら、好きな曲はリスナーによって違う。あれに似ているかもしれません。予想外だったのは“音楽はゼロからはできない”というくだりへの反応が大きかったことです」
 それは本の中の次のような記述だ。
〈音楽というのはゼロから生まれるものではないんですよ。ミュージシャンにとって音楽は“反応”です。世の中で鳴っている音を聴くだけでなく、映画を観たり、お芝居を観たり、こうしてインタヴューを受けていることも含めて、そこで生まれた感情や頭の中に描いた風景から音楽は生まれます〉
 音楽は脳の奥から自然発生的に湧くものでも、空から降ってくるものでもない。音楽家が見たり聴いたり体験したものが複雑に絡み合い、溶け合い、作品化する。
〈つまり、自分が生きている限り、音楽は生まれるんですよ。ミュージシャンにとっては、呼吸や食事と同じだと思います〉
 インプットがあるからこそアウトプットがあるのだ。
「音楽をやっている人ならわかっていると思うけれど、どんな作品にも、本人が意識していようが無意識だろうが、どこかに音の源泉はある。文学は専門外ですが、小説にも、その作家がモチーフにしている体験や読書経験があるのかもしれません。あるいは、取材だってするかもしれない」
 今回の本で自分のキャリアをふり返り記憶を整理することで、心の変化も再確認できた。
「若いころ、自分の音楽は限られたスモールワールドでしか通じない言語だと考えていました。でも、そうでないと思えた。これだけ長期間、多岐にわたり音をつくってくるとね。今ならば僕がやっている音楽とは別のカテゴリーの、ラップや演歌ともコラボレートできるんじゃないかな」
 実際に新しいフェイズを意識している。
「過去に一枚つくったソロアルバム『夜の旅人』については本でも触れましたが、二枚目をつくろうかな、と思っています。必ずしもこの本で思いついたわけではないですけれどね。時期は二〇一七年、かな。具体的なプランはまだ頭の中にはありません。自分のスタイルを自分で決め込むことはせずに、軽い気持ちで取り組みたい。『夜の旅人』も『僕の音楽キャリア全部話します―1971/Takuro Yoshida-2016/Yumi Matsutoya―』も出来上がってみると、自分の一面だとわかりました。書名とは矛盾してしまいますけれど……。本もアルバムも、その一作だけで自分のすべてを表現するのは難しい。だからといって、何冊もあればすべてが表現できるわけではない。その時その場所にいる自分が記録されるライヴアルバムに近いかもしれませんね」


(こうだて・かずのり ジャーナリスト)
波 2016年12月号より

著者プロフィール

松任谷正隆

マツトウヤ・マサタカ

1951年、東京生まれ。4歳からクラシックピアノを習い始め、14歳の頃にバンド活動を始める。1971年、加藤和彦に誘われ、ミュージシャンデビューを果たし、バンド“キャラメル・ママ”“ティン・パン・アレー”に参加。その後アレンジャー、プロデューサーとして、妻である松任谷由実を筆頭に、松田聖子、ゆず、いきものがかりなど、多くのアーティストの作品に携わる。1986年には主宰する音楽学校「MICA MUSIC LABORATORY」を開校。モータージャーナリストとしても活動し、自他共に認める車好きであり、モータージャーナリストとして日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、AJAJ会員でもある。

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